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とある女王、魔王領に行く(中編)★

 


 魔王領温泉の入り口から中に入ると、受付待ちの客が列を作っていた。

 ガイドブックや噂で聞いていた通り本当に魔王領が観光地として人気なのだと、オペラは複雑な気持ちになった。

 今まで魔族を恐れていたのは本当に聖国だけで、実際には魔族と他の国はこんなにも関係が進んでいたのだ。


 知らなかったのも勘違いも騙されていたのもどれもこれも仕方が無い事だと無責任に割り切れるような性格ならば良かったのだが、特にここ数ヶ月は皇帝や周りの人間と関わる事が多く、その殆どが魔王とは友好的な者ばかりだった。

 魔族を憎まないで欲しいという皇帝の言葉。


 だが、誰かに言われたからと言ってそう簡単に仲良く出来るものではなく……頭では分かっていても友好関係に行くにはきっかけが無さすぎた。


 魔王アークとは帝国で1度話をした時以来何の交流も無い。その1度だって最悪の会話だった。

 殆どどんな性格の者なのかも分からない。


 自分はどうやら竜の国に行った後の数週間の記憶が無いらしいのだが、知らない間に何か解決策かきっかけでも有ってくれたら良かった……なんて、そう上手い話がある訳は無いだろうとオペラはぼんやり考えていた。


「次のお客様ー」


 考え事をしているといつの間にか受付の列が進んでいたらしく、慌てて優待券を出した。

 ニコニコと微笑んだ受付の魔族はオペラの手首に何かを巻いた。一瞬何かの魔術具かと思って身構えたが、それはただの色付きの紙のテープでそれを巻いていると温泉内の何処でも利用が出来るという目印らしい。


「何処に行けば良いのかしら……」


 温泉というからには入浴出来る場所だけなのかと思ったが、それ以外にも沢山ある。

 渡されたチラシをよく見ずに来たので何処から回った方が良いのか悩んでいると、他の観光客の話がオペラの耳に入ってきた。


「今レストランでスイーツバイキングやってるらしいよ」


「え? 行くしかないでしょそれ!」


 ドワーフの女性客がバタバタとレストランに向かって走って行った。オペラは外で串団子を少し食べた位だったのでそろそろお腹も空いていた。


 バイキングが何なのかイマイチぴんと来てないが、とりあえずその客の後を追いかけるように歩きレストランへと向かった。



 レストランは沢山の客で賑わっていたが、そこはオペラのよく知っているような仕様ではなかった。

 テーブルはあるものの、給仕がいる訳では無く自らが好きな物を好きなだけ取りに行くというスタイルは王族のオペラにとっては信じ難いものだった。


 こんなスタイルは欲張り者が1人で沢山取ってしまい争いになるのでは? と思ったが、意外にも皆秩序を守り少しずつ取り分けていた。

 というか品数と量がありすぎて少しくらい多く取った所で料理は無くならなかった。欠品した物は代わりの料理が直ぐに運ばれてくる。魔族の料理人は魔王に奴隷のように働かされているのでは? と心配すら覚えたが、チラッと見えた厨房は嫌々働かせている様子は無かった。


 列に混ざり料理を見るとそこにはそれぞれ注意書きが貼られていて、種族別にアレルギー表示が書かれていた。精霊が食べられないもの、エルフがダメなもの、ドワーフがダメなもの、人魚がダメなもの、獣人がダメなもの、竜族がダメなもの……


 そして、聖国人の文字を発見した時、オペラは驚いた。何故、魔族は聖国人が来ると思っているのか。

 聖国人が魔族に嫌悪感を持っているのは知っているはずだ。未だ王同士で話もしておらず、国交も無い。

 なのに魔王は聖国人が来ると思っているらしい……


 確かに実際来ているのだが、そう書かれているのを目の当たりにしてしまうと何だか自分だけが意地を張っていると言われているような気がしてムスっとした。


 悔しい想いをしながらも、聖国人が食べられない食事を避けながら料理を取った。


「こっ……これは……」


 暫く進んだ先でオペラは後悔した。

 何故……デザートが最後にこんなに沢山あるのだ、と。

 言われてみれば先程の女性達がスイーツバイキングがどうのと言っていた気がした。オペラはスイーツ祭りか何かだったのかと納得したが、納得出来なかった。

 何故なら既に沢山の食事を皿に乗せていたから。


 悲しい事にデザートは全て聖国人が食べられる食材だった。

 ここから1つ……選べるのは1つ……と思うと余計に選べない。どれもこれも美味しそうだった。この形式の食事方法は罪深い……


 眉間にシワを寄せながらグルグルとデザートの周りを回っていると、先程のドワーフ2人の会話がまた聞こえてきた。


「こんなに沢山あるけど、甘い物は別腹とはよく言った物ねー。幾らでも食べれちゃう」


「本当それよね。食べれないと思う量持って行っても大丈夫なんだもん」


(……別腹? 牛には胃が4つあると聞いた事があったが、ドワーフは人とほぼ変わらないはず……別腹とは一体何なの? でも……確かに他の者達も信じられない量のデザートを盛っている……別腹とは聞いた事が無いけど……)


