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昏暁の騎士  作者: グレートアンガー
第2章 宿命の旅立ち
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第31話 謎の戦士たち──1

 フィアが攫われた。その事実を前にして、おれは自分で驚くほど冷静だった。


 というか、怒りが閾値を越えてしまったらしい。脳みそが冷たい鉄の塊になってしまったようだ。


「先に言っとくが、素直にフィアの場所を吐くなら痛めつけないでやる」


「それはできない相談だ! 俺様はおまえと戦うためにここにいる!」


「そうか……」


 どうやら戦いは避けられないらしい。目の前の戦士を分析する。


 かなりの大男だ。おれより頭3個分はある。全身フルプレート。バカでかい斧。いかにも力自慢といった風体。


「では、参る!」


 戦斧が横なぎに振るわれる。力強い一撃だ。狙いもそれなりに正確。まあ、見るべき点はある。だが。


「遅えよ」


 当たれば必殺だろうと、見えてしまえばダメだ。おれは飛び上がり、斧刃の上に着地した。


「ぬ!?」


 さしもの力自慢といえど、得物の先端に乗っかられたのでは支えられない。斧が地面に突き刺さる。


「しッ──!」


 すかさず柄の上で踏み込む。アッパー気味の右ストレート。戦士の兜がひしゃげた。


「ぬおお!」


 戦士はたたらをふんで後ずさった。頭がついているかを確かめるように両手で兜を触っている。


「おおお、生きている! ガハハ、首から上を吹っ飛ばされたかと思ったぞ」


「拷問するって言ったろ。殺しゃしねえよ」


「ふむ、では手加減してこれか。恐ろしい男よ!」


 では、俺様も本気でいこう。戦士はそう言って戦斧を構えなおした。なにかする気か。その一挙手一投足を見守る。


 が、結果は肩透かしだった。


「……なんだそりゃ」


「これぞ、俺様の必勝の構え! その名も大上段!」


「そのまんまじゃねえか」


 戦士は頭の上に戦斧を掲げ仁王立ちしている。おおかた鎧で一撃耐え、その反撃に必殺の振り下ろしを見舞うという腹積もりなのだろう。


 だが、おれには通用しない。がら空きの顎に一撃入れて、確実に昏倒させる自信がある。


 もう付き合っていられない。戦士に向かって疾駆する。


「──ッ」


 その刹那、悪寒。急ブレーキをかけ後ろに飛びのく。


 ドガン! 戦斧が振り下ろされ、地面に深々と突き刺さった。攻撃を受け止めてのカウンターではない。おれが懐に飛び込むタイミングに完璧に合わさった一撃だ。


「反射神経にもの言わせてるわけか」


「おお、俺様の必殺技を一発で見破るとは!」


 防御を捨てた構えを取り、先手を取ろうとした相手を優れた反射神経で無理やりに仕留める。まあ、理にかなっていると言えばそうかもしれない。


「でもなあ……」


 再び戦士に向かって疾駆する。しかし、今度は少し違う。


「おおお!」


 戦斧が振り下ろされる。それはおれの──つま先を掠めて、地面に突き刺さった。


「ふッ」


 右ひじを顎に打ち込む。脳を揺らされた戦士は、いとも簡単に崩れ落ちた。


「まあ、こうなるよなあ」


 確かに素晴らしい反射神経だ。だが、体が勝手に反応してしまうのを止めるのは難しい。まんまとおれの出した釣り餌に引っかかってしまった。


 こんなあからさまなフェイントに引っかかってしまうあたり、なんというか、対人慣れしていない感じがする。これはひょっとすると──。


「おい、起きろ」


 うずくまっているのを蹴り起こす。


「はッ! お、俺様は──」


「負けたんだよ。おれがその気なら死んでたぞ、おまえ。……で」


 無理やり兜を脱がす。予想通りむさくるしい顔が出てきた。ひげ面のおっさんだ。


「なんとなく、おまえらの正体とやりたいことはわかった。けど、面倒だから付き合う気はない。さっさとフィアの場所を言え」


 そう言って耳を掴む。舐めた態度を取ったら引きちぎってやろう。


「ざ、残念だが俺様はフィア嬢の居場所を知らん。しかし──」


「嘘つけ」


「痛い痛い痛い! 本当だ! こ、これを見てくれ!」


 耳を引っ張られながら、戦士は首元から1枚の紙を取り出した。


「なんだこれ」


 何か書いてある。村の地図のようだ。印がひとつ。


「そこに次の戦士がいる! そいつを倒せばまた次の戦士の場所がわかる。それを繰り返せば、フィア嬢のもとにたどり着けるだろう!」


「なるほど……。何人も間に挟んでるから、おまえは本当にフィアの場所を知らないと」


「その通りだ! だから耳をひっぱるのは──痛たたたた! ちぎれるちぎれる!」


「はあ……」


 しぶしぶ耳から手を離す。どうも本当らしいし、おれの予想が正しければこいつらにフィアを傷つける意図はない。


「付き合ってやるか……」


 おれは地図を受け取り、印の地点へ向かって歩き出した。

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