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 ――レイの言葉に反応して後ろを振り返ると、そこには鬼の形相をしたジュダがいた。しかも剣を持ち上段に構えている。


「――死ね」


 その言葉が合図になり剣がナオキ目掛けて振り下ろされた。


――駄目だ躱せない――


 あまりにも突然すぎて反応が出来ない。


――これは死んだな――


 剣の軌道を目で追いながら、何故かあっさり己の死を受け入れナオキはそう思った。


 剣がもうすぐ脳天に達しようとしたその瞬間――突然ナオキは腕を引っ張られ、横にズレた。勿論そんなことが出来るのは一人しかいない。


――八京さん――


 見なくてもナオキには分った。八京にはいつも助けてもらってばかりだと改めて感じた。

 だが、あまりにも急に引かれ、ナオキの足が追い付かず、そのまま倒れる形になった。


「……って……」


 スグに身体を起こし、ナオキは八京を見た。ソコには目を疑うような光景があった――






 ――八京はジュダを認識するとスグにナオキの腕を掴み、力の限り引き寄せた。


――間に合え――


 八京の素早い行動の甲斐あって、寸でのところでナオキはジュダの一撃を逃れることが出来た。

 しかし、ナオキは引かれたまま足が追い付かずに前のめりに倒れた。ナオキを掴んでいた手は倒れた勢いで離れてしまった。

 悲劇はここからだった。引いた反動でナオキと八京の位置が入れ替わったのだ。

そして、ナオキが元いた場所にはジュダの一撃が迫っていた。


ザグッ


 ジュダの斬撃が八京を襲った――






――な、なんで――


 ナオキが目にしたものはジュダの一撃を八京が受けた後の光景だった。

 ジュダの剣を正面から受けた八京には肩から太もも辺りまで剣の跡がある。


グブォ!


 突然八京の口から血が噴き出し、膝から崩れ落ちた。


「八京さーーん!」


 ナオキは這いつくばるように八京へ近づいた。


「チッ! 何で庇ったんだ。バカめ!」


 ジュダが言い放った。多少の狼狽えはあるようだが、それ以上に八京に対しての怒りが優っているようだ。


「八京さん! 大丈夫ですか!?」


 八京を仰向けにし、必死で声を掛けるが反応が無い。


「今度は外さない」


 ナオキの背後に立ちジュダは再び剣を持ち上げ構えた。


「させない!」


シュッ


 ジュダが剣を振り下ろすより先に、レイがジュダの死角から右ストレートを顔面に見舞った。レイのパンチをモロに喰らったジュダは後方へ吹っ飛びそのまま気を失った。


「このまま切り殺してぇが、ナオキがそれを望まない。感謝するんだな。って言ってももう聞こえてねぇか」


 レイはナオキの背後に立ち八京を見つめた。


「ベルさん。もう一度、もう一度回復魔法を! 早く!」


 レイより遅れてやってきたベルに対してナオキは哀願した。


「で、でもこれは……」


 ベルはそれ以上口にしなかった。致命傷であることは誰の眼にも明らかだった。


「いいから早く!!」


 ナオキの叫び声に驚いたベルはおずおずとナオキの向かいに座り八京へ回復魔法を唱え始めた。しかし、八京の出血は止まらず血液は止めどなく流れている。


「もっと! もっと全力でやってくれよ!!」


 尚も叫ぶナオキの肩にレイはそっと手を置いた。


「ナオキ、ベルは全力でやってる。それでもこいつは……」

「うるさい! 八京さんは絶対助かる! 絶対に死んだりなんかしない!」


 自分に言い聞かせるようにナオキは叫んだ。


「……オニイチャン……」


 いつの間にかクーもナオキの横にいた。ナオキの悲しむ姿を見てクーも不安げな表情を浮かべている。


「……う……うぅ……」


 八京から低い呻き声が漏れた。意識が戻ったようだ。


「八京さん!? 八京さん!!」

「……な……ナオキ……君……」

「八京さん! ハイ! ナオキです! 八京さん。大丈夫ですよ、今魔法で傷を治してるんで、スグよくなりますよ」


 嘘だった。いかにベルの回復魔法が優れていたも八京の傷口は一向に塞がる様子を見せない。


「い……いや……僕のことは……僕が一番分かってる……もう……助からない……」

「そんなことない! 八京さん、きっと治るからそんなこと言わないでくださいよ!」


 いつの間にかナオキの目からは涙が流れていた。その雫は八京の胸に落ちている。


「……もういいんだ……それ……より……ナオキくんは……ケガはないか……い……」


バカ野郎! こんな時までオレの心配かよ!


