ワンダーとドートンの異世界旅行①(4)
呆気に取られる2人の前に現れた……というよりは聳え立つと言った方が正しいかもしれないでかい像。
絶世の美女だと聞いていた件の人はどう見てもスフィンクスだった。
いや、うっすらと透けている所を見ると建造物ではなく霊体なのだ。
「これって、紹介したいと仰っていた大先輩で合っていますかね……?」
「あ、バカ!」
「え?」
ワンダーの問いかけに、質問を受けたアクアは口を押さえて青ざめる。
『これ……お主、今妾の事を【これ】と申したか?』
「あ……いや、その……」
顔はスフィンクスで表情が読み取れなくも、明らかに声色と圧力が怒りを表している。気圧されて一歩下がるワンダーの前にドートンが腕を組みながら出た。
「アホか! 建造物、無機物にコレ言うて何がおかしいんじゃ! 大体、オスかメスか知らんけど、まぁこの感じは大体女やな。女っちゅーんは一切の説明も無く察してムーブかましては察しなかった方が悪い様な空気で勝手に責めよる、ホンマ面倒、これやから女は苦手じゃ」
「ど、道頓堀君……流石に言い過ぎでは」
ドートンのあまりのいい草にアクアを始め周りの男達も青ざめてしんと静まる。
件の霊体スフィンクスだけはフッと笑った。実際に笑ったかは分からない。
『お主の主張は十分に分かった』
和かな声色に一同がホッと行きを吐くも、スーッと息を吸ったスフィンクスは
『まずお主、無機物、建造物であれ1人の意思のある者をコレ呼ばわりは人としてどうかと思う。確かに妾は何も自己紹介もしてはおらぬが、それはお主も同じでは無いか? 一方で妾はお主の事をモノ扱いしたか? してはおらぬな。次にオスかメス、というのは家畜扱いだな? 妾が王族というのはお主には関係がないかもしれぬからこの際置いておくとしても、ごく一般的に初対面の話がしっかり出来る者に対して家畜扱いとはどちらが人でなしだ? 更にお主、これだから女は面倒と言ったな。お主はそれだけの女を知っていて申しておるのか? いいや、そんな訳はあるまいな。女を知っている数だけ女の良くも悪くも噛み締めるはずだ。つまりはお主、女の良くを噛み締めるに至る程女を知らぬのであろう。遠くから女の悪しだけしか見てないからこそこれだから、面倒、苦手、という言葉が口をついて出てくる。ならば妾もハッキリお主に言って進ぜよう。これだから女叩きが趣味の童貞丸出し拗らせ男はモテないのだ。男、女以前によくも知らぬ他人を尊重出来ないものは人としてつまらぬ、終わっている』
などとドートンの倍以上捲し立て、小説界隈でも中々お目にかからない長文お気持ちをぶつけた。余りの勢いと正論と痛手にケチョンケチョンに言葉でやられたドートンは砂地に沈み、ついでに周りにいた男子達もダメージを食らっていた。
「あーあ……だからやめとけば良かったのに。女性としての人生の大先輩のラー様によくもまぁあんな無謀な口喧嘩売れたわ」
「それで、僕たちに合わせたいお方はこちらの女性でしょうか」
なるべく地雷を踏まない様に丁寧に問いかけるワンダー。アクアはニコリと微笑んで頷いた。
「あなた達みたいな人にこーんなにうってつけの女性は他に居ないわよ。ラー様は見ての通りこんなに沢山の男達が雁首揃えても一切靡かないくらい手厳しいの。ラー様を振り向かせられる事が出来れば世界中の殆どの女性は抱けるわよ」
「いや、それは言い過ぎでは……」
と言いつつ、先程の捲し立てる様な正論パンチラッシュを見れば納得せざるを得ない。普通の女性ならばもう少し手心があるだろう。
正直なところ、ワンダーは今は彼女を作る気はあまり無く、自分を見つけることに手一杯で人の事にかまけていられなかったのだ。
