6.読者への挑戦状
賢明なる読者諸君ならば、今回の事件の真犯人が誰であるかは、おそらく見当が付いていることだろう。その通り――。この俺こそが、妻を殺害し、さらには家を放火した、真犯人である。
さらに付け足せば、本件は俺の単独で行われており、俺は誰の手助けも受けていない事実を、正直に告白しておこう。
さて、俺が用意した黄金のアリバイが存在する限り、警察は俺を逮捕することができず、俺の身の安泰は保障されているのだが、その鉄壁のアリバイが決して崩されることはなかろうという確固たる自信が後ろ盾となったのか、読者諸君にこのようなカミングアウトするという、ある意味で危険極まりなく自虐的な欲望を、ついに俺は押さえ切れなかったわけである。
さて、さっそくだが、ここで親愛なる読者諸君へささやかなる挑戦状を送らせていただきたい。俺が編み出した黄金のアリバイを、果たして諸君は切り崩すことができるようか?
最後に老婆心ながらも、現時点で判明している捜査上のポイントをまとめておこう。
1.妻の死因は、直に首を絞められたことによる窒息死である。
2.焼け焦げた妻の遺体からは、はっきりとした死亡推定時刻は定まらなかった。
3.妻は火災時にはすでに死んでいた。理由は、肺から煤が検出されなかったためだ。
4.現場の家屋は、玄関を除いて、勝手口や窓の鍵が全て掛かっていた。
5.現場の鍵は、一つが遺体のそばに落ちており、もう一つは俺自身が持っている。
6.現場の壊れた窓ガラスはすべて、建物の内側から生じた圧力によって壊されていた。
7.午後三時二〇分に、男性の声で、消防署へ火災の通報があった。
8.消防隊が現場へ駆けつけた午後三時三五分には、火は施しようがないほど燃え広がっていた。
9.玄関口に灯油が撒かれた痕跡があり、火災の原因は放火であったと断定できる。
10.あらかじめ放火をした後になって、遺体を屋内へ持ち込むことは、物理的に不可能である。
11.俺は壇上で発表を終えた一〇時五〇分まで、確実に朱鷺メッセにいた。
12.一一時二〇分新潟駅発の新幹線に乗れば、一五時三一分に名古屋駅へ到着できる。
13.新潟空港を一三時一〇分に発つ航空機ANA1812便に搭乗すれば、一四時一五分に中部国際空港へ到着する。
14.ANA1812便を利用した際、たとえ二輪車で高速道路を突っ走っても、現場への到着時刻は午後三時一五分以降となる。
15.消防隊の供述によれば、午後三時三五分に現場で燃えていた火は、少なくとも三〇分前に発火をしていなければ、合理的な説明が付かないとのことだ。
16.時限発火装置などの機械トリックが使用された痕跡は、現場には一切残されていなかった。
では、読者諸君の健闘を心から祈りつつ、いったんこの場から去らせてもらうこととする。
これで出題編は終了です。果たして、犯人はいかなる方法で犯行をおこなったのでしょうか? 解決編に進まれる前に、もう一度お考えを整理してみてください。
iris Gabe