【2】②
「ねえ、……。里玖さんてまだ私と付き合いたいと思ってるのかな? それで、──もしまた申し込まれたら、お受けしてもいいんでしょうか?」
帰宅するなり、恵は着替えもせずにベッドに腰掛けてロボットのスイッチをONにして問いを投げた。
ピピピ、キュイ……キュ……
【ハイ】
【カレハアナタヲトクベツニオモッテイマス】
【ダレヨリモタイセツニシタイトタイミングヲミハカラッテイマス】
【コクハクサレタラウケルノガイイトオモワレマス】
明瞭で具体的な回答。
本当にすごい。このロボットは、……製作者の里玖は。
そんな人が恵を求めてくれているのなら、その通りにすればいいのではないか。なんの取柄もない自分が、彼に楽しい時間を与えられるのならそれだけで。
不意にベッドのシーツの上に放り出していたスマートフォンが通話着信を知らせた。視線を向けたディスプレイには「渡部 里玖」の文字。
「はい! 里玖さん──」
『恵ちゃん? 今ちょっとだけ話してもいい?』
気遣ってくれる里玖に抗う気など最初からない。
「ええ、どうぞ」
『往生際が悪くて申し訳ないんだけど。無理なら断ってくれていいし、これで本当に最後にするから。……俺と付き合ってもらえないかな? 特別な、恋人として』
心臓が鷲掴みにされたような気がした。
どうして今。まるで恵の心を読んだかのようだ。しかしもう気持ちは決まっていた。ゆっくりと息を吸って、一瞬止めて。
「……はい。あの、私なんかで良ければ。どうぞよろしくお願いします」
静かにそう答えた恵に、里玖の声が喜びの色を帯びたのが伝わって来る。
『恵ちゃん! えっと、明日会える? 俺の家に来ないか? ああ、いきなりは嫌かな?』
「いいえ。伺います」
もう迷いなどはない。この人が恵の特別な人になるのだから。
『じゃあ明日。いつもの待ち合わせ場所で。食事してからうちに来てよ』
「はい、わかりました」
通話を終えて、スマートフォンを持ったまま目が泳いでしまう。まるで夢の中にいるかのようで落ち着かない。
明日、いや今日から恵の恋人になった彼。
あんな素敵な人が、何もできない恵を選んでくれるなんて夢のようだ。
「ねえ、夢じゃないわよね? 本当にこれで良かったのかな。……里玖さんは、私、で──」
【モチロンデス】
【コレハゲンジツデス】
【スベテウマクイクデショウ】
無意識に話し掛けた恵に、ロボットは感情の籠もらない「声」で返して来た。
これは、現実。
才能と自信に溢れた彼と共に過ごす時間を重ねれば、恵も少しは自信が持てるようになるかもしれない。なんでも無条件に頷くだけの人生から、一歩踏み出せたらどんなにいいだろう。
そう、明日からは今までとは違う生活が待っている。幸せが約束されたようなものだ。
恵の目には欠点など一つも見当たらない里玖に選ばれたことで、本当に「素敵な人間」に近づける気がした。