6.好きだから
☆★☆★☆ 文化祭当日 ★☆★☆★
人魚姫の劇は、いよいよ 今日が本番。
天子たちは、朝から緊張しっぱなし。
でも、そんな時に・・・
「春咲さん、いるかな?」
聞き覚えのある声が。
「 えっ? 」
天子がふりむくと・・
「 流衣くんっ!? 」
教室のドアの前に、流衣が立っていた。
天子は流衣に駆けよった。
「えっと・・どうしたの・・・?」
「ごめん、忙しい時に・・ちょっとこれから出られない?」
「え? えーっと・・」
天子は時計を見た。本番まで、まだ時間はある。
「・・うん、いいよ」
「じゃぁ、ついてきて」
2人は歩きだした。
(どこに行くんだろ・・・?)
天子はそんなことを思いながら、流衣のあとを歩く。
ガラ・・
( え・・・っ!? )
流衣は 誰もいない静かな教室に入っていく。
天子は、一応 何も言わずについていく。
天子が教室に入ると、流衣は黙ったままふりむいた。
「あの・・流衣くん・・・?」
天子は少し戸惑う。
「ごめん。急にこんなとこに連れ出して・・・
でも、どうしても春咲さんに 言いたいことがあって・・」
「・・・言いたいこと・・?」
天子は流衣を見上げた。
----------------------ギュッ・・・
「えっ・・流衣くん!?」
天子は顔を赤くしておどろく。
流衣が、イキナリ天子をだきしめたのだ。。
「このまえは・・いきなりキスしてごめん・・・」
「・・う、うん・・・///」
天子は どうしていいかわからず、うつむく。
「ぼく・・・ 春咲さんが好きなんだ」
ザアァッ・・・
--------------------------------・・・
「天子がいないよっ!」
そのころ、教室では 大さわぎ。
「どうすんだよ!?」
「もうすぐ本番だよ?」
「とにかく・・てわけして捜すぞッ!!」
みんなは 教室を出て、天子を捜しはじめた。
---------------------------------・・・
「 え・・ 」
流衣の言葉には、風の音がまじっていたが 天子にはハッキリと聞こえた。
流衣は天子からスッとはなれ、言った。
「ぼく・・本気だから。返事はいつでもいいよ」
そして ニコッっと笑顔を見せ、そのまま教室を出ていく・・。
「 流衣くん 」
ところを、天子がよび止めた。
「ん? 天子の声?」
たまたま その教室の前を通りかかったのは・・・・・・・雅。
(・・こんなとこで何してるのかな?)
雅は教室をのぞいてみた。
( ! 流衣くんもいるじゃんっ!! )
雅はくい入るように、そのようすを見はじめた。
「流衣くん・・あたし・・・返事なら今できる・・」
「 え・・ 」
流衣は 天子の方をふり返った。
流衣をまっすぐ見てそう言う天子・・・ そして・・・・
「・・ごめんなさいっ!!」
天子は おもいっきり頭を下げた。
「あたし・・・」
流衣も 雅も、天子をじっと見ている。
「・・あたし・・・・聖夜が好きなの・・・!」
(あたし・・すごくひどいことキッパリ言ってるってわかってる・・・
でも・・きっと ちゃんと言わない方がもっとひどいから・・・・!!)
「 !! 」
ガタッ・・!
ドアの方で聞こえた音に、天子と流衣は 目をむけた。
天子はドアの方に駆けより、あるものを見つけた。
それは・・・
「これ・・雅のヘアピン・・・!?」
天子が外に出ると、走っていく雅が見えた。
「ごめんっ 流衣くん!」
天子はそれだけ言って 雅を追いかけた。
-----------------------------------------・・・・
「――――――雅っ! 雅!! 待ってっ・・・」
天子は ハァハァと息をつきながらも、追いかける。
「・・・・・・」
雅は黙って立ち止まった。
「・・・ごめん・・雅・・・今の聞いてた・・・・・?」
すると、雅は天子の方をふりむいた。
その顔は――――――――――――――――・・・
「・・ウソだよね? 天子は・・・
私のこと応援してくれるって言ったもんね・・・?」
―――――――――――――――――すごく怒っている・・・。
「・・・・・・」
天子はなにも言えなかった。
「・・・なんで!? なんであんなこと言うの!?
私はこれからも天子と仲よくしたいのに・・親友だと思ってたのに・・・!!
なのに・・・どうして!!?
天子は私のきもち考えられないの?
あんなこと言って・・・ 私に悪いって 少しも思わないの?
私が・・・!!
どんなにキズついたって平気なの・・!?」
「 っ・・ 」
雅は泣きながら走っていった。
天子には、 もう 追いかけることができなかった。
「雅・・・ごめん・・ごめんね・・・・」
天子の目から 涙がこぼれた。
天子はそのまま廊下にすわりこんだ。
「 天子・・・? 」
天子を捜していた聖夜が、たまたま そこを通りかかった。
「ナニやってんだよ こんなとこで・・・」
そう言って、しゃがんだ聖夜は 天子の顔を見ておどろいた。
「どうした? なんで泣いてんだよ!?」
「・・・・・・なんでもないよ・・」
天子は涙をふき、笑顔をつくって言った。
「なんでもねぇワケねーだろ!! 言えよ!」
「・・・・・・」
( 言えない・・・ 聖夜が好きなんてこと・・・・言えないよ・・・ )
天子の目に、また涙がうかんできた。
「・・・・・・・・・“プレゼントやるから泣くなよ”・・」
「 ・・・! 」
天子は 突然の、あの思い出の男のコと同じ
聖夜のコトバに 顔を上げた。
その時・・・―――――――――――――――――――――――――――――
たった一瞬の出来事。
聖夜は おどろく天子のくちびるに、そっとキスをした。
( え・・・・・・ )
「せ・・聖夜・・・なん・・で・・・」
聖夜は 天子の目をまっすぐ見つめて言った・・・・。
「 好きだから 」
・・・陰で 雅が見ていたなんて
しらずに・・・―――――――――――