女の子大好き遊び人はおじさんの中身が知りたい(中編)
「おや、ジェドの友人が来ていたのだね、君は……ええと」
「嫌ねぇあなた、伝説の遊び人のナスカさんよぉ。ボケるには早いわ」
「はっはっは、何せ剣の腕が立ちそうな人しか覚えていなくてなぁ! この間も全然思い出せない自称宿命の剣士殿に戦いを挑まれて全然思い出せないまま滅多撃ちにしてしまったな」
豪快に笑うジャスターと、その背中を叩き笑うチェルシー。
愛想笑いで挨拶をしたナスカはピシリと固まりショックを受けた。
ナスカは普段、女性に邪険にされたり嫌われる事があまり無い。
ガラの悪そうなチャラチャラとした見た目に苦手意識を向ける女性も居なくは無かったが、相手が望む姿を見せればそんな女ほどコロッと堕ちる。
チャラ男からの真剣な恋? はたまたオラついた強引な態度? はたまたその人だけに見せる子供っぽさ?
女性の扱いに慣れているナスカはどんな人でも堕とす自信があったのだ。大事な友人関係を壊しそうな面倒な相手以外は。
……だが、全く興味がないどころか名前すら忘れられている事は初めてだった。
(くっ……けど……いや……)
相手が男でオジサンだからという理由は無しである。何故ならジャスターは確かにジャスミンという女性だったのだから。
隣のチェルシーも口ではナスカの名前を覚えていても、やはりジャスターと同じように強い剣士以外に興味は無さそうだった。ナスカにはよく分かる。無駄に良い目とチャラ男の経験から。
「覚えてないなんてヒドイー、遊び人のナスカくんです、これから興味持ってねジェドっちのパパ、ママ」
ならばジャスターが女子かどうかは関係無い話だと、ナスカは切り替えて笑顔になった。勝負は始まってすらいない。
「はっはっは、いやぁ、ジェドと仲良くしてくれる子は歓迎さ。アイツも相当変わっているからね。直ぐに帰って来るだろうからゆっくりしていってくれ。さて――」
そう言いながらジャスターは肩にかけていたコートを脱いだ。
(む……むちむち……ではあるゲド……)
シャツからはみ出んばかりのジャスターの身体はむちむちだった。ナスカはむちむちボディは大好きだった……が、大好きな方のむちむちでは恐らく、ない。
血管が浮き上がる程の逞しい腕は絶対に硬いと思わせる……そんな説得力が確実にあった。
なのに……なのにどうしてかナスカの目にはやはり美味しそうな女性のそれに見えてしまうのだ。
(いや、判断材料はそこじゃない……)
一瞬、考えたくも無いが普通のおじさんも守備範囲に入ってしまったのでは無いかと思って嫌な想像に頭を抱えた。
そう、ジャスターが女性という概念ならばその欲情も頷けるが、そうでなく身に引っ張られ中身もおじさんならばそんなジャスターのむちむちの身体に惹かれたナスカは負け中の負けなのだ。
早くジャスターの真意を覗かねば取り返しのつかない方向に行ってしまうのではないかと……一抹の不安を覚えた。
「私は鍛錬があるからね。ジュエリーは母さんと食事になさい。ナスカ君は食事はまだかね?」
「あれ? 夫婦一緒にやらないの?」
「ああ。チェルシーと私は鍛錬方法が違うからね。チェルシーはパワータイプだから筋力トレーニングがメインなのさ」
「ぱ……」
ナスカはチェルシーを振り返った。どうやらあちらのむちむちしたオジサンはパワータイプではなかったらしい。
ナスカの目では物理的な透視は出来ない。チェルシーのドレスの下も気になって来た……だが。
「俺、食事よりパパの鍛錬が気になるから一緒に行ってもいい?」
「ん? 剣に興味があるようには見えなかったが……君が楽しめるような事があるかは分からないがそれでも良ければ構わないさ」
「やったー」
喜ぶナスカの横にコソコソとジュエリーこと大輔が寄って来る。
「あの……ナスカさん、さっきから何か父さんに絡んで行って……その、何企んでるですか」
「大ちゃん、NTRってさぁ……どう思う? 肯定派?」
「NTR……ねと――い、いやいやいや、ちょ、何考えて、うえ?? どういう趣味?? 母さんじゃなくて父さんで合ってるよね?!」
思わず声が大きくなりそうな大輔の口を手で押さえ、ナスカは耳打ちした。
「だから、そのパパが男子なのか女子なのか、本質はどっちなのか探ろうと思ってさ。パパが中身に準じて本当は女の心を持っていたら問題無い訳じゃん?」
