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プロローグ:庄司夏生の身の上話

5万字くらいでサクッと終わる話です。よろしくお願いします。

 今から二十年と少し前。一組の若い夫婦が、交通事故でこの世を去った。

 二歳かそこらの小さな子供と、多額の借金を残して。


 彼らが何の仕事をしていたのかは知らないし、何のための借金だったのかも分からない。

 私にとって重要なのは、彼らの死後に土地や家財をほとんど売り払って、それでも借金がいくらか残ってしまったという事実のほうだった。


 夫婦に金を貸していた人は、残された子供を自分の屋敷に迎えることにした。

 両親が返しきれなかった金を返すために、お前がこの屋敷で働くのだと言って。


 私の名前は庄司(しょうじ)夏生(なつき)

 借金の担保(かた)として引き取られた、当時二歳の子供である。




 屋敷に来たその日から、私は一階に下りることを禁じられた。

 逃亡を防ぐためだと教えられているが――正直、馬鹿げた心配だと思う。口にしたことはないが。

 だって仮にここから逃げ出したとして、外のことを何ひとつ知らない私が、どうやって生きていける? 両親はすでにこの世におらず、頼れる親類にも心当たりはない。この屋敷以外に行き場などないのだ、出て行けと言われる方が困る。

 生活に必要な設備も、ひと通り二階に揃っているので、特に不自由はない。一階の仕事ができないのが、少々不便なくらいか。


 屋敷に来たのは幼稚園に上がる前で、学校に行くこともなかった。

 文字の読み書きや数の計算は、当時の執事から、使用人としての作法と一緒に教えてもらった。

 彼が何という名前だったのかは覚えていない。おじいさま、と呼んでいたことだけ覚えている。


 五歳くらいの頃だったように思う。

 その執事(おじいさま)が一度だけ、私に「辛くはないか」と問うてきたことがあった。

 彼が何を指してそう言ったのか理解ができず、特に辛いと思うこともなかったので首を横に振ると、「そうか」と頷いて私の頭を撫でた。

 あの時の言葉が何を指していたのか、未だによく分からないでいる。


 しかし、理解できたとしても、私は首を横に振っただろう。

 五歳にもなれば、両親が死んだという事実を飲み込むことくらいはできる。

 それに……ちょうどその頃、両親と過ごした年数を、おじいさまと過ごした年数が越えようとしていた。我ながら薄情な話だが、まあ、そういうことだ。




 やがておじいさまが執事を引退して屋敷を去り、私と共に過ごすのは歳の近い同僚になった。

 雇い主は変わらず旦那様――おじいさまにそう呼べと言われた――のままだが、直接お仕えするのはそのご令息に変わった。


 屋敷の二階。

 よく磨かれた床と古い匂いのする壁、窓の外に広がる空と庭。

 それが、私の知る世界の全てだった。


 ――あの、年明け間もない冬の日までは。

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