人狼
「兄者は今日も収穫ゼロですか……しっかりしてくだされ」
「うむ……だがホーネット、ワシに狩りは向いていないのだ」
「何を言うのですか。次期党首が狩りも出来ぬとあっては皆に馬鹿にされますぞ」
静かな森の中、人狼族の二匹は話をしていた。兄の名はバリオス、弟の名はホーネット。兄は白毛で身体も弟より一回り程大きく力も強いが、その性格故動物を狩ることを苦手とした。対して弟のホーネットは黒毛で兄より身体は小さいが、その俊敏さで狩りを得意としていた。ホーネットの手には鹿が捕らえられている。
「まったく……兄者は生物に対して優しすぎるのです。せめて獲物の命くらいはとってもらわねば……」
「うむ……申し訳ない」
そういいながらもホーネットは嫌な顔をしていなかった。優しい兄を慕っているのだ。
「兄さんたち! ここにいたのですか」
森の奥から二匹を呼ぶ声がした。
「おー、バンディットおぬしも狩りに出ておったのか」
「はい。今日も大量です。これだけあれば腹いっぱいになれますよ」
奥から出てきたのは赤毛の人狼だった。名前はバンディット。体格はバリオスとほぼ同じ。その手には自分よりも大きい熊を抱えている。
「おー、これは大したものだ。兄者、少しはバンディットを見習ってくだされ」
「う、うむ……」
「まぁまぁ、ホーネット兄さん。良いではありませんか。バリオス兄さんはお優しいのです。バリオス兄さんが苦手なことは僕たち弟がサポートをすれば全てが丸く収まります」
三匹は三つ子の兄弟だ。
「バンディット、お前は兄者に甘いのだ。兄者、今後、上に立つ者の務めとして最低限のことは出来てもらわなければ困ります」
「分かっておるが何とものう……」
「兄さんたち、この話はまた後でいいではありませんか。取り合えず帰りま――」
ガサガサッ
バンディットがホーネットの小言を遮った時、近くで草が擦れる音がした。
「!?」
3匹は咄嗟に姿勢を低くして周りの草へ隠れた。
「匂いはしなかった……となると風下か……」
「獣か……兄者、ここは拙者が行きます。」
「わかった。ホーネット、気を付けろ」
「分かっております」
「ホーネット兄さん、今晩の食事が更に豪勢になりますね」
「あぁ。期待しておけ」
ホーネットはバリオスとバンディットを置いて風下へ向かった。その動きは俊敏だが物音を立てることがなく、相手に気付かれることはマズない。人狼族が狩りをする際得意とする戦法だ。だが、こちらが風上になるため、嗅覚の優れている獣が相手だった場合は既に気付かれている可能性がある。
今のところ動きが無い……となれば狩りは容易だな……
この森に住む獣は限られている。ホーネットは対象の獲物を想定した。そのどの獣も人狼族にしてみれば容易に仕留められる獲物だった。バリオス以外は
ガサガサッ
そこか……
草の擦れる音が近い。獲物は目と鼻の先だ。ホーネットは呼吸を整え一気に飛び出した。
「こ、コイツは――」
ホーネットは獲物を確認して驚愕した。
ソコには他の者が仕掛けた罠にハマった人間がいた。
人間の……メスか?
「ひっ……」
ホーネットが人間を見るのは初めてだった。この辺りは人間が立ち入ることが無かったからだ。人間は酷く怯えている。
罠で動けなくなったか。
「ホーネット、どうだ?」
時間をおいてバリオスとバンディットが現れた。
「きゃぁぁぁぁ!」
バリオスたちを見て人間は悲鳴を上げた。
「に、人間か!?」
「はい。それもメスのようです」
「僕、初めて見ました」
三匹は初めて見るその存在に興味津々だ。
「い、いや……」
人間は怯え、後ずさろうとするが、罠のせいでそれ以上下がることは出来なかった。
「コレ、どうします?」
バンディットが尋ねた。コレとは当然、人間だ。
「勿論、殺して持って帰るだろう。村に戻って罠を仕掛けたものを探さなくては」
先ずは罠を仕掛けたモノに人間の所有権がある。それに仕掛けたモノは想像がつく。
「ですよね。人間の肉ってどんな味なんだろう。少しは分けてもらえるかな」
「だが、肉付きはイマイチだぞ。そんなに食うところはなさそうだ」
ホーネットとバンディット獲物を前に嬉しそうだ。
「や、やめて……殺さないで……」
人間は涙を流し、哀願してくる。
「……なぁ。この人間を逃がしてはどうか?」
バリオスは弟たちに尋ねた。
「な、何を言っているのです!?」
「そうですよバリオス兄さん、折角の人間ですよ?」
また兄者の悪い癖が出た……
「うむ……この人間を見ているとだな、なんだか可哀そうになってきてな……それに……」
「兄者、そんなこと言っていたらすべての獲物が可愛そうになってしまいますよ! 喋れるからと言って、変な情を出さないでください!」
「ホーネット兄さんの言う通りですよ! 初めての食材を逃がすなんてもったいないですよ」
ホーネットとバンディットは口々に反対をした。だが、バリオスも譲らず。
「だがなぁ。人間は単独での行動はせんと言うだろ? この者がいなくなったら他の人間が探しに来ないとも限らんぞ? そうなっては後々面倒ごとになりかねん」
「それは……そうかもしれません。ですが、単独で行動して捕まったのかもしれませんよ?」
「そうかもしれんが、コレを逃がしたところで大した損害にはならんだろ? どうだ? ここはワシに免じて逃がしてやってはくれんか?」
まったくこの狼は……
こうなってはバリオスが決して譲らないことをホーネットは知っている。一度決めたことは貫く。昔からのコトだった。
「ハァ……わかりました。コレは逃がすことにします」
「に、兄さん!?」
「おぉ! そうか」
バンディットは残念な表情に、反対にバリオスは笑顔になった。
「その代り、兄者、明日はしっかり獲物を構えてくださいよ」
「う、うむ……善処できるように努める……」
「駄目です。絶対に捕まえて下さい」
バリオスは頭を掻き、困っていた。
「ホーネットには敵わぬな……」
「それはこちらのセリフです」
ホーネットとバリオスはお互いを見つめ笑顔になる。
「え~、折角の人間が……」
「そう気を落とすな、お前の捕らえた熊とホーネットの捕らえた鹿があれば十分ではないか。今夜はこれで酒盛りとしよう」
「兄者、それは拙者が言うことであって、兄者が言う資格はありません」
「そ、そうかの……」
「そうですよ。それに、この熊は僕の熊ですからね。バリオス兄さんには少ししかあげませんよ」
「そ、そこは兄弟仲良く分け合おうではないか……」
「嫌ですよ! 僕はお腹いっぱい食べたいんですから」
「まったく。ではこの人間を逃がし、罠の持ち主に肉を持って謝罪に行きましょう。おそらくカレンだと思いますが」
「か、カレンか……ホーネット、お前一人で謝りに行ってくれんか、ワシが行くと説教が長くなるからなぁ……」
「婚約者相手に何を言っているのですか! それに兄者はこってり絞られたほうが良いのです」
「そ、そんなぁ~」
落ち込むバリオスを見てホーネットとバンディットは声を上げて笑った。
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かなり遅くなりました。
これからもゆっくりですが、執筆していきます。




