岐阜の三介殿2
織田信雄は滝川雄利の知らせを信じられない面持ちで聞いていた。
「嘘じゃ!筑前守の罠じゃ!三河殿が亡くなる訳があるまい。」
「殿、しかしながら、念のため小牧山城を調べた我が方の物見の知らせでは、城は羽柴勢で満ち溢れていたとのこと。
もはや三河殿の死は確実でございます。
この先どうするかが肝要でございます。」
「わかった雄利。いかにする。」
「されば、座して羽柴勢をこの城で待って籠城するか、羽柴勢に降伏するかどちらかかと。」
「尾張の兵を集めて伏兵として籠城はできんか?」
「こたび、羽柴勢は尾張から、攻勢しております。尾張も羽柴勢に落ちたと考えるがよろしいかと。」
雄利は勘違いしていた。
秀吉は岡崎までは落としたが、尾張は手付かずであった。
信雄の策は採用するには良かったのだが、雄利は、却下してしまったのであった。
「三河殿がいない今は、筑前に頭を下げて許しを請うしかないか…」
信雄は半ば諦め気味になっていた。
「そのお役目、私にお任せ願いますか?」
「雄利、お主に任せた。
それにしても羽柴筑前守は、亡き父上もその才覚を褒めていた男であった。
三河殿がそれに対して上手く立ち回れると思うていたが、こうもあっさりやられてるとはな。
組んだ相手を間違えたか…」
「いやいや、殿、そうではありません。
羽柴筑前守が強すぎただけでございます。
亡き上様は三河殿を恐れ、密かに誅されるつもりであったと聞いております。
それを本能寺で行うつもりであったのを亡き日向守(明智光秀)が上様を討ったということでございます。
いわば、上様がなされようとしたことを筑前守がなさったにすぎません。
そこを逆手に取り、筑前守を持ち上げ、上手く生き残れば良いかと…」
信雄の目が輝いた。
「なるほど、ならば生き残る手はあるやもしれない。雄利、任せたぞ。」
「かしこまりました。」