が、アクアが顎でクイクイとラーを指し、他の人も見守っている空気の中でそうも言い出せず、これも人生経験だとラーの前に立った。
「あ、あのー……いい天気ですね。ご趣味は」
何の話題から切り出したら良いか分からずにイメージでお見合いの様な事を言ってしまうワンダーに、ラーはフッと笑った(ように感じた)
この流れは先程の正論パンチラッシュかと身構えたが、ラーは淡々と返した。
『お主、そちらの男と一緒で他人に興味が無かろう』
「え……僕が?」
意外な事を言われて眉を寄せた。何せワンダーは他人には興味がある方だ。それでジェドやナスカに諭された位だ。他人の人生を物語を楽しむような男だ。それは今でも抜けていない。誰かの人生を覗けるなら話の種に覗きたい衝動を必死に抑えているのだ。
『お主には他人を愛そうとして知ろうとする気持ちが感じられない。他人に対する興味は十分に有るだろうが、それは酒のつまみにしか思っていないだろう』
静かに冷笑するラーの言葉にワンダーはドクンと鳴る胸を押さえた。
「な……なんで?」
『何で分かるか? 妾が人を愛する為に人と向き合っているからだ。砂漠の地に降り立つ全ての者が妾の恋人。その者がどんな者が、何処を好きに足るか、妾は人に興味がある。愛したいのじゃ。だから、生前男共は妾の前にひれ伏した。妾に愛されたいから。妾に全てを愛してほしいから』
ワンダーは顔を上げた。確かに、だ。初対面のはずのドートンに対してもその全てを悟る様に悪いところを捲し立てていたが、それはほぼ当たりであるからドートンも大ダメージを受けていたのだ。
その洞察力、その興味、それはその人をどうでも良いと思っていれば生まれない。
ワンダーは、確かに他人の人生に興味がある。だがそれは【面白い他人の人生】の話だ。面白い小説だけ残してあとはちょっと読んで面白くないと悟るや中古に売り払うような……
「あ、あの……」
気がつけばワンダーはラーに問いかけていた。今聞きたいのは天気の事でもご趣味でも無い。
「……僕の好きな所って、何処ですか?」
『……お主は、素直に自身の間違いを受け入れて前を向く事が出来る。それは凄く難しい事。後は秘密、女性に全てを喋らせるのはフェアじゃないわ。お主が妾の良い所を一つ言う毎に教えてやっても良いぞ?』
「ら……ラー様……」
ポーっとスフィンクスに見惚れるワンダーを復活したドートンが後ろから蹴り飛ばした。
「だあほ!!! 何簡単に落とされとんねん!! 相手は無機物の亡霊やぞ!! 好きになってくれたから好きになるとか童貞かおのれは!!」
「道頓堀くん、それはちょっと酷くない。僕はラー様の言葉に感銘を受けただけで……」
「だあああ!! 信仰宗教か! いや、神みたいなもんやからええのか……ええ訳あるかい!」
『お主』
喚き散らすドートンをラーは上から手で押し潰した。霊体のはずが不思議と質量があるので砂地にめり込んだ。
『そういう所がダメなのよ。でも安心せよ、妾はお主のそういう突っ込みを抑えきれぬ所も、友達思いな所も、心配性な所も嫌いじゃないぞ。どちらかと言うと好きよ?』
めり込んだドートンの上の手をよけながらラーが言うと、めり込みながらも「え……そう?」と満更でもない様子だった。
「あなた達、簡単過ぎるでしょ……」
これじゃあ女性への苦手意識克服にならないのでは、と肩を落とすアクアに、ラーはニコリと微笑んだ。(ように見えた)
『意地を張らず、素直になるのが女に近づく第一歩よ。人は鏡。愛されたいならば愛する、これぞモテテクニックの基本のきじゃ』
「流石です、ラー様」
アクアが感心してメモを取る横、ワンダーとドートンはすっかりラーの虜になっていた。
ラー側もイケメンが沢山来て気を良くし、その年の祭りはお日柄もよく和やかに賑やかに祝福も調子良く終わったとかなんとか。




