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カーマイン④

 ――兵士の残りが三分の一ほどになったころ、カーマインの身体は更にボロボロになっていた。


クソッ……こんなにてこずるなんて……


 予想以上にヨシキの攻撃に手を焼き、なかなか兵士の数を減らせないでいた。


「ヤツは満身創痍だ。後一押しで倒せるぞ!」


 ライザーの言う通り、カーマインの限界は近かった。だが、ピンチなのはカーマインだけではない。


「ヨシキ、大丈夫か?」

「ハァ、ハァ……し、正直しんどいっチ……」


 片膝を付いたヨシキは息も切れ切れに言った。エクスプロージョンを連発し、ヨシキの魔力は限界に近づいていた。つまり、人間側もピンチなのだ。


「お前はリスタだろ!! この程度でへばってどうする! こんなことなら八京が回復するまで待っていれば良かったんだ!」

「そ、そんなことないっチ……や、八京なんかいなくても俺っチがヤツを倒すっチ」

「ならばやってみせろ! 何のためにお前を連れてきてると思ってるんだ」

「や、やるっチヨ。任せるっチ」


 ヨロヨロと立ち上げり、ヨシキはカーマインへ手を向け、エクスプロージョンを放った。


ドゴォォォォン!


 エクスプロージョンは命中し、カーマインは衝撃で壁に激突した。


や、ヤバいぞ……このままではやられる……


 もはや立つことも困難なカーマインはズリズリ地面を這った。


「お前たち、ヨシキが次の一発を放つまで、ヤツを休ませるな! 魔法を放て!」

「はっ!」


 ライザーの命令に従い、兵士たちが魔法を放とうとした。その時――


ボコッ!

バキッ!


 後方にいた兵士二人が倒れた。


「ヤ――――!」

「ア――――!」


 クーとガーだ。その手には木の棒が握られている。棒で兵士を殴ったのだ。


「ゴブリン? なぜ今ゴブリンが。おい何してる! そんなザコさっさと片付けろ!」


 クーもガーも兵士に殴られ、カーマインの方へ吹っ飛び、目を回している。


「今だ! さっさとザコを殺してしまえ!」


 一斉にクーとガーへ向けて魔法が放たれた。


チッ――


ドバァァァァン!


「やったか!?」


 ライザーの期待に満ちた声が響く。

 しかし、クーもガーも無事だった。


 カーマインだ。


 カーマインが咄嗟に飛び出し翼を広げ、クーとガーを守ったのだ。


「ドラゴンが……ゴブリンを守った!?」

「そんな、まさか……」


 兵士達は驚愕した。それもそのはず、ドラゴンほどの最上級種がゴブリン程度の最下級種を救うことなど考えられないのだ。


「そ、それがどうした? 言ってしまえばドラゴンが自ら魔法に当たりに行ったんだ! これはチャンスだ!」


まったくその通りだ……こんな時に……ワイは何をしているのだ……


 カーマインは自分の行動に戸惑っていた。以前のカーマインであればこんなことは決してしなかった。それはゴブリンだろうがドラゴンだろうが変わらない。『弱い者は殺される』それが自然の摂理だと考えていたからだ。

 だがクーとガーは違っていた。決して敵わない人間相手にカーマインを救うため立ち向かった。結果はものの見事に玉砕したが、それでもカーマインではありえないことをやったのだ。それを目の当たりにしてカーマインの中で何かが変わったのだ。


「お前たち、ゴブリンなんていつでも殺せる。ドラゴンを狙え!」


 ライザーの声に反応して兵士たちがカーマインへ魔法を放つ。カーマインは流れ弾が姉弟に当たらないよう壁となり耐えていた。


人間どもめ……いい気になりおって……


 怒りが沸々と湧き上がり、カーマインの内なる力に変わっていく。


「ヨシキ、まだか? まだエクスプロージョンは放てないのか!?」

「もう少し待つっチ、あと少しっチ」

「さっさとしろ! ヤツは虫の息なん――」


ドオォォォォン!!


 ライザーの叱咤が響くと同時にカーマインの口から火炎が噴き出した。それは兵士を巻き込み、その後ろの森林を燃やし飛ばした。


「ひぃっ!?」


 炎が己のすぐ脇へ逸れたライザーは腰を抜かし、その場にへたり込んだ。


「まだこんな力が……」


 ヨシキもその威力に茫然とする。

 カーマインの一撃はヨシキとライザー、それに数名の兵士を残し、人間も草木も焼き払った。だが、その代償は大きかった。


ぜ、全員を焼くことはできんか……


 カーマインは力を使い果たし、動くことも困難になった。

 だが、そんな絶好のチャンスもライザーたちは恐怖で動けずにいた。そんな状況を打破する者がいた。


「ヨシ! これで終わりにするっチヨ!」


 ヨシキだ!

