第三話 料理長失格
ケチールの屋敷にて本日は息子のハラワンの見合いの為に一流レストランへと向かっていた。
だが、そのレストランではマーカスが居なくなったことにより買い出しに行くのも皿をまともに洗う従業員が居らず大変なことになっていた。
「おい! ケチール様に出すロブスターが無いぞ!! 買い出しはどうした!?」
「買い出しなら貧乏人が……」
「はあ!? 何言ってんだ!! あいつはもう居ねえよ!! 時間が無いから、さっさと買って来い!!」
「わ、分かりました!!」
従業員は慌てて店を出ると食材の買い出しに行く。
「ロブスターかい? 売り切れだよ、あの貧乏人が居た時は質の良い物ばかりあったけど何一つとして品質は下がった物ばかりさ。」
「げっ、野菜も虫食いばっかで魚も腐ってる!?」
「で、どうするんだい? 似たようなのはザリガニくらいしか無いよ?」
「仕方ないな、じゃあザリガニで。」
「毎度あり。」
従業員は大量のザリガニを買い店に戻ると店内にはハラワンともう一人お見合いの相手だろうかブロンド色のウェーブのかかった長髪の女性が向かい合って席に座っている。
「遅いぞ! ……って何だこりゃ、ロブスターはどうした!?」
「売り切れで代わりにザリガニを……」
「ザリガニなんて調理したこと無いぞ!? くそ、仕方ないザリガニもロブスターも似たようなもんだバレなきゃ問題ねえ。」
料理長はザリガニを調理すると臭みが店に広まり女性は鼻を摘み不快感を示す。
「なんですの、この臭いは?」
「君の為に特別な料理を作ってもらっているからね、今は臭みをとっているところだろうね。」
「そう? わたくしには死んだザリガニでも焼いてるかの様に感じるわ?」
「まさか、それより」
一方、厨房では料理長は卵を取り出しフライパンへと割り落とすと中身が変色しており完全に腐っていた。
「うっ、この卵腐ってやがる!? 殻も入っちまった!? ええい、焼けば殺菌出来る臭いは香水でどうとでもなるだろ! おい皿を出せ!!」
「料理長、汚い皿ばかりが残ってます!!」
「はあ!? お前毎回ちゃんと洗ったっつってたろが!! 何で全部汚れてんだよ!!」
「ですが、今更綺麗に洗ってる暇無いですよ!!」
「くそ、貸せっ!」
料理長は従業員から皿を取るとザリガニと腐った卵を使った見た目だけは高級そうに見える残飯を盛り付け香水で臭いを誤魔化すとハラワンと女性の元へと持って行かせる。
「お待たせしました。」
「良い香りだ、流石は高級レストランだな。」
(なんだか香水みたいな香りするが、高級な物を食べた事無いがこんなものなのか?)
「なんですの……これ……?」
「ロブスターを使った料理だよ、さあ食べようか。」
(これ、ロブスターじゃありませんわ。 それにこの臭い、香水? 卵もあきらかに色が違いますし腐ってる!?)
ハラワンは汚れた皿に盛られた残飯を口にすると眉をしかめながらも高級料理がこんなものだと信じてやまず食べ進めていく。
「ん……? 独特な味がするね、舌が痺れる様な鼻を突く様な……ユフィ、食べないのかい? ロブスターは嫌いだった?」
「まさか、ここまでケチとは思わなかったわ!」
「え?」
「こんな酷い店に呼ぶなんて最低! わたくしの眼を誤魔化せるとでも思ってまして? どう見てもザリガニじゃない!! 卵も腐ってるし香水で臭いも誤魔化してるだけでなく皿も汚れがあって不衛生!! この話は無かったことにさせてもらいますわ!!」
「ま、待って! え、何で!?」
ユフィと呼ばれた女性はハラワンに愛想を尽かし席から立ち上がり店から出ようとするとハラワンに止められるが邪魔と言わんばかりにビンタする。
「待ってくれ! これは何かの間違いだ!!」
「邪魔ですわ、退きなさい!」
「ぶべらっ!!」
「ふん、お父様が勝手に決めた婚約者がこんなドケチとは思いませんでしたわ! ユウフック王国に帰らせてもらいますわ、それに何時もマーカスおじさまを馬鹿にして前々から気に入らなかったのよ!! 今度マーカスおじさまに会ったら娶ってもらえないか話しましょう。」
「はあ!? あの貧乏人の何処が良いんだよ!! どんだけ年が離れてると思って……」
「年の差なんて関係ありませんわ! 貴方には分からないでしょうね愛に年の差なんて関係無いこと、さよなら。」
「そんなあ……」
ユフィは怒って店から出て行くとハラワンは厨房へと向かい怒鳴り声を上げる。
「おい! どうなってんだふざけんな!!」
「料理長! ハラワン様がお怒りです!! 料理長?何処に!?」
料理長は既に従業員をおいたまま自分だけ店から逃げ出しておりハラワンの怒りの矛先は従業員に向けられる。
「お前のせいでお見合いが台無しじゃないか! どう責任取ってくれんだ!?」
「待って! オレはただの従業員だから!!」
「従業員だから何だ!! こんなもん食わせ……うぐっ……!?」
「?」
ハラワンは従業員の胸ぐらを掴み持ち上げ殴る寸前、ぐぎゅるるると腹を下しトイレの場所を訪ねる。
「おい……トイレは……何処だ……?」
「厨房から出て左側です。」
「厨房から出て左だな? 逃げんじゃねえぞ?」
従業員の胸ぐらから手を離すとハラワンはトイレへと駆け込み用を足す。
「い、今の内に逃げなきゃ!」
ハラワンがトイレで腹を下している間に従業員は逃げ、トイレには紙が無く出ようにも出られない状況になってしまう。
「嘘だろ、この店トイレに紙すら置いてないのかよ!?」
それもそのはず、トイレ掃除や買い出しなどの雑用も全てマーカスが行っていたため紙が無くなっていても従業員や料理長が変えることが無かったのだ。
「おい紙はどうした!? 持って来い! 聴いてるのか!? さてはあいつ逃げやがったな!! くそが、絶対許さねえぞ!!」
ハラワンは尻を拭けずにズボンを上げ店内を探すも誰も見当たらず外へと出ると従業員と料理長を探す。
「何処行きやがった!!」
「くっさ!!」
「おい、まじかよケチール男爵とこのハラワン様じゃないか!? くっせ!!」
「う、うるさい! この店の奴ら見なかったか?」
「いや、見てないな。」
「こんな店、父上に話して潰してやる!!」
ハラワンは臭い立つ尻で屋敷に戻り、高級レストランに怒りをぶつける。