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ワインの樽  作者: 祭囃子
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記憶の雫

今回が初めての投稿になります。誤字脱字がありましたら、気軽に教えていただけると嬉しいです。

「・・・ここは?」

目覚めて最初に見えたものは葉っぱに覆われた空。よく見ると紫色の果物がなっている。

「イテテ・・・」

頭が痛い。擦ってみてもたん瘤のようなものはない。少し時間がたつと頭痛は引いていった。

「何だったんだ・・・」

そういって立ち上がる。服装には見覚えがない。いつもの量販店で購入した着れればいいの精神のコーディネートからは程遠く、上着は丈が長いチュニックのようなものでズボンはひもで縛られている。どちらも染められていないのか白く、安価な印象を受けた。

「それにしても、ここはどこだ?というか、俺は今まで何をしていた?」

記憶を探っても、目覚める前の記憶が見つからない。日本で暮らしている人間であったことは思い出せるし、知識も常識もニュースさえ思い出せるのに自分を象徴する記憶が出てこない。

「名前も思い出せない・・・出身はどこだ?・・・俺はどういう人間だった?」

漠然とした恐怖と不安を感じながら、それでも全く思い出せず手がかりすらない。

「どうする?何かないのか・・・」

そういって周囲を見始めた。どうやら自分は森、それもかなり大規模な場所にいるようだ。上を見てみると、やはり木々の葉によってさえぎられるものの空が見える。そうしてようやく近くの地面に横たわった一本の瓶に気づいた。

「これは・・・ワインか?なんでこんなものがあるんだ?」

疑問に思ったものの拾って眺めてみる。なんてことのないスーパーやコンビニでも売られてそうな普通のワインのように見えた。

「せっかくだから開けてみるか。何か思い出すかもしれないな。」

そう思い開けてみようとする。蓋の部分を見るとコルクではなくキャップのようなもので封されていた。開け方がわからないが、この時の俺は喉が渇いていたのだろう。無心で捻ったり抜こうとしていた。そうしてワインキャップと格闘すること5分ぐらいだろうか。ついにキャップが取れるように外れた。

「おお!!いい香りじゃん、うまそうだ。」

興奮した様子でワインを飲もうとする。そうしてそのまま口を付けてワインが口に入ってきた瞬間にすさまじい感覚が襲ってきた。

「うわっ!!ぎもぢわるい!!」

強烈な頭痛と吐き気を感じ仰向けに地面に倒れる。手から離した瓶が割れる音が聞こえる。

「うわぁ!!早く終われ!!」

そうやって頭を押さえていると10分ぐらいだろうか、だんだんと頭痛と吐き気が収まってくる。

「何だったんだ・・・本当に今俺に何が起こっているんだ・・・」

そうやって益体もなく悪態をついていると

「!!そうだ、俺は風間だ。会社員で趣味でワインをよく飲んでいた。福岡から上京して10年たった32歳、そこまでは思い出せた!!」

先ほどまで欠片も思い出せなかったパーソナルな情報が当然のように頭に現れる。だが、自分が目覚める前に何をしていたのかといった今の状況を説明できそうな情報はない。

「さっきまで思い出せなかったのに思い出せたってことは、やっぱあのワインに何かあるよな。だけど、またさっきみたいになりたくねえ。どうする?」

地面に倒れ気持ち悪さと格闘している間に移動していたのかワインの瓶は少し離れた所に転がっていた。自分の記憶、しかも現状を打開できるかもしれない方法と単純な自分の不快感、天秤にかけて葛藤するもやはり現状の解決を求め再び瓶を掴む。

「(どうかせめてあの頭痛と吐き気が弱まってますように!)よし!!飲むぞ!」

できるだけあの不快感を思い出さないように意気込んで一気に瓶に口を付ける。最初に口に感じたのは芳醇で複雑みのある味わい、厚みがあって心地よい渋みも感じた。

口に含み、強い多幸感に包まれとてもいい気分にはなるものの一行にあの頭痛と吐き気の不快感は襲ってこない。このことに気づきもせず水分補給ができていなかったこともあってうまい、うまいとワインを飲んでいた風間は瓶を丸々一瓶飲み干してようやく目的が達成できなかったことに気づく。

「あれ?なんで頭痛も吐き気もないんだ?いや、ないほうがいいが記憶も戻らないのはなんでだ?さっきと何も変わらないはずなのに・・・」

そうして瓶を見てみる。間違いない、さっきの瓶と同じラベルが張られている。

「ちょっと待てよ、何でこの瓶が割れてないんだ・・・?地面に倒れた時確かに割れる音が聞こえたぞ!!」

何かよくわからない恐怖感にさらされ、次第に大声になる風間。だが、それにこたえる声はない。しかし、ワインこたえたようだ。

コツッ「っっっ!!」

何か固いものにかかとが当たった感触を感じ、飛び上がるように振り返った。

「なんで・・・?絶対さっきまでなかっただろ⁉」

半狂乱になりながら見た視界には先ほどまで確実になかった瓶が一本横たわっていた。

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