岐阜の三介殿1
家康から諭され、岐阜城に戻った織田信雄は家康からの知らせを首を長くして待っていた。
今日も側に仕える滝川雄利に
「三河殿から勝ったという知らせはまだか?」
と聞いていた。
雄利も毎日のように、
「小牧山城と楽田城の間で小競り合いを繰り返しているとのこと」
と答えるのみであった。
ある日のこと、雄利の前に物見から奇妙な知らせがあった。
「尾張の方から、小牧山城に向かって大軍が向かっています。」
雄利はまさか羽柴勢とは思わず、
「それは、三河殿が援軍を呼んだのであろう。
捨て置け。」
と言って、物見のものを下がらせた。
『三河殿も業を煮やして、いよいよ動いたようだな。殿に良い知らせが出来そうだ。
殿の短期は父親譲りだからな。』
雄利はやれやれという表情で、自分の部屋へと戻って、しばし休んでいた。
その日の夜半過ぎであった。
雄利の元に徳川家の使いのものが血相を変えて現れた。
「徳川家の方か、いかがされた、そんなに慌てて。」
「拙者、本多平八郎に仕えし者、命からがら小牧山城を抜けて参りました。
み、水を」
「だれかある、水を持て!」
使いのものは、水を飲むと
「本日昼過ぎ、羽柴勢、小牧山城を挟み打ちし、我が徳川勢は壊滅し、我が主人他、多数のものが討ち死に致しました。」
「なに!三河殿は?」
「敵に囲まれ、腹を召されたとのこと。
吾はなんとか城を抜け出しました…」
そういうと使いのものは、ぱったりと倒れた。
「誰かこのものを手当てしてやれ。」
そういうと雄利は考え込んだ。
『あの尾張から来た兵は羽柴勢であったか?
しかしどうやって尾張から来たのだ。
おそるべし羽柴筑前守。
この岐阜も危うい。』
雄利は、急いで信雄の元へと向かった。