「いや、あるよ! あり過ぎて何処から突っ込んでいいのか分からないよ!!!」
最早、ナスカの話が突拍子も無さすぎて何処の何が問題かすら分からなくなって混乱する大輔だったが、ナスカとて本気でおじさんを寝取ろうなんて考えている訳では無かった。
「冗談だって……いや、半分本気か。だからつまり、俺に落ちるようであればもうそれは女性って事じゃん?」
つまりは、ナスカがどうにかして誘い出し、誘いに乗って落ちるようであれば正真正銘ナスカの勝ちなのだ。
「いやいや……父さんだよ……? いくらナスカさんだって、さっきのあの様子じゃ無理でしょ……」
「んー、や、俺の勘が言っている。何かこう……勝負師の勘が行けと」
「ええ……」
困惑する大輔の頭にポンと手を置きナスカは笑った。
「大丈夫大丈夫、仮にオジサンじゃない普通の人妻だったとしても遊び以上の関係になった事なんてないから。嫌じゃん、家庭を壊すのってさ」
「め……めちゃくちゃだよ……これがDQN……」
倫理観がバグっているナスカの言動にドン引きの大輔。その姿を尻目にいそいそとジャスターの後ろについて行くナスカだった。
「あらジュエリーちゃん、そんな暗い顔でどうしたの? またお兄ちゃんが居なくて寂しがっているの? ふふふ」
「母さん……実は……」
大輔はナスカの話を話すべきか迷ったが、下手したら家庭崩壊の一大事。黙っていられるはずも無くチェルシーに全てを打ち明けた。
「あらぁ、まぁまぁ……ほほほほ」
「ええ……」
ナスカが遊び心を抑えきれずジャスターの本質を暴いたり、下手したら狙っている事を伝えるも、チェルシーは興味津々に話を聞いては楽しそうに笑うだけで心配する様子も嫉妬や起こり出す様子もなかった。
「母さん、心配じゃないの?? それとも心配の必要が無い位に父さんを愛しているってコト?!」
笑顔の意味が分からずに問いかけるも、今度は何故かその発言の方にキョトンとしては大爆笑するチェルシー。大輔にはチェルシーの考えが全く分からずに困惑するばかりだった。
「嫌だわジュエリーちゃん、うふふふ、もう、お母さんをそんなに笑わせちゃダメよぉ、あはははは」
「いや、どういう事か全然分からないんだけど!!」
「ふふふ、ジュエリーちゃん……いえ、大輔ちゃんだったかしら? 貴方は1つ勘違いをしているわ」
「――え?」
「あの人と私……ううん、ジャスミンと私は確かに愛し合っているわ。けどね、それは貴方が思うようなものじゃないのよ? だって……私達、女同士でしょ?」
「え……じゃあ……」
チェルシーは確かにジャスターを……いや、ジャスミンを女性だと思っているのだ。
「じゃあ、何で……一緒にいるの? 何で、俺たちを産んだの……?」
今度は逆にチェルシーの言葉に不安になる大輔だったが、ポンと頭に手を置いて優しく微笑んだ。
「うふふ、そんな顔をしなくても大丈夫よ。大輔ちゃん、私もジャスミンも貴方達を愛しているし、大切な家族よ」
「母さん……」
「だって、私達の子供だもの。ジェドもちゃあんと強い剣士に育ってくれたし、大輔ちゃんだって聖剣使いとしてめきめき腕を上げているでしょう? その内私がちゃんと稽古をつけてあげるからね」
柔らかい笑顔の裏に隠れた禍々しい程の剣への執着心。その笑顔を見た瞬間に大輔は気付いた……愚問、愚問だったのだ。この2人は恋愛なんかしては居ないし、結局剣の事しか考えてはいない。
つまり、2人が結婚し子供を産んだのも強い剣士同士で、たまたま男女だったから、それだけなのだ……
そこまで来ると1周回って最早ショックも何処かへ消えてしまった。
ナスカが幾らちょっかいをかけようと、無駄なのだ。壊れるも何も最初から壊れるものなんて無かったのだから。それが分かっただけでもホッとするべきかと思っていると――
「それにしてもジャスミンに手を出そうなんて、あの子凄くチャレンジャーなのね」
「え……」
「ジャスミンって、結構探究心を押さえられない方なのよ。あの子悪役令嬢でしょう? 嗜虐趣味までは無いとは思うのだけど……何か失わないといいけどね」
うふふ、と笑いながらサラッと恐ろしい事を言うチェルシー。大輔は父ジャスターの心配ではなく、ナスカの身を案じる羽目になろうとは……




