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コラリー・バローは頭に来ていた。今夜の舞台は最悪だった。歌声は伸びなかったし、ダンスは一度足を間違えてたたらを踏んだ。相手役の男が一瞬苦い顔をしてカヴァーしてくれたのが悔しい。


バックで踊っていたジャンヌの方が、自分より目立っていたような気がする。あの子はダンスはうまいものね。道化役の芝居もイマイチだった。観客にあまりウケなかったわ。きっと失敗したのがばれてる。こんなことばかりあったら、もう客が来なくなるかもしれない。そんなことになれば、劇団はもう終わりよ。


「だいじょうぶ、明日があるよ」


誰かの声が聞こえた。やさしげなギターのような声だ。


「明日やりなおせばいい。おれたちは、いけるやつなんだ」


コラリーは振り向いた。しゃべっているのは、白いだぼだぼの道化服を着た若い男だった。道化のくせにアスパラガスのように背が高い。色白に見えるのは化粧のせいだろう。見たことのある顔だが、名前は知らなかった。劇団が大きくなってきてから入ってきたやつは、あまりよく知らない。コラリーは劇団創立以来の役者で、トップスターだったからだ。


「そうね、そうよ」

と、ほかの役者が受け取った。彼女は青い顔をしていたが、少し目に力が入ってきていた。

「あたし、もう一度練習してくるわ。明日までには完璧にしあげたい」

「あたしもいくわ」

「よーし、それなら」

と、団長のジェロームが手をたたいた。

「みんなでこれから総復習だ。モーリス、スタジオに連絡してくれ。無理にでも開けてもらうんだ」

周囲ががやがやとざわめき立った。失敗で落ち込んだ雰囲気はいつの間にか消えていた。よし、やろうぜ、と太い男の声がした。コラリーも立った。車のキーを取りながら、あそこの駐車場は入れにくいのよねと、ふと考えた。


次の日の舞台は最高の仕上がりだった。前日の失敗が響いたのか、観客は少なめだったが、練習のかいもあり、カーテンコールが熱く響いた。コラリーは満足だった。アンコール用のナンバーを3曲歌い、サービスにウィンクをした。


舞台の裾に下がると、「オッケー、みんな最高だったよ」と、あのギターのような声が聞こえた。コラリーは振り返らなかったが、ほっと安堵の息をついた。もうあんな失敗は二度とすまい。でも疲れているから今日はもうアパートに帰ろう。テキーラでもひっかけて、やわらかなベッドで眠りたいわ。


劇場の外に出ると、月夜だった。白い月が小首をかしげて、コラリーを見つめている。コラリーは微笑んで月を見上げた。コートの襟を立てて、落ち葉の散る駐車場の中を、自分の車を目指して歩いて行った。


「お疲れさま、コラリー」と誰かが声をかけてきた。コラリーもそれを振り向いて、「お疲れさま、また明日ね」と言った。満足だった。きっと、明日も明後日もずっと、この幸福な気分が続くだろう。そうコラリーは思っていた。



(つづく)



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