ゴリラなんて知りません!〜ゴリラウホウホの騎士団長は今日も歩けば出会ってしまう
こちらはノベルアップで開催されていたゴリラ小説大賞の為に書いたゴリラ小説なので本編とはほぼ関係ありません。もしかしたらジェドの第三の世界線があるのかもしれない位の感覚でお読みください
(何でこんなに多いのか……)
ここは……とある平和な異世界。
公爵家の子息であり、この国の皇室騎士団長、漆黒の騎士ジェド・クランバルは頭を抱えていた。
何に頭を抱えているのかって?
それは勿論、戦争や派閥争い……ではなく。暗黒竜の脅威や厄介な異世界人の侵略……でもなく。悪役の運命を知った悪役令嬢が助けを求めて来て困っている……訳でもなく。
先にお話しした通り、ここは平和な世界線。皇帝の治世により争いは全く無く、悪巧みをする者もおらず、チート無双勇者や悪役令嬢も居ない。
俺の悩みはそれらとは全く関係が無かった。
では何を悩んでいるのか? ……こんな事を言って信じて貰えるか分からないのだが、とにかく寄せつけやすい体質と言いますか……
え? 幽霊とかではありませんよ。俺、霊感ゼロですから、ゴーストとか全く見えませんからね。
じゃあ何を寄せつけるのか……
――ゴリラだ。
何を言ってんだって思うじゃん? わかる、俺もそう思うよ。
嘘だと思うかもしれない……だが、俺の話をこのまま聞いてくれ。
ある日の午後……俺は騎士団の仕事も終わり皇城から帰ろうと歩いている時、ふと中庭で目があった。ゴリラと。
一瞬ビビったね。野生の魔獣かと思って剣を抜きかけましたよ。だが、そのゴリラはこちらを襲うでも無く、じっと見つめていた。
凶悪そうな見た目に似合わず、その眼差しは何処か遠くを見つめていた。
「何でこんな所にゴリラが……?」
ゴリラは黙して語らず……ただその眼差しが俺に訴えかけていた。
俺は頷いた。いや、ゴリラの気持ちが分かったから頷いたのでは無い。そもそも城にゴリラが居るのはおかしい。ゴリラは森だろ。
俺はゴリラを森に運んだ。
ゴリラは嬉しそうにドラミングをしていた。それが嬉しい時の奴なのか全然知らないけど。
俺は満足して帰路に着いた。やはり動物は自然に還るのが1番の幸せだろうと……
良い事をしたと思いニヤニヤしながら皇城の門を潜った時、目を疑った。
ゴリラが……いる。
何故だ?? 今野生に還したはずでは?
ついてきてしまったのかと思い門の影からこちらを見つめるゴリラをよくよく見るが、それは微妙に先程のゴリラとは違っていた。体格もひと回り位小さいし、鼻の形も微妙に違う。
「だから、何でゴリラが城に居るんだ……?」
やはりゴリラは何も語らない。何故ならゴリラだから。
だがその眼差しは訴えかけている。こちらをじっとみつめ、微動だりしない。
俺は頷いた。そしてこのゴリラも野生に還した。ゴリラの気持ちが分かった訳では無い、ゴリラは城に居るべきでは無いからだ。邪魔だし。
ゴリラはお礼も言わず森に還って行く。俺は別にゴリラからお礼を言われたい訳では無いから大丈夫だ。俺は人間だからお礼を言われてもゴリラ語は分からないし。
またしてもひと仕事終えた充実感で帰路につくと、皇城の門の前に女が立っていた。
「騎士様、お願いがあります」
「貴方は……子爵家の」
そこに居たのは貴族令嬢だった。
貴族のご令嬢が公爵家子息の騎士団長に頼み事をするなど、相場が決まっている。
恐らく望まぬ結婚をさせられそうになっているので助けて欲しいとか……もしかしたら前世の記憶を思い出して破滅の未来がどうのとか、そんなファンタジーな話かもしれない。
「実は、この子を助けてあげて欲しいのです」
そう言って子爵令嬢が連れて来たのは……ゴリラだ。俺に用があるのは望まぬ結婚をさせられそうになっている令嬢でもファンタジーな令嬢でもなく、ゴリラだった。
「……何故、俺に頼むんだ?」
「公爵家子息の素晴らしき家柄……それにクランバル公爵家と言えば剣聖を生み出す家系として有名ですよね。その腕を認められて騎士団長となったなったジェド様ならばこの子をどうにか出来るのでは無いかと思いまして」
ゴリラ対応に家柄関係ある?
