死の刹那
――死の間際は走馬灯のように今までの出来事が流れるというが、間違いではなかった。この世界に召喚される前、八京は大学生だった。小さい頃から剣道に励み、全国でも少しは名の知れた存在だった。八京が思いを寄せる存在もいた。相思相愛だった。どちらかともなく付き合いだし2年ほど経っていた。全てが順風満帆で、それがこれから先も続くものだと信じていた。
だが、幸せは突然崩れた。
剣道で八京より実力が劣っている先輩、八京に負けたライバルたちが八京の悪評を広めたのだ。勿論根も葉もない噂ばかりだった。だが、協会や八京の周りの人間はそうは思わなかった。噂を信じ、噂が噂を呼び、瞬く間に八京の悪評は広まった。そして、最大の理解者であるはずの彼女はそんな八京を捨て、あろうことか、悪評を広めた先輩と付き合うようになった。
八京は世の中に絶望し、悩み、苦しみ世の中を呪い、このまま命を絶つことを選択しようとしていた。
――そんな時、目が覚めると八京はこの世界に召喚されていた。初めは戸惑ったが、八京が活躍をするたびに称賛され、尊敬の眼差しをもたれた。いつの間にか八京は英雄と呼ばれていた。
しかし活躍とは裏腹に八京の心は廃れていった。魔物とは言え何の罪もない命を奪うことに八京は苦しんだのだ。
『必要のない命は奪わない』それが八京に出来るせめてもの生き方だった。だが、あることがきっかけで八京の考えは変わった。
――この世界。間違っているのならこの世界を根本から変えてしまえばいい――
そう思うようになった。そう、すべてはこれからだった。
だが、今八京は死を目前にしている。この強大で暴力的なドラゴンに命を奪われようとしている。だがそれでもいいと八京は思った。全てを託せる人間がいる。そして、今まで奪ってきた命への後悔の念で八京の精神は限界だった。この状況を受け入れ、もう楽になりたかった。
――カーマインの放った炎がスグそこまで迫った。あれだけの威力だ。おそらく痛みも苦しみも無く一瞬で八京は灰になるだろう。
そっと目を閉じてその時を待つ八京の脳裏に浮かんだ顔があった。それは八京を慕い、時に屈託のない笑顔で、時に不貞腐れたような顔で八京に接してくれた。そんな彼女を八京はあえて素っ気ない態度で接するようにした。彼女が嫌いなのではない。むしろ、そんな彼女に好意を持っていた。だが、そんな彼女がいつか裏切るのではないかと考えるととても怖かった。もうあんな思いをするのは御免だ。だから彼女が八京に好意があるのを気付かない振りをしていた。そんな彼女にもう一度会いたい。全てが終わったら今度は八京から『好きだ』と伝えたい。八京の中で彼女への想いが急激に込み上げた。
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この話は掲載するか悩みました。だけど、八京を知ってほしいという気持ちから掲載することにしました。気に入ってもらえたら幸いです。




