人狼達の宴
村に帰ったバリオスは案の定、罠の持ち主であり婚約者のカレンに説教を受けた。
「まったくカレンのヤツ、あんなに怒らなくてもいいのに……」
こってり絞られ、やつれた顔で戻ってきたバリオスは帰ってくるなり愚痴をこぼす。
木の床に草で作られた薄い座布団が敷かれ、ホーネットたちはそこに胡坐を搔いている。ソコには父も母もいた。
「他人の獲物を勝手に逃がしたんです。この程度で済んだのはカレンの優しさですよ。これに懲りて少しは反省をしてください」
罠にかかった人間はホーネットたちが怪我の処置をし逃がした。人間は最後までホーネットたちを警戒して暴れていたが、人狼族が相手では敵うはずも無かった。
「それにしてもあの人間はなんであんなところにいたんでしょうね? この辺に人間の集落なんて無いですし……」
「そうだなぁ。旅でもしていて迷ってしまったのではないか?」
確かになんであんな場所で……目的は何だったんだ……
「それにしても人間の肉食べたかったなぁ。バリオス兄さん、今度人間を見つけたら絶対に逃がしちゃダメですよ!」
「わ、わかってる。カレンからもキツク言われたからもう勘弁してくれ」
カレンの説教が余程堪えたのかバリオスは悲鳴を上げるように言った。
「兄者にはやはりハッキリ物申すカレンのような女性でないといけませんね。婚約を承諾してくれたカレンには本当に感謝しかありません」
「イヤイヤ、カレンはワシに遠慮がないんだ。もっとこうおしとやかに、そうだ、エレンのように落ち着いてくれると有難いんだが――」
「遠慮がなくてすいませんでした! ア・ナ・タ」
「っ!?」
バリオスの背後から怒りに満ちた女の声がしてバリオスは息を飲んだ。
「カ、カレン……とエレン……」
「私もいるよ~」
「コレン!」
バリオスの後ろにはメスの人狼が3匹いた。バリオスに声を掛けたエメラルドの毛色がカレン。バリオスの婚約者。その後ろのスカイブルーがエレン。一番後ろの淡いパープルがコレンだ。バンディットはコレンを見つけると尻尾をブンブンと振りはしゃぎ、コレンへ近づいた。
「カレン、なぜここに……」
明らかにバリオスは怯えている。先ほどの説教が尾を引いているのだろう。
「何故って、ホーネットに呼ばれたのよ。アナタがアタシたちの罠にかかった人間を逃がしたお詫びにね。それに、あと少しでアタシもこの家の一員だからね。嫁見習いが旦那の家に来るのに理由なんていらないわよね?」
「う、うむ……それはそうだが……」
バリオスはチラッチラッとホーネットを見るが、ホーネットは気付かない振りをした。
兄者にはいい薬だ。
そんなホーネットへエレンが近づく。
「ホーネット。兄さんに厳しすぎじゃない? 姉さんもだけど、兄さんにもっと優しく接してもいいんじゃないかしら?」
「エレン」
エレンからの助け舟にバリオスは喜びの声を上げた。
「そんなことはないよ。兄者にはもっとしっかりしてもらわないと。この村の族長としてね」
「でも……」
「そうよエレン。次期族長でありアタシの旦那になるんだからバリオスは。アタシはもっと厳しくいくわよ!」
「そ……そんなぁ……」
カレンとホーネットに圧倒されたバリオスは力なくうなだれた。
「バリオス兄さん大変だなぁ」
「兄さん。ガンバ!!」
「お前たち、他人事だと思ってそんな呑気なことを……ワシの見方はエレンだけか……」
ホーネットたちのやり取りに現族長で父のゼットと母のカーブは笑っていた。
「さぁさぁ。バリオスへの小言はそのくらいにしよう。旨そうな肉が冷めてしまう」
「そうね。そうしましょう」
「そうだ、早く食事にしよう。バンディットの捕ってきた熊はなかなかの量だ。今日は腹一杯食えるぞ!」
やっとのことで助け舟を出され、すかさずバリオスは言った。その手には既に焼かれた肉が握られている。
「ちょっと、バリオス兄さん。僕の肉ですよ! 勝手に食べないでください!」
バンディットも負けじと肉にかぶりつく。
「ヤレヤレ……ほら、エレンたちも座って。拙者が捕った鹿もある」
「そうね。カーブさん、いただきます」
「ほらアナタ、ちょっとズレてよ。アタシが座れないでしょ」
「おお、スマンスマン」
「カーブさぁん。いっただっきまぁす……んぅ! おっいしぃ!」
「コレン、それ僕のだよ! あぁもうそっちも! 僕のばっかり食べないでよ」
皆一様に料理を食べ始めた。
「ハッハッハッ。こうして賑やかにメシをのもいいもんだな。なぁ、かぁさん」
「そうですね。こうして食事をとることが一番の幸せですね」
ゼットとカーブは満足そうに言った。
「またそのようなことを。いつも言っているではありませんか。こんないつもの日常が幸せだなんて夢が無さすぎます。もっと欲を持ってください」
ホーネットは呆れながら言った。
「そんなことはないぞ。こういう何気ない平和な日常こそが何よりもかけがえのないモノだ。お前たちも年をとればわかる」
「えー。それは退屈ですよ。僕は旅をして色々なところを見て回りたいです。それで、色々な美味しい物をお腹一杯食べたいです」
「あ、私も! 美味しいモノいっぱい食べたーい!」
まったくこの二匹は食べることばっかりだ……けど……
「拙者も二匹と同様、旅に出てみたいです。勿論、この村で平和に暮らすのもいいですが、外の世界を知ってこれから先、もっとこの村に貢献したいと考えています」
「ハッハッハッ。それも良かろう。世界を見て学ぶことは沢山ある。そこからお前たちがどう感じ、それをどう活かすかが大事なのだ」
ゼットは嬉しそうに言った。その手には酒が持たれている。
「うぅ~ん……ワシは外に出るのは好かんなぁ。出来ればこの村でのんびりと昼寝でもしながら過ごしたい」
「アナタまたそんなこと言って。族長がそんな呑気なこと言ってたら村が崩壊するわよ!」
カレンがバリオスに肘でつつく。
「そうだな。バリオス、お前は優しいが少し臆病なところがある。お前こそは外の世界を知ることが大事かも知れんな」
「そ、そんな~」
ゼットの言葉にバリオスはうなだれた。それを見ていた全員が笑い食事を楽しんだ。
確かにこのままずっと過ごすのも悪くない……。
ホーネットは心の中で感じていた。
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