バンシー
村長さんに湖までの行き方を教えてもらい、俺達は湖に向かう。 フラットとザックスは周りとの連携経験が浅い為、今回は馬車の周りに待機させている。
『ウィルオーウィスプよ、周りを照らして!』
湖に向かって進んでいくと辺りはすっかり暗くなった為、アルトが周りを明るくする。 湖が見えてくると、村長の情報通り女の人の鳴き声が辺りに響いてくる。
『私の予想だが、この声はバンシーによるものだと思う。 アルトさん、君の力で何か分からないかい?』
『確かにバンシーの気配に感じます。 もしバンシーだった場合、物理攻撃は通じません。 それとバンシーの鳴き声を長時間聞き続けてると徐々に生気を吸い取られて死ぬと言われています。 村人達を助けないと…私の力でバンシーを支配出来れば御の字だけど、無理だった場合はラッキー、奥の手を使って助けてね。』
『何か策があるんだね。 ここはアルトさんに任せるが、くれぐれも無理をしないよう気をつけてくれ!』
湖の前に着くと、予想通りバンシーが現れる。 こちらに気づいたバンシーはトラバスさんに掴みかかろうと襲ってくる。
『危ない! ウィルオーウィスプよ、バンシーを攻撃して!』
ウィルオーウィスプの電撃を浴びたバンシーは苦痛にのたうち回る。
『皆んな、バンシーに触れられると〈エナジードレイン〉の効果で生気を取られるわ、距離をとって!』
俺達はバンシーから距離をとると、バンシーは起き上がり、恐ろしい表情を浮かべてアルトのほうに向かっていく。 アルトは俺に目で合図し、俺も万が一に備えて死霊にも効果がある〈光魔法〉を出せるよう集中する。
『バンシーよ! 我が魔力によって従い、我が眷属となれ!』
アルトは全身からありったけの魔力を使ってバンシーを支配しようとするも、バンシーも必死に足掻いている。 長い格闘の末、恐ろしい表情を浮かべていたバンシーが生前の姿であったであろう、美しい女性に姿が変わるとアルトの前に跪く。
『はぁ、はぁ、なんて抵抗力、あと五分続いていたらこちらがやられていたかも…』
そのままアルトは倒れ込んでしまう。
『大丈夫か、アルト!』
皆んなで駆けつけるとアルトは倒れたままだがブイサインを返してくる。
『なんとかね。 でもしばらく動けそうにないから村に戻るまで私の事を運んでね。』
『君が優秀なネクロマンサーである事は理解しているつもりだけど正直、心配してしまったよ。 それと助けてくれてありがとう! これからも頼りにしているよ。』
俺がアルトを背負うとする間も与えず、テナーがアルトを背負って歩き始める…頼りになりすぎだろ。
こうして村で起きてた問題を解決した俺達は村の人達に歓迎され、食事までご馳走になった。 余談だが、村長の話だと何年か前にこの村にいた一人の女性が夫と子供も流行り病で亡くし湖に身を投じた事があったという。
『ひょっとしたらその時の女性がバンシーになったのかもしれないね。 これからは私達がずっと一緒に過ごすからあなたはひとりぼっちじゃないよ。』
バンシーに話しかけるアルトの優しさに俺は心を打たれていた。
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