仲間
スティルトンたちが去った後には変な静けさがあった。周りの者は全員、今までのやり取りを見ていた。
「皆さん、ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です」
八京が周りに向って頭を下げた。それを合図に観客たちは各々移動を始めた。
「なに今のヤツ。すっごい感じ悪いんだけど」
先程まで静かだった明日香が口を開いた。
「あんな奴、清太郎に殴られちゃえばよかったのよ」
「明日香……お前さっきまで存在感ゼロだったのに急に元気になったな」
呆れたようにナオキは言った。とは言ってもナオキも自分の存在を消すように事の成り行きを見ていただけだったが。
「何言ってるの。私だってここに来てまだ10日よ? 事情を知らない私が話に入って、事がややこしくなったらヤダから我慢してたんじゃない。ホントは清太郎と一緒で、八京さんのこと悪く言ってたキツネヤローをぶっ飛ばしたかったんだから」
明日香ならやりそうだ。だが意外なことに明日香にも冷静な面があるのだと感心した。
「八京、大和すまなかった! 俺の我慢が足りなかったせいで、お前たちに迷惑をかけちまった」
八京と大和に向って清太郎は頭を下げた。さっきまでのどの謝罪よりも頭は深く下げられている。
「気にするなよ。僕のために怒ってくれたんだろう? むしろ感謝してるよ」
「でも……俺だけじゃなく、お前たちの立場も悪くしちまった……俺、どうすれば……」
「俺も京ちゃんもそんなの気にしてないよぉ。それにぃ、実際殴ってないんだしぃ。そんなに大ごとにはならないと思うよぉ」
「…………」
「僕もそう思うよ。多分、あっちは僕たちをからかいたかっただけだろうし。もしあっちに怪我をさせてたら色々まずかっただろうけど、スティルトンって人も許すって言ってたんだ。だからこれ以上事が大きくなることは無いよ」
八京たちの話を聞いて、清太郎は『ドカッ』と椅子に座った。
「そうかぁ。良かったぁ。俺も頭に来てたとはいえ、貴族にアレはマズいと思ったんだよ。でも後には引けなくってさぁ」
緊張の糸が切れたのだろう。清太郎は安堵の笑みを浮かべている。
「イヤイヤ清ちゃん、マズいと思ったらぁ殴ろうとしちゃダメでしょう。俺が止めなかったら間違いなく当たってたよぉ」
大和が突っ込みを入れてくる。
「悪かったよ。二人にはホント感謝してる。俺を止めてくれてありがとな。後、新人二人には格好悪いとこ見せちまったな……」
恥ずかしそうに頭を掻きながら、清太郎はナオキ達に声を掛けた。
「何言ってるの! 八京さんのために怒ったんだから少しも格好悪くなんて無いわ! むしろ少し見直しちゃったわよ」
明日香が清太郎を褒めている。さっきまで言い合っていたのが嘘のようだ。そして、明日香の言葉を聞いた清太郎の顔が赤くなっている。
「お、おうそれは、仲間として、と、当然だろ」
清太郎の喜びがこちらにも伝わってくる。そして大和は清太郎に向けて含み笑いをしている。
「何だよ大和!」
「いや~別にぃ」
清太郎は多くを語らずタダタダにやけていた。
「気持ちワリィからその笑いやめろって。ってか、おい! そろそろ訓練の時間だぞ! 遅刻したらオルティアに怒られちまう」
「え~? もうちょっと皆で話しようよぉ。いっそ今日はサボってみんなでブラブラしようよぉ」
「馬鹿! そんなことしたらマジでオルティアに殺されるぞ! ほら、早く行くぞ!!」
清太郎は立ち上がり大和を急かす。
「じゃあな八京。また今度ゆっくり話そう。あと新人……ナオキって言ったか」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれ思わず『気をつけ』をしてしまう。
「これから大変だと思うけど頑張れよ。お前は一人じゃないからな」
一人じゃない……玲が亡くなってからずっと孤独だったナオキに、その言葉は込み上げてくるものがあった。
「あ、ありがとうございます」
ナオキが言い終わる前に清太郎は大和を引きずりながら走っていった。大和はこっちを向いて手を振っている。
「……良い人達ですね」
「うん、あの二人は最高の仲間だよ」
「八京さんにそんなこと言ってもらえるなんてホント羨ましいなぁ」
「ハハッ、二人とはそれなりに付き合いが長いからね。それはそうとゴメンね。なんか変なとこ見せちゃって」
「いえ、そんな……」
「話には聞いてたけど、嫌な奴っているのね」
八京の言っていたリスターターを良く思っていない人間がいるのを思い出した。だがなぜ自分たちが呼んだ人間のことを嫌うのだろう……なぜリスターターだけが……
「あの。なんでこの世界の人たちはそんなにリスターターを嫌うんですか? あの人たちがオレたちを呼んだんですよね?」
「あぁそれはまだ言ってなかったね。それは僕たちリスターターが、こっちの世界の人たちより肉体的にも魔力的にも優れているからなんだ」
八京が説明を始めてくれた。
「僕たちは、召喚された時からチートな存在なんだ。だから必然的に強い魔物は僕たちが狩るし、そうすると僕たちの功績も大きくなる。あの人たちはそれがちょっと……ね」
後半を八京は濁した。周りの目もあるので言い辛いのだろう。
「結局妬んでるのよ、ああいう連中は。自分達に力が無いから私たちを呼んどいて。まったく自分勝手よね」
折角八京がオブラートに包んでいたモノを、明日香はビリビリに破いて飛ばしてしまった。
「明日香さん、大きな声でそんなこと言ったらマズいんだよ……」
慌てて八京は明日香に注意をし、周りを見回した。
「ふん、くだらない。悔しかったら私達より強くなって活躍すればいいのよ。それを妬んで恥ずかしくないのかしら」
先ほどよりも声を小さくして明日香は吐き捨てた。
「まぁこの国の人たちにも事情があるだろうし……あんまり他の人には聞かれないように気を付けようね」
八京は明日香をなだめた。
「ナオキ君も、今後は同じようなことがあるかもしれないけど、文句を言ったり反抗的な態度をとらないように気を付けてね。彼らに目を付けられると後々大変なことになるから」
「は、はい。気をつけます」
ナオキにくぎを刺すように八京は言った。
「さあ、僕たちも時間だ。ナオキ君、今日はこれから城内を案内するよ。明日香さんはこれから訓練だったね」
「え~。私も一緒に行きた~い。今日ぐらい訓練休んでも良いじゃないですか」
よっぽど八京と一緒にいたいのだろう。
「駄目だよ。セシルさんが待ってるんだから行かなきゃ」
「ちぇ~。じゃあ八京さん、夕食は一緒に食べましょ!」
八京に諭され明日香は渋々納得した。やはり八京の言うことは聞くらしい。そして夕食を八京と一緒に食べようとしている。ナオキの存在をまったく気にしていない。
「うん、わかったよ。その代り訓練はしっかり頑張ってね」
それを聞いた明日香は満面の笑みを浮かべた。
「はーい。行ってきまーす。ナオキもまた」
手を振りながら明日香は走っていった。
「うん。訓練頑張って」
ナオキと八京は明日香に向って手を振った。
「さ、僕らも行こうか」
「はい。お願いします」
明日香の姿が見えなくなってから、ナオキは八京と城内の散策を始めた。
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