忘れられた英雄
初日こそ、コボルト達の襲撃を受けるも、二日目、三日目と何事も無く経過した。 二日目からは楽器の練習を一時間ずつ行い、〈吟遊詩人〉のポイントは150ポイントになっていた。 四日目になり、馬車の中から景色を眺めていると廃墟となった城の跡地が見えてくる。
『皆んな、見てごらん。 かつてあそこには栄えた国があったのだけど、魔族と呼ばれる神と敵対する強大な力を持つ魔物によって壊滅寸前に追い込まれたという伝承が残っている。 国を襲った魔族も、その国一の槍の使い手と呼ばれた騎士との戦いで最後は相打ちとなり倒された。 王族の中で唯一、生き残ったお姫様は国を守る為に命を落としたこの騎士を英雄として祀ったそうだよ。 廃墟となった今でも、この騎士の墓を一目見ようと訪れる人が多く、ちょっとした観光地になっているんだ。』
ハープさんにその話の続きを聞いていると道は城の跡地のすぐ横を通る形で続いている。
『皆さんも興味があるようでしたら、休憩がてら立ち寄ってみましょうか?』
馬車主のチューバさんの提案で、俺達は城の跡地を訪れる。
『あの壊れた墓に魔族を倒した英雄が眠っているとされてるんだ。 何百年もの年月が過ぎている為、英雄の名前も今はわかっていないんだ。 せっかくだし、その英雄譚が元となった曲があるので、皆んなに聴かせてあげよう。』
ハープさんが演奏を初めると、英雄をイメージした力強いメロディとリズム感によって、魔族との緊迫した戦いの情景が伝わってくるようだった。 俺達がハープさんの演奏に聴き惚れていると、アルトが俺に囁いてくる。
『ラッキー、英雄と呼ばれた騎士の霊がハープさんの演奏に反応して姿を見せているの。 向こうで話をしてみるから、休憩時間を伸ばしておいて!』
俺は皆んなに気づかれないよう休憩時間を伸ばしてもらうよう提案する。
〜アルト視点〜
騎士の霊は、私が存在に気づいている事を確信しているみたいで、離れた場所から私を手招きしてくる。 ラッキー達から見えない場所に移動すると、騎士の霊が私に話しかけてくる。
『まさか、三百年もの歳月を超えてあの時の事を思い出させてくれるとは…私は騎士のフリューゲルという者だ。 お嬢さん、君はネクロマンサーの力を持っているのだね。 私が死んだ後、魔族との戦いはどうなったのか、そして私が想いを寄せていた姫君は戦禍の中、生き延びる事ができたのか、ずっと心残りになっていたんだ。 どうか真実を教えてくれ!』
『私も吟遊詩人の同行者から聞いた英雄譚の話についてしか情報がわかりません。 真実を知ってもらえるよう、今からこの地に眠る、お姫様の霊に呼びかけてみます。』
私は魔力を最大限まで高めると、お姫様の霊を呼び寄せる事に成功する。
『おぉ、姫よ。 魔族との戦いで貴方を守る事が出来ず申し訳ありません…』
『何をおっしゃるのです、フリューゲル。 貴方が命をかけて魔族を倒してくれたおかげで、私や多くの国民の命が守られました。 ずっとあなたに会って感謝の気持ちを伝えたいと思っていました。 身分の違いで叶わぬ恋でしたが、短い時間とはいえ最後にまたあなたと会えて私はとても幸せです。 本当にありがとう。 大好きなフリューゲル…』
お姫様の霊は幸せそうな表情を浮かべて成仏する。 光となって消えていくお姫様を、フリューゲルさんは涙を流しながら見送っている。
『ありがとう、お嬢さん。 君のおかげで姫君と会う事が出来た。 君に恩返しをしたいので、ネクロマンサーの能力で私の力を活用してくれ!』
こうしてフリューゲルさんが新たに私の〈憑依〉の対象として仲間に加わってくれた。
〜アルトの視点終わり〜
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