「まさかそのゴリラ……闇の力を秘めているとか、呪いのかけられたご令嬢だとか……そういう話なのか?」
「いえ? ただのゴリラです」
ただのゴリラだった。じゃあ尚更何で俺なんだ。
俺の疑問に答える事無く、子息令嬢はゴリラを俺に押し付けて来たので……仕方なく森にゴリラを還しに行った。
ゴリラに対しては公爵家の家柄も剣の腕も、何ならイケメン高身長のこの容姿も……全て意味が無い。
ゴリラの前では貴族もバナナも同じなのだ。……いや、同じって事はないか。バナナの方が価値がある。美味しいから。
「……はっ。俺は……何を考えていた……?」
我に返った。危ない、ゴリラのせいで危うく自分の存在意義が分からなくなる所だった。
イケメン高身長、公爵家子息の騎士団長がバナナより価値が無い訳ないだろう。何を言っているんだ。
それからも俺は何度もゴリラに出会ってはゴリラを森に還す日々が続いていた。だが……ある時、急を知らせる荒い声が騎士団の元に届いた。
「た、大変だ!! 魔王だ! 森が襲われてる!!」
「何?! 何で魔王が?!」
「あっ! 騎士団長!! 1人は危険です!!」
気がつくと俺は走っていた。持ち余すスキルをフルに使って森に向かっていた。
……あの森には、ゴリラがいる。それも1匹2匹ではない……沢山のゴリラが居るんだ。
俺はゴリラを城から遠ざけ、森に還していた。だが……俺は今ゴリラの元に走っている。
走りながら考えた。ゴリラとは何なのか。何故あんなに俺の前に現れたのか。
ゴリラはそこに居ただけだったのだ。俺が勝手に森に還していたのだが、そんな物は俺のエゴだったのかもしれない。
人間にとっての俺は騎士団長であり公爵家の子息でありイケメンであるが……ゴリラにとっての俺は何だか分からないが森に運ぶ運送屋……アッシーでしか無いのだ。
そして、森が襲われた今となってはゴリラ災厄の根源でありゴリラ絶滅の危機に手を貸すゴリラ犯罪者。済まないゴリラ……
だが、まだだ。諦めてはいけない。まだ間に合うかも知れない。
俺はゴリラを助け、ゴリラにとっても騎士になれるように……森までの遠い道のりを駆け抜けた。
木の燃え盛る匂い。緑多き森は真っ赤な炎の景色へと姿を変えていた。
燃え盛る炎の中心には魔王が居た。そしてその周りには……ゴリラ。
「魔王!!」
俺は腰の剣に手をかけた。だが、振り返る魔王は泣いていた。……何で?
「……何で急に泣いてんだお前。魔王で合ってますよね……?」
少し黒い肌、尖った角、魔族の証の紫の眼……特徴は完全に魔王と一致していた。だが、魔王っぽい奴はゴリラを見て泣いていた。
「捨てても捨ててもゴリラが戻って来る……」
魔王が泣きながらゴリラを指差した。
「……城にゴリラが居たのは、もしやお前のせいか……?」
「そうだ」
「何故城にゴリラを捨てた? 皇帝を襲わせる気か?!」
「いや……城なら沢山ゴリラを捨てても育ててくれるかなと思って。こんな大量のゴリラ、そこら中に簡単に捨てられないだろう。城なら騎士や兵士も居るからゴリラが暴れても抑えられるしバナナも沢山くれそうだから良いかなって……」
……なるほど。つまり、俺が毎日ゴリラを森に還す羽目になったのはコイツのせいなのだ。
確かによく見るとここは魔王の土地である。何故自分の土地に火をつけているのか。
「良い訳無いだろ。育てられなくなったからって勝手に捨てていい訳が無い……ちゃんと育てろよ」
「? 何を言っているのだ。何で俺がゴリラを育てなくてはならない」
「??? 育てられなくなったから捨てたんじゃないのか???」
「そうでは無い。そもそも俺にも何でアイツが魔獣に混じっているのか分からない」
「????? この森の動物では無いのか……?」
「ああ……」
燃え盛る炎の森の中……魔王は逃げ惑うゴリラを遠い目で見つめていた。
「奴らはこの世界に存在しない動物だ……」
「何?!」
俺達は当たり前のようにゴリラを知っているから、当たり前のようにゴリラがこの世界の生き物だと思っていたが……存在しない動物……だと?
「奴らはある日突然この世界に現れた……異世界から捨てられて来たのだ。今もまた1匹……また1匹と増えている」
「なん……だと……? 何故異世界からゴリラが捨てられて来るんだ……?」
「……俺が城にゴリラを捨てる。城で見つけた誰かがゴリラを森に捨てる……その輪の中に異世界から捨てられたゴリラが入っていただけだろう」
「そうだったのか……」
「見ろ、ゴリラが消えて行く」
魔王が指差す先、炎に包まれたゴリラは次々と消えて行く。この世界の物では無いゴリラはこの世界では死なない。
おかしいと思っていたのだ……
ゴリラと対峙した公爵家子息のイケメン騎士は無価値だった。何故価値が無いのか疑問だったが……それはゴリラがこの世界の者では無かったからだったのか……
「ゴリラと対峙した時、俺は魔王としての価値を疑った。誰もが恐れ畏怖する魔王……だが、ゴリラの前では魔王は無価値。バナナ以下だ。ゴリラは勇者じゃないから経験値も金も何もかも要らない。バナナだけ有れば良いのだ」
魔王も同じ事を考えていた。
炎の森から次々と消えるゴリラ……ゴリラが何処に消えたのかは分からない。もしかしたらまた他の世界に行ったのかもしれない。
俺や魔王はゴリラにとって最後まで無価値だった。何故ならゴリラはこの世界の者では無いから。
貴方の世界にゴリラは居るだろうか? その世界で貴方はゴリラにとって価値が有るだろうか?
もし無いと感じたら……そのゴリラは異世界から来た存在なのかもしれない。




