精霊剣
――レイたちの父親であり族長のクルーガーはレイがそのまま年を重ねた風貌をしている。と言っても人間でいうところの30歳前後に見えた。だが実際は320歳と人間ではありえない年齢だ。
「オヤジ、用ってなんだよ? そんなに急ぎの用かよ」
「兄さま。口の利き方。私たちの父さまですが、族長ですよ」
「族長だけど俺たちの親だぞ? それに今は俺たちしかいねぇ。硬いこと言うなよ」
「そうですけど……」
ベルは父親のクルーガーの顔色を窺った。父の顔は無表情だ。
「まぁいい。コイツは誰がいても私に対しての物言いは変わらん」
「な? 大丈夫だろ」
「お前が変わらないとあきらめているだけだバカ息子!」
クルーガーの厳しい口調にレイも首をすくめた。
「とはいえ、お前たちを呼んだのは他でもない。渡すものがあるからだ」
「渡すもの?」
「モンシェリー。アレを――」
「はい」
モンシェリーと呼ばれた女性はレイとベルの母親だ。ベルに大人の色気を足したような美人だ。
これで267歳って……エルフヤバいだろ
モンシェリーは部屋の奥から布に包まれたモノを両手で抱えてやってきた。それをクルーガーへ渡した。クルーガーは受け取ったそれをレイの目の前に置いた。
「これって……」
「あぁ。広げてみろ」
クルーガーが言い終わる前にレイは布へ手を伸ばしていた。はやる気持ちを押さえられない子供のようだった。
「これが……」
「そう。我がエルフの里に古くから祭られている御神木『マザーアース』より生まれ、エルフの伝わる秘術を施した精霊剣『クサナギ』だ」
包まれていた布を広げると蒼く光る美しい剣が姿を現した。その剣は宝石や凝った装飾は施されていなかったが見る者を魅了する美しさがあった。
「まぁ……」
「キレイ……」
レイとナオキより後ろで座っていたベルとアイリが思わず口に出していた。
「レイ、お前に頼まれていた品だ。先ほど届けられてな。早くお前たちの驚く顔が見たくてヴェルニカを急かしたんだ」
先ほどの険しい表情から一変し、クルーガーは笑顔を浮かべていた。
「えっ? そうだったの!?」
「ヴェルニカすまなかったな」
ヴェルニカへ謝罪をするクルーガーはどこにでもいる優しい父親の顔そのものだった。
「なんだよ。そう言うことかよ。何事かと思って内心ヒヤヒヤしたぞ」
「ならサプライズは成功ってことだな」
「まぁな。でもサプライズってことならもう一つあるぜ……なぁナオキ」
突然レイはナオキに話を振ってきた。
「えっ? オレ?」
「あぁ。お前だ」
「何だよ。オレ、何も用意してないぞ」
「そうじゃない。この『クサナギ』お前にやるよ」
「っ!?」
「なにぃー!!!!」
ナオキよりも先にクルーガーが驚愕した。
「このバカ息子! 何馬鹿なこと言ってるんだ!? 『クサナギ』は我がエルフ族の宝だぞ! お前が族長を継ぐというから周りに掛け合って何とか作らせたんだ。ソレをそんな簡単に……し、しかもあろうことか人間に◎▽$%&●&¥@+……」
クルーガーは力が入りすぎて最後は言葉になっていなかった。
「別に約束を破るつもりはねぇよ。族長はしっかり継ぐ。その条件で『クサナギ』を作ってもらったんだからな」
「だ、だからってエルフの宝を人間に……あ、いや、失礼。私は何もナオキ君を不快にさせるつもりは毛頭ないんだ。だがな……」
今更ながらナオキへクルーガーはフォローをした。
「は、はい。分かってます。大丈夫ですよ」
「う、うむ……レイ、何故『クサナギ』なんだ。他にも名刀はいくらでもある。それでいいだろ!? それに『クサナギ』はお前の身体の一部が組み込まれている。つまりお前の一部なんだ、お前にしか使いこなせないのだぞ」
更にクルーガーは熱く語る。
「あぁあれな。実はナオキの髪なんだ」
「ブフォッ!!!!」
あまりの衝撃にクルーガーは吹き出し、後ろへ倒れてしまった。
「アナタ!」
「父さま!」
モンシェリーとベルがクルーガーへ駆け寄る。クルーガーはうわ言のような言葉にならない言葉を漏らしている。
「あ~。まさかこんなにショックを受けるとはなぁ」
頭を掻きながら悪びれずにレイは言った。
「兄さま! いくら何でもやりすぎです! 悪ふざけが過ぎます」
「別に悪ふざけじゃねぇよ。それに今後ナオキに絶対に必要なものだ」
「それにしたってやり方と言い方があります。もっと考えてください!」
「ワケを話したってオヤジが『オッケー!』なんて言うわけねぇだろ。もう既成事実を作っちゃえば何言ったって変えられねぇだろ」