 

 ヨシキはエクスプロージョンを放つため、照準をカーマインへ向けた。


「くたばるっチ!」


 エクスプロージョンがカーマインへ放たれた瞬間、クーとガーがカーマインの前へ飛び出した。


「バカ!」


 エクスプロージョンは着弾し、爆炎と共に弾けた。


「やったっ――」


 ヨシキが喜びを表した瞬間、炎の中からカーマインが飛び出し、角でヨシキを貫いた。


「――えっ?」


 あまりの出来事にヨシキは拍子抜けた声をだした。

 カーマインはそのまま方向を変え、残った兵士達へ突進した。


「うわぁぁぁぁ!」

「ぎゃぁぁぁぁ」


 瞬く間に兵士たちはカーマインに潰され、残るはライザーのみになった。


「あ……あ……」


 残されたライザーは声も出せず動けず、失禁をした。


ブゥン


 カーマインは首を振り、突き刺さったヨシキを振り飛ばした。その遺体はライザーの目の前に転げた。


「ひぃっ!」


 やっとのことで後ろを向いたライザーは、ジタバタと手足を動かしながら必死に逃げようとする。カーマインはライザーへ近づこうと足を踏み出した。だが、踏み出された足は踏ん張りがきかず、そのまま倒れ込んでしまった。

 もはやカーマインは限界だった。


「へっ? ……な、なんだ。驚かせるなよ……そうか……もう動けないか」


 自分に言い聞かせるようにライザーは呟き、向きを変え、ジリジリとカーマインへ歩み寄った。


ピクッ


「ひぃぃぃぃ」


 カーマインが小さく動いたときたまらずライザーはうずくまり、頭を抱えた。


「……び、ビビらせるなよ、この! この!」


 カーマインが動けないと悟ると、ライザーはカーマインの顔を何度も何度も踏みつけた。


「ヨシキのヤツ、顔は止めろとあれほど言っておいたのに。これじゃあ価値が半減するじゃないか。まったくリスタってやつは、戦うしか価値がないくせに……」


 ライザーの言う通り、カーマインの顔は先ほどの爆撃でグチャグチャになっていた。そして、そんな顔を執拗にライザーは踏みつけた。


「ハァ、ハァ……よし、最後は俺の剣でトドメを刺してやる……」


 剣を抜いたライザーはカーマインの脳天に突き刺すべく、剣を構えた。


「ハハ。さぁ、死ね――」


 剣を突き刺そうとしたその時、カーマインの口が僅かに動いた。だが、ライザーは構わず剣を動かした――

 突然、ライザーの足へ何かがぶつかり、バランスを崩し後ろへ倒れた。


「な、何だ!?」


 ぶつかった足を見るとソコにはゴブリンの姉弟がしがみついていた。


「ご、ゴブリン!?」


 ヨシキがエクスプロージョンを放った時、身体では間に合わないと悟ったカーマインは咄嗟に、クーとガーを口の中に入れたのだ。その結果、カーマインの顔にエクスプロージョンは直撃し、見るも無残なモノになってしまった。


「この……離せ――」


 クーとガーを引き剝がそうとするライザーにカーマインが喰いかかった。


「ひっ!?」


 ライザーは身体を動かそうとするが、クーとガーがしがみつき上手く動けずにいた。


「あっ――」


 カーマインはライザーの腰から上を喰いちぎった。腰からはおびただしい量の血液が流れている。


グチャグチャ……ペッ!


 カーマインは器用に甲冑のみを吐き出した。


「マズい、やはり人間は好きになれん」


 そういいながらカーマインは力尽き、地面に倒れ込んだ。


「オジサン!」

「オニサー!」


 倒れたカーマインへクーとガーが近づく。


「オジサン! オジサン!」

「オニサー! オニサー!」


 姉弟は必死にカーマインを揺さぶるが、カーマインが大きすぎて動かず、傍から見ると撫でているようだ。


「……ウルサイ……ワイは死んでない……」


 目も開けず、うわ言のように言った。


「オジサン!」

「オニサー!」


 姉弟は喜び、カーマインに抱き付いた。


「……だが、ワイも血を流し過ぎた……このままだとマズい……」


これはしたくなかったが、仕方あるまい……


 不意にカーマインの身体中が光を帯び始めた。


「オジサン!?」

「……大丈夫だ。死には……せん」

「ダイジョブ?」

「あぁ……暫く眠るだけだ」


ワイは秘龍石になる……


 カーマイン自身、このままでは死んでしまう。それを防ぐために自らが秘龍石になることを選んだのだ。


「これからワイはお前たちと共にいよう……お前たちはワイの大切な『トモダチ』だからな……」

「ト、トモダチ?」

「トモラチ?」

「そうだ……トモダチだ。ワイは秘龍石になり身体を休める……」


というか戻すのだがな……


 カーマインの纏う光が一層強くなる。


「オジサン!」

「オニサー!」

「今後、もしお前たちに困ったことがあったらワイはお前たちを助けよう……だから……ワイを持っておけ……」


 カーマインの纏った光が一気に眩しくなった。そしてソコにいたはずのカーマインは姿を消した。


「オジサン?」

「オニ……サー」


 クーとガーの足元に一つの綺麗な石が転がっている。それをクーは拾い上げた。


ワイはお前たちとトモダチだ。心配するな。


「ウン……オジサン、トモダチ」

「トモラチ」


 やがて夜が明け、日が昇り始めた。

 陽の光を浴びた秘龍石は光を反射し、美しく輝いていた。

今回、読んでいただきありがとうございます。「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、評価をよろしくお願いします!


カーマインの話はこれで区切ります。来年からはナオキ達のその後を掲載しようと思います。


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