 喉の上まで込み上げた言葉をグッと飲み込み込んだ。


「オ、オレは大丈夫ですよ。八京さんのお陰です」

「な……ならよかった……」


 心なしか八京の表情が緩んだ気がする。

 そんな八京はレイへ視線を向けた。


「き……君とももう戦えないね……」

「あぁ……こんな結果になるなんてな……アンタとはまたやってみたかった……」

「それは……申し訳ない……」

「……互いに剣を交えたのも何かの縁だ。俺に何かできることはあるか?」

「………………」


 八京の表情は考えているようにも苦悶の表情を浮かべているようにも取れた。


「じゃあ……一つ……いいかい?」

「何だ?」

「ナオキ君に協力……して……やってくれないか」

「協力? 一体何を? ナオキはここから逃げる。そのことに協力しろってか? それならアンタに言われなくってもするさ。ナオキは恩人であり仲間だ」


 ナオキの胸の内から熱い何かがこみ上げてくる。


「……そうじゃない。その先さ……」

「その先!? その先ってなんだ? ここから逃げた先のナオキなんてまだ何も決まっちゃいないだろ? 一体ナオキが何をするって言うんだ?」

「そ、それは僕にもわからない……ただ……ナオキ君が何かをする時、そ……それを助ける誰かが必要になって……くる。もう、僕にはそれができない……」

「はっ! まだ何も決まってないことに協力しろってか? ちょっと話がぶっ飛んでるぞ」

「ぼ、僕の感は……あたるんだ……」

「なんだそれ、アンタの感に付き合えってか?」


 茶化すようにレイは言ったが、八京の表情は真剣なものだった。


「……本気みたいだな……」

「じょ……冗談は苦手なんだ……」

「……わかったよ。ナオキが何かをする時、俺はナオキに協力する。エルフの誇りにかけてここに誓おう」

「レイ」

「あ……ありがとう……」

「でも勘違いするな。アンタにそんなこと頼まれなくてもナオキは仲間だ。協力しないはずがないだろ!!」

「レイ……」

「……フッ……それもそうだね……でも僕の頼みだ。そのお礼はしないと……」

「だからそういうことじゃ――」


 レイが話終わらないウチに八京は自身の持っている剣をレイに差し出した。


「や、八京さん……これって……」

「こいつは……」

「僕の……いや、師匠の愛刀『鬼蜻蛉(オニヤンマ)』だ。こ……これなら君の本気に耐えられるはずだ……』

「!? 気付いてたのか?」

「当り前さ。剣の腕には自信があってね……」

「ちっ……流石だな……でもアンタも本気を出しちゃいなかったんだろ?」

「し……知ってた……の?」

「当たり前だろ。俺も剣の腕には自信があるもんでね」


 レイは親指を自身に向けて笑いながら言った。それを見た八京は苦しみながらも笑っている。


「え? どういうこと?」


 二人の間に入ることを躊躇しながらもナオキは疑問を口にした。


「二人とも本気を出していなかった。ということでしょう?」


 八京の治療に専念しているベルが話した。


「正確には兄さまは本気を出せないでいた。と言った方が正確ですかね」

「本気を出せない? 何で?」

「剣が兄さまの力に耐えられないんですよ。今までどんなに優れた剣であっても兄さまが本気で振った時、その剣は終わりを迎えてしまった」

「そ、そうだったんだ」


レイの実力ってあんなもんじゃなかったのか。


「そしてこの方も何かしらの理由で本来の力を出せずにいた。そうでしょ?」

「た、確かに……」


 八京はまだリハビリ中だ。本気でなんて戦えるわけがない。そしてそれをレイに伝えたのはナオキだったわけだが……


「本当にいいのか?」

「僕が知っている限り、鬼蜻蛉を使いこなせるのは君しかいない。それに……君にはこれが必要だろ?」

「……わかった。お前の想い。この剣と共に俺が受け取った。ナオキの事は俺に任せろ!」

「あ……ありがとう……君になら任せられる……」

「でも一つ言っておくぞ。ナオキが間違った道へ行くなら俺は全力でナオキを止める。ぶん殴ってでもな!」

「あぁ……その時は……頼むよ……」

「えぇ!? そんなぁ」


 ナオキの情けない声に場の雰囲気が砕け、笑い声が上がった。

 そんな笑いの中、八京は再びナオキに目を向けた。


「ナオキ君……君は自分が正しいと思う道に進めばいい。それがきっと……この世界のためになるはずだ」

「八京さん……」

「でもその道は……とても険しい荊の道だ……何度も心が折れそうになるだろう。でも……君なら必ず乗り越えられると信じている」

「八京さん……」


いつの間にか再びナオキの頬を涙が流れていた。


「それに……君にはいい仲間もいる……それも一人じゃない……全てを一人でしょい込む必要は無いんだ……そのことを忘れないでほしい」

「わかりました。オレ、自分に何が出来るか分からないけど、オレが正しいと思う道を進みます。八京さん。あなたを失望させるようなことはしません!」

「ナオキ君……君にこれを渡しておこう……」


 八京は自身の首にかかっていたネックレスをナオキへ差し出した。そのネックレスはターコイズ色のチェーンで漆黒な丸い石が付けられていた。


「これは?」

「こ……これから……先。きっと……きっとこれが君……の助けに……なるはずだ……か……」



 八京が喋らなくなり動かなくなった。


「八京さん! 八京さん!」


 八京の手を取り何度も呼びかけた。しかし、八京は動くことも話すことも無かった。そして八京の手から徐々に体温が失われていくのが分かった。それは八京の死を意味する。


「八京さん、八京さん、返事をしてくださいよ! 八京さん!」


 冷たくなっていく手を強く握り何度も声を掛けるが何も起こらない。


今回、読んでいただきありがとうございます。「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、評価をよろしくお願いします!



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