救出
――テントの奥にヴェルニカはいた。テントは変わっても変わらず檻に捕らえられていた。
やっぱり綺麗だ……薄暗い室内にいて、その一角だけ光輝いているようだ。こんな状況でなければ何時間でも眺めていたい。そう思わせるほどの美貌をヴェルニカは持っていた。
「あ、あの……」
ナオキの声に反応してヴェルニカは“ビクッ”と身体をこわばらせた。
「大丈夫。君に危害を与えるつもりはないから」
それでもヴェルニカは警戒をしている。捕らえられて檻に入れられているのだから当然だ。
「オレは君のお兄さん……レイと協力して君を助けるためにここに来たんだ」
「兄さま!? 兄さまがここへ来ているの!?」
ヴェルニカが檻を掴み、ナオキに近寄った。喜び、安堵、それに加えて不安や焦りなどの様々な感情を帯びた表情を浮かべている。
「落ち着いて。今レイは君を助けるために囮になって戦っている。オレは君を開放して君たちを無事に逃がしたいんだ。信じてくれるかい?」
ナオキはヴェルニカに近づき、彼女の両肩を握った。それと同時に真っ直ぐヴェルニカを見つめた。ヴェルニカもナオキをしっかりと見つめた。ナオキの言ったことの真意を見定める様に。
こんなに綺麗な人と見つめ合うシチュエーションなんて滅多にない。こんな状況化で不謹慎なのは百も承知だが、邪な考えが脳裏をよぎっていることに少なからず後ろめたさを感じた。ヴェルニカに心の中を見透かされないことを祈るばかりだ。
「……アナタ、とても澄んだ綺麗な眼をしているわ。どうやら悪い人ではなさそうね。このまま檻の中にいても待っているのは地獄だもの。アナタの言っていることを信じるわ」
セーフ、気付かれてない
心の中でホッと一息ついた。
「よし、じゃあ急ごう。レイからカギを開けるマジックアイテムを預かってるんだ。これを使えばって……アレ? これどうやって使えば……」
出したアイテムの使用方法が分からず焦っていると、檻からヴェルニカが手を出してきた。
「確かに兄さまのものだわ。貸して」
ヴェルニカはマジックアイテムを手に取った。その際、ヴェルニカの手に触れた。その手はほんのり温かくとても滑らかで、絹のようだった。そしてヴェルニカから香る優しくてさり気ない甘さの匂いに、ナオキの心臓は蒸気機関車のように激しく動いた。
エルフってこんなにスベスベしててこんなにいい匂いがするのか……女神かよ
ずっとヴェルニカの近くにいたい。不謹慎にもほどがあるが、桃源郷にでもいるような感覚をナオキは覚えた。
「……ハイ。解錠できた」
ヴェルニカの声で我に返ったナオキはドギマギしながら。
「じゃっじゃあ急ごう。ここにいつまでもいるのは危険だ」
テントから出ようとナオキは踵を返し、歩き出そうとした。
「ちょっとまって」
ヴェルニカがナオキの手を掴んだ。そしてヴェルニカはナオキの顔と僅か数センチの所まで顔を近づけてきた。
か、顔が近い……なんだ!? お礼のキスでもしてくれるのか!?
あまりの急展開にナオキの心臓の鼓動が、壊れたポンプのように際限なく脈動する。
「アナタ、かなりの怪我を負ってるわね。痛くて身体を動かすのも辛いんじゃない?」
ヴェルニカといる時間が夢のようですっかり忘れていたが、戦いによる戦いでナオキの身体はボロボロだった。思い出したらあちこちが痛み出した。
「た、確かに……でもそんなこと言ってられない」
「大丈夫。そんなに時間は取らせないわ。少しじっとしてて」
ヴェルニカはそう言うと、ナオキから一歩下がり目を閉じて何やら小声で言い始めた。何かの詠唱だろうか。唱え続けると、ヴェルニカの周りに細かな光の粒が集まり始めた。そして、ヴェルニカの足元には魔法陣が浮かび上がった。その魔法陣はナオキが召喚された特に描かれていた魔法陣より神々しく、温かみがあった。
「グレートヒール!」
不意にヴェルニカが両手をナオキへかざすとヴェルニカの纏っていた光の粒子たちがナオキへ移動し光の柱がナオキを包んだ。その瞬間、ナオキは今まで感じたことの無い暖かさと心の癒される感覚を覚えた。それは、涼音が施したヒールと同等の心地よさがナオキに訪れた。
あぁ――
明日香がいたら間違いなく『キモッ!!』と言いそうな声が漏れるのを必死に我慢していると、先ほどまで襲っていた痛みが見る見るうちになくなっていった。
「凄い……」
回復していく身体と心地よさに驚きながらナオキは呟いた。やがてナオキの纏っていた光の粒子たちは静かに消えていき、最後には元の薄暗さへと戻った。
「……終わりました。身体、どうですか?」
「うん。どこも痛くない。あっという間に怪我が治った」
「良かった。本当なら時間をかけて少しずつ回復させるんですけど、そんな時間無いですし、頑張って中級魔法を使いました」
「ありがとう。どこも痛くないよ。じゃあ行こうか。レイのことも心配だ……ってそう言えば名前まだ行ってなかったね。オレは叢雲ナオキ。ナオキって呼んでよ」
「ヴェルニカです。兄さまはベルって呼んでます。お願いします」
ナオキとベルはテントを駆け出して行った。
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