第八話 逃げた鍛冶師は根性を叩き直される
鍛冶屋の主はというとホロビーユック王国から逃亡しドワーフの居る銀鉱山へと脚を運んでいた。
「ふう、やっと着いたわい。 本来ならマーカスに行かせておるが早めに逃げたからな、此処の鉄さえ分けてもらえれば他の土地でも問題無く鍛冶師の仕事が出来るじゃろう。」
「何だ貴様?」
「おお済まない、急な用事でな鉄を分けてはもらえんじゃろうか。」
「あ? 何言ってるんだ!? 貴様なぞ知らん、国へ帰るんだな。」
小さな身体でヒゲの生えた男のドワーフが出てくると鍛冶屋の主に対して嫌そうな表情を浮かべ国へ帰る様に促す。
「そこを何とか頼む、何時もはマーカスとか言うクズに頼んで取りに来てもらっていたからなわしの顔は分からんでも無理はない。」
「あ? お前今なんつった?」
「わしの顔は分からんでも……」
「その前だつってんだろ! 聞き捨てならねえクソみてえな言葉が聞こえてんだよクソジジイ!!」
「マーカスのことか?」
「マーカスさん、……だろ?」
「さんなんて付ける訳ないじゃろ、わしの方が年上で偉いのだからな。」
「ケッ、とんだクズ野郎だな。 マーカスが無条件でワシらの鉄を受け取りに来る訳無いだろ!? 交換条件も知らねえ色ボケジジイにやる鉄なんざねえよ帰りな!!」
「なっ! ま、待ってくれ!! 此処の鉄は質が良いんだ!! マーカスを悪く言ったことは謝るから、条件を聴こうじゃないか!!」
(マーカスなんて仕事も出来ねえ癖にこう言うとこで余計なことしてんじゃねえよ、おかげで苦労すんじゃねえか!)
マーカスを呼び捨てにしクズ扱いしたことでドワーフ族の機嫌を損ねた鍛冶屋の主は縋り付く様に思ってもないマーカスへの謝罪を述べる。
「ふん、信用ならんな。 ならお前さん、鉄は打てるか?」
「当然だろ、鍛冶屋を何年営んでおると思っておる!」
「なら、着いて来い! 貴様の様な右も左も分からんような馬鹿が鍛冶師なんて世も末だ!」
(手豆すら出来てねーうえに手に残る火傷の痕すら何十年も鉄を叩いて無いなら納得のいく腕の細さだな。 こいつまともに鉄なぞ打てないのは分かりきってはいるが馬鹿には身体で指摘してやらねーと鍛冶師の過酷さんて分からねーだろうしな。)
鉱山内部へとドワーフ族に連れられ、鍛冶屋の主は溶鉱炉の近くに座らされる。
「あー、なるほどわしの腕を見たいと言う訳じゃな?」
「ろくに鉄も打てぬ輩に渡しては勿体無いからな。」
「そこまで言うなら見せてやろう、五年くらい鉄を打ってなくとも才能でカバー出来るところをな。」
ドワーフ族は鍛冶屋の主に錆びて穴の空いたうえにひしゃげた鉄板を渡し鍛冶の技術を確認する。
「そら、早う打たんか!」
「分かっとるわい! そりゃあ!!」
鍛冶屋の主は無闇矢鱈にハンマーを振り下ろしカンカンと音を鳴らし鉄板を真っ直ぐにしていく。
(はあ、やはり自信だけの無能か……マーカスならば先に錆を落とし、穴を塞ぐくらいの修復用の鉄板を打った後に綺麗に修復出来るがこやつは駄目だな。)
「どうよ?」
修復された鉄板は錆が残り見栄えの悪い粗悪品となりドワーフ族は心底呆れ果て、鉄を渡す気にもなれなかった。
「馬鹿かきさま、錆すら取らずに何が修復だ! その腑抜けた頭と根性叩き直してやるから覚悟しろ!!」
「へ?」
代わりに鍛冶屋の主を一から鍛冶と言う物を教えてやろうと鉱山に閉じ込める。
「ま、待て! わしは鉄を取りにだな。」
「喜べ、鉄なら好きなだけ叩かせてやる! ただし、鍛冶を理解するまで鉱山からは出さないがな!!」
一方、マーカスは翌朝サーリャと朝を迎え朝食を摂りエルフの里から旅へと出発する。
「もう行ってしまうのじゃな。」
「ええ、俺は他の国への旅行をして疲れを癒すので。」
「なら、私も同行しよう。 もしものことなどありはしないとは思うがどうだろうか?」
「構わないぞ、サーリャも一緒に旅をしようか。」
「そう言ってもらえて助かる。」
俺達四人は次の場所へと馬車で旅に出ると暫くしてエルフの里の近くにホロビーユック王国の者達がマーカスを探しにやって来るがエルフ族は矢を射り進むのを止める。
「止まれ! この先エルフ族の里と知ってのことか?」
「エルフ族だあ? 知らねえよ、オレ達はマーカスのクズ野郎に用があんだよ!! 邪魔するならぶちのめ……ぎゃあああああああ!!」
「ガメス!?」
ガメスはマーカスをクズ野郎扱いしたことで膝に矢を受けてしまい地面に転がる。
「ちょっと何するのよ!?」
「マーカスをクズ呼ばわりするからだクズ野郎! ますます通す訳にはいかないな!!」
「こんな森燃やし尽くして……そうだった、魔法使えなくなってるんだった!」
「わ、わしはホロビーユック王国の国王じゃ! 王族のわしに免じて此処を通してはくれんか?」
「駄目に決まってるだろ! 国王だから何だ!! 恩人を馬鹿にされて機嫌を損ねない種族が居る訳が無いだろ!!」
「くっ、仕方ない遠回りするぞ。」
ガメスはブチッと矢を引き抜くとエルフの里から迂回しマーカスのところへと移動する為、危険なモンスターが潜む洞窟へと入って行く。
「くそ、あのエルフ族めマーカスの何処が恩人なんだ!? まだ膝が痛むぜ!!」
「ガメス様、本当に此処通るの?」
「ううむ、此処くらいしか迂回ルートは無いからの。 仕方ないぞ。」
「並の冒険者なら一度入れば最後、帰って来た者が居ないと言われている洞窟ダンジョンだがオレの実力でどうにかなるだろ?」
「流石はガメス様ね、魔法が使えなくなった私じゃ役に立たないから任せるわね。」
「おお、任せとけ!」
ガメス達は薄暗い洞窟へと松明を用意し入って行くと所々に人の骨や敗れた荷物が落ちており何名か犠牲になったと思われる光景が眼に入る。
「亡骸だらけだな、所詮は自分の力に自惚れた馬鹿な奴らだろうな。」
「そうよね、自分の実力も分からない様な人達が冒険者なんてやらなきゃこうはならなかったのに可哀想ね?」
イレーネはイライラしてたのか冒険者の亡骸へと足蹴りすると骨が立ち上がりイレーネに襲いかかる。
「きゃあああああああああ!!」
「こいつイレーネから離れろ!!」
「ちょっ! 痛い、骨が当たって痛い!!」
「お、おい……奥から大量のスケルトンが近付いて来とるぞ!?」
「何だって!?」
カシャカシャと音を立て大量のスケルトンがガメス達へと襲いかかる。