「父さまだって誠心誠意真摯に話せばわかってくれます。兄さまはいつもそうやって自分一人で決めてしまうんだから。もっと周りと協力したほうが――」
兄妹喧嘩がいつのまにか始まってしまった。そしてそんな兄妹を他所にクルーガーは正気を取り戻したようだ。
ナオキはクルーガーへ近づいた。
「あの……なんか、オレのことですいません」
クルーガーの目の前に座り、頭を下げた。
「いや、君の責任ではないことは私も理解している。悪いのはアソコにいるバカ息子だ。まったく、誰に似たんだか……」
「あらぁ。アナタ、ご自身の昔のことをお忘れですか?」
隣にいるモンシェリーが何か言いたげな表情でクルーガーを見ている。
「や……そ、それはだな……まぁ男は誰だって人の話を聞かず勝手に行動してしまうことも有る。だがなぁ、ある程度節度をもった行動をだなぁ――」
「あらぁ。アナタも昔はエルフの掟を破って、魔人と共に旅に出て人間の国を亡ぼしたり色々なことをしてたではないですか。そんなアナタが自身の息子へ節度を語るのは説得力が欠けてませんか?」
「モ、モンシェリー……勘弁してくれ。その話は子供たちの前では言わないでくれと――」
「オヤジィ、しっかり聞こえてたぜ。何だか面白そうなことを昔はしてたんだな」
「父さま、なんですかその話。もっと詳しく訊かせてください」
兄妹喧嘩をしていたレイとベルがいつの間にか両親の会話に聞き耳をたてていた。二人とも父親の昔話に興味津々のようだ。
「レ、レイにヴェルニカまで……いや、あの時はだな……ほら、時代も時代で……あ~もうわかった。レイ、お前のやったことは不問にする。だからこの話はもう終わりだ」
余程自分の過去に触れられたくなかったのだろう。クルーガーは強制的に話を終了させてしまった。
それを見てレイがモンシェリーへ僅かにアイコンタクトをしたのをナオキは見逃さなかった。
あの二人……もしかして……
その時だった――ナオキの肩に乗っているカーマインが一瞬何かに反応したようだった。
「おい、どうかしたか?」
「いや、何でもない。気にするな」
「?」
カーマインはそれ以上何も言わなかった。
「じゃあオヤジ、『クサナギ』の件は――」
「はぁ~……。もう作ってしまったものは仕方がない。所有者はナオキ君だ」
クルーガーは観念したようだ。
「ヨシッ! やったな、ナオキ!」
喜びを分かち合いたいのかレイはナオキの背中を何度も『バンバン』と叩いた。
「い、痛ぇよ。わかった、ありがとう。でも……」
「でも何だよ?」
「何で『クサナギ』をオレに持たせたいんだよ? クルーガーさんも言ってたけど名刀は他にもあるんだろ?」
「なんだそのことか、ふっふっふ。いいか、この剣はだな――」
「特殊な加護を宿している!」
レイが言わんとしていたことをクルーガーが割って入ってきた。レイはクルーガーを睨み、クルーガーはしてやったりとほくそ笑んでいる。
「特殊な加護?」
「そう。この『クサナギ』の元になっている御神木『マザーアース』には我々エルフの願いを込めることが出来る」
更にクルーガーが語る。
「願い……ですか?」
「そう、願いだ。ただ何でも良いってもんじゃねぇ。心から願っているモノを魔力に変えて注ぎ込むんだ。その願いが邪なものだと加護としての能力が弱くなっちまう」
レイも負けじと話に入ってきた。
「ヘ~……」
「つまり純粋な願い程、加護の力が増すわけのだ。このバカ息子が何を願い、魔力を注いだのかは私にはわからないが生半可な願いではここまで鮮やかな輝きを出すことはできない。ナオキ君、このバカ息子はそれだけ君への気持ちが強くて純粋だということなんだよ」
「や、やめろよオヤジ、恥ずかしいだろ」
珍しくレイが照れている。こんな姿は初めてだった。
「でもレイのその願いっていった――」
ドンッ!
ナオキの言葉を遮り、突然部屋の扉が開かれた。扉の先にはエルフの青年が真っ青な顔をして息を切らしていた。
「何事だ!?」
ことの深刻さを察知したクルーガーはさっきまでとは打って変わって族長の顔になっていた。
「ハァ……ハァ……ま、魔人……が……」
息を切れ切れに青年は言った。
「魔人!?」
確認をするようにクルーガーは聞き返す。
「……はい……魔人が一匹、この村に近づいてきてます。そ、それもとてつもない魔力量を身体から放出してます。アレは……魔王クラスの魔力量です」
「なんだと!?」
驚きのあまりクルーガーは立ち上がった。
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