表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ROBOT  作者: りん
3/4

【2】②

「ねえ、……。里玖さんてまだ私と付き合いたいと思ってるのかな? それで、──もしまた申し込まれたら、お受けしてもいいんでしょうか?」

 帰宅するなり、恵は着替えもせずにベッドに腰掛けてロボットのスイッチをONにして問いを投げた。


 ピピピ、キュイ……キュ……


ハイ(はい)


カレハアナタヲ(彼はあなたを)トクベツニ(特別に)オモッテイマス(思っています)


ダレヨリモ(誰よりも)タイセツニシタイト(大切にしたいと)タイミングヲ(タイミングを)ミハカラッテイマス(見計らっています)


コクハクサレタラ(告白されたら)ウケルノガイイト(受けるのがいいと)オモワレマス(思われます)


 明瞭で具体的な回答。

 本当にすごい。このロボットは、……製作者の里玖は。

 そんな人が恵を求めてくれているのなら、その通りにすればいいのではないか。なんの取柄もない自分が、彼に楽しい時間を与えられるのならそれだけで。

 不意にベッドのシーツの上に放り出していたスマートフォンが通話着信を知らせた。視線を向けたディスプレイには「渡部 里玖」の文字。


「はい! 里玖さん──」

『恵ちゃん? 今ちょっとだけ話してもいい?』

 気遣ってくれる里玖に抗う気など最初からない。


「ええ、どうぞ」

『往生際が悪くて申し訳ないんだけど。無理なら断ってくれていいし、これで本当に最後にするから。……俺と付き合ってもらえないかな? 特別な、恋人として』

 心臓が鷲掴みにされたような気がした。

 どうして今。まるで恵の心を読んだかのようだ。しかしもう気持ちは決まっていた。ゆっくりと息を吸って、一瞬止めて。


「……はい。あの、私なんかで良ければ。どうぞよろしくお願いします」

 静かにそう答えた恵に、里玖の声が喜びの色を帯びたのが伝わって来る。


『恵ちゃん! えっと、明日会える? 俺の家に来ないか? ああ、いきなりは嫌かな?』

「いいえ。伺います」

 もう迷いなどはない。この人が恵の特別な人になるのだから。


『じゃあ明日。いつもの待ち合わせ場所で。食事してからうちに来てよ』

「はい、わかりました」

 通話を終えて、スマートフォンを持ったまま目が泳いでしまう。まるで夢の中にいるかのようで落ち着かない。

 明日、いや今日から恵の恋人になった彼。

 あんな素敵な人が、何もできない恵を選んでくれるなんて夢のようだ。


「ねえ、夢じゃないわよね? 本当にこれで良かったのかな。……里玖さんは、私、で──」


モチロンデス(もちろんです)


コレハゲンジツデス(これは現実です)


スベテウマク(すべて上手く)イクデショウ(行くでしょう)


 無意識に話し掛けた恵に、ロボットは感情の籠もらない「声」で返して来た。

 これは、現実。

 才能と自信に溢れた彼と共に過ごす時間を重ねれば、恵も少しは自信が持てるようになるかもしれない。なんでも無条件に頷くだけの人生から、一歩踏み出せたらどんなにいいだろう。

 そう、明日からは今までとは違う生活が待っている。幸せが約束されたようなものだ。

 恵の目には欠点など一つも見当たらない里玖に選ばれたことで、本当に「素敵な人間」に近づける気がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