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昏暁の騎士  作者: グレートアンガー
第2章 宿命の旅立ち
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第34話 謎の戦士たち──4

 フィアとラドレーンと一緒に村の外へ出る。角笛が鳴ったのは昼の神が座す方向、つまり鱗拾いの広場だった。そして、襲来した夜獣は。


「おいおい……」


 思わず呆れの声が漏れてしまう。イラガルムの群れといい、ラディアバスといい、やはり最近なにかおかしい。明確な悪意がミュリデを狙っているような気がする。


 広場を埋め尽くしていたのは数え切れないほど多種の夜獣たちだった。本当に統一性がない。


 夜の世界から昼の世界にやってくるには、星を南北に分ける山脈を越える必要性があり、それを俗に『昏暁越(こんぎょうえつ)』という。


 昏暁越を果たすには陸海空の手段がある。陸路は、巨人族が太古の時代に山脈西部に築いた昏暁門を通ることなのだが、現在はある強大な竜が門を縄張りにしているため難しい。


 よって現実的なのは海路と空路。陸海両方に適応できる夜獣は少ないので、実際に昼人を襲う夜獣は空路を通ってきたもの、つまり翼をもつものがほとんどだ。


 その、はずなのに。


「ありゃトレントか? ミノタウロスもいる。マンティコアも。翼のないやつが多すぎる」


 前のイラガルムもそうだ。本当ならここに来れるはずがないのだ。いや、そもそも最南のミュリデを狙う理由がない。あのラディアバスがそうだ。だというのに、現実として彼らはミュリデを襲い、今再び攻撃を仕掛けようとしている。


 まるで、誰かがそう差し向けているかのように。


 あの騎士の姿が頭をよぎる。馬鹿げた考えだ。たったひとりの人間が、これだけの数の夜獣を、あれほど強大な竜を操れるわけがない。


「大したもんだ。いつもこうなのかい?」


 ラドレーンが尋ねてきた。


「いや、最近になってからだ。今まで……少なくとも5年はこんなことはなかった」


「最近、か……」


 ラドレーンは意味ありげに顎に手を当てた。そうして少しの間考え込むような仕草をしたあと、パッと顔を上げてフィアを見た。


「君も戦力になると考えて?」


「もちろん。これでもわたしはけっこう強いんだ」


 フィアは自信ありげに言った。たしかに、あの白い炎の威力はすさまじい。群れたザコを処理するのにあれ以上の攻撃はないだろう。だが、大事なことを忘れている。


「夜だぞ、今」


「……あ」


 そう、夜のフィアはそれほど役に立たない。白炎も防壁も出せることは出せるが、威力も強度も大幅に落ちる。おれと同じだ。


「おまえは後方で援護な」


「はーい」


 消沈したフィアは素直に下がっていった。あとは──。


「俺様たち、参上!」


 大声が耳朶を打つ。声のほうに目をやると、おれと戦った3人が立っていた。


「遅いよ馬鹿ども。アインくんにやられて寝てたのか?」


「面目ない」


 槍兵はすぐに詫びたが、斧使いと弓兵はふてくされた様子だ。なんとなくこの4人の関係が見えてくる。


「さて、それじゃあやろうか」


 ラドレーンが長剣を抜き放つ。それに合わせて3人も各々の得物を構える。おれも雷を纏い構えを取る。


 まず、3人の戦士が、夜獣の群れめがけて殺到した。


 斧が怪木トレントを両断し、槍が牛人ミノタウロスの目を射貫き、槍が蠍獅(かつし)マンティコアの喉を貫く。


 三位一体の戦士たちは自在の矢となって戦場を駆け巡っていく。その勢いはすさまじく、ちょっとやそっとの攻撃では止まりそうにない。


 思っていた通りだ。対人慣れはしていていないが、獣狩りなら相当の腕前だ。駆け引きという概念をもたない相手を殺すことに特化した戦い。


「おーおーはしゃいでるなあ。僕も気張らんとね」


 そう言うと、ラドレーンは酒瓶を片手に悠々と歩き出した。一見すると無防備だ。このまま進めば、簡単に夜獣の牙にかかりそうに見える。


 だが、違う。おれには分かる。あれは一種の構えだ。


「ギャシャアァァァ!」


 群れの奥から金属をすり合わせたような鳴き声が飛び出してきた。ほかの夜獣よりもふた回りほど大きい赤色のサソリ。砂漠地帯に生息する夜獣、炎蠍(えんかつ)ビシム。


 尻尾の先には毒針ではなく筒がぶら下がっており、そこから炎が噴出する。それはまっすぐにラドレーンへ襲い掛かり──。


「よっと」


 しかし、酔っ払いのような動きでかわされた。そのままゆらりと長剣を掲げ、一閃。


 ビシムの頭部はあっけなく切り落とされ、その体は力を失い砂地に横たわった。


 やはり強い。ビシムはそれなりに強力な夜獣だが、余裕がある。


 おれも負けていられない。


「フィア」


 防御頼む。それだけ言い残して走り出す。すぐに半透明の防壁がおれを覆った。昼間のそれよりも遥かに弱々しい壁。だが、これで十分。


 紫電が両足に力を与える。一条の雷となって群れに突貫する。手が、足が、振るう雷が、獣を次から次に屠っていく。


 結局、最初はそれなりに時間がかかるかと思われた夜獣の群れはあっという間に殲滅された。


「さすがだ。竜殺しは伊達じゃないらしい」


 戦いを終えて、ラドレーンが話しかけてきた。血糊をぬぐう所作には慣れた感がある。


「でも、君も苦労するね。僕らが言えたことじゃないけど、強いとそれだけおかしなやつを呼び寄せる」


「おかしなやつ?」


 聞き返すと、ラドレーンはやや声を落として言う。


「君についてミュリデの外で調べまわっていたとき、同じように君を嗅ぎまわっている人物がいるという話を聞いた。気を付けなよ」


 それだけ言って、ラドレーンは戦士たちを引き連れ夜警を始めた。もうおれの仕事は終わりだ。あとはフィアと家に帰って眠るだけ。


 ただ、おれを嗅ぎまわっているという人物とあの騎士が、頭の中で強固に結びついて離れない。

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