 とりあえずオペラもそれに倣って一通り盛ってみた。本当に食べられるのか心配になる量がテーブルに置かれている。


「……何よ……」


 美味しいじゃない。と思いオペラは顔に出さないように黙々と食べた。美味しそうな物をちょっとずつ取るのは正解である。お代わりしたくなればまた取りに行けば良いし、思っていたより好きじゃない物も選べるが、今のところ好きじゃない物は無い。

 一通り食べ終わった所で山盛りのデザートに行き着いた。本当に別腹という物が存在するのだろうかと半信半疑。お腹は既に満杯である。


 恐る恐る小さなケーキからフォークを刺して口に運ぶ。


「……これは……」


 甘いクリームと瑞々しい果物の酸味が口に広がった。


(これはいけない……いけない物だ)


 気が付いたら無くなっていた。いけない物だったわと思いながら次のケーキにフォークを刺した。それもいけない物だった。結論から言うと全部いけない物だった……あんなに山盛りになっていたデザートは信じられない事に簡単に無くなっていた。


 オペラは驚愕した。別腹とは本当に存在していたのだ。一体何処に消えたのか分からないが、もう入らないと思っていたお腹には別次元が存在していたらしい……と思いお腹をさするが、別次元など無かった。全てちゃんとオペラのお腹に収まっていたのだ。


 しまった……魔族の罠だったか……と、オペラは悔しがりながらお腹を隠してレストランを後にした。



 次に向かう所は何処にしようかと歩き回ったが、やはり温泉に来たのだから温泉に入らねばいけないのだろうかとオペラは女湯の前に来ていた。


 だが、女性同士とはいえ多くの他人と一緒に入るのはまだオペラには抵抗があった。羽を露わにするのも気になるし、あと膨れたお腹も正直気になっていた。恥ずかしい。


 ウーンと悩みながら女湯をウロウロしていると働いているスタッフらしき人間の男に声をかけられた。


「あのー何か困ってますか?」


「え? いえ……その、わたくし温泉が初めてなものでちょっと抵抗があって……」


「あー、なるほど。まぁ、温泉なんて異世界じゃ慣れるまで抵抗ありますよねー」


「え?」


「あ、いや、こっちの話で。それより、もしここの大浴場に抵抗があるのなら、この温泉施設の裏側を少し登った先に隠れた露天風呂がありますからそちらはどうですか? そこならお客さんは殆ど知らないからあんま誰も入らないみたいだし」


 男は中庭から続く裏道を指差した。


「一応着替え場所とかもそこにありますけど……」


「そうなの……教えてくれてありがとう」


 そこならば試しに行ってみても良いだろうとオペラは教えられた露天風呂に向かって歩き出した。


 そこは戦いを挑まれた時にしか使われない露天風呂である。魔族は皆そちらでは無く普通の大浴場を利用する。本当にあまり使われていない露天風呂だった。1度だけ聖女達が来た時に利用されていたが……多分誰も使わないから大丈夫だろうと思い、高橋は掃除に戻った。


 ……だが、確かに魔族の殆どが利用しない露天風呂だったが、1人だけそこを隠れて利用する者がいたのである。

 汗だくのその男……本当は大浴場を使いたかったが、大浴場付近でオペラと鉢合わせになっても困ると……普段はあまり使わないその知られざる露天風呂に入っていた。



「ここね」


 裏道を少し歩いた先に小屋を見つけた。脱衣所で服を脱ぐと改めて見る自分のお腹に驚愕した。なんて恐ろしい……やはり魔の国は罠だとプルプル震えた。


 大きなタオルが置いてあったので1枚身体に巻き、露天風呂へと進んだ。

 風呂に足を入れて浸かってからオペラは気付いた……認識阻害の眼鏡を外し忘れて眼鏡が曇っていて何も見えない。


 その様子を驚愕して見る男が1人、露天風呂内の岩陰に隠れていた。


(な、な……何でここに……????)


 魔王アークは、曇った眼鏡をかけてタオルを巻いた聖国の女王の姿を岩陰から見て青ざめた。


挿絵(By みてみん)

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