小牧・長久手の戦術7
小牧山城の家康は、毎日、単調な楽田城の羽柴秀長、秀次との小競り合いにいささか飽きて来ていた。
「正信、敵は飽きもせずに毎日毎日同じように攻めては引きの繰り返しだ。なんとかこの状況を変えられんか?」
「殿、ここは我慢比べでございます。
下手に動けば、我らの負けでございます。
それとも一旦岐阜に引きますか。」
「岐阜に!あの三介殿の相手をするくらいなら、ここにいる方が良い。」
「殿、楽田城から敵が出て参りました。」
「またか。いつもどおりに相手をせよ。」
そう言って、本陣に腰を据えた家康であった。
いつもどおり前方に兵を出し、ある程度守れば敵は引く、今日もその繰り返しだと思うていささか眠気に襲われてきた。
ウトウトしていると、近侍の侍が焦って駆け込んで来た。
「殿!後方より敵襲!既に搦手門が破られました。」
ハッと目が覚めた家康。
次に駆け込んで来た近侍の侍。
「殿!前方の羽柴勢、大手門に迫っております。」
「何が起きたのだ。正信!」
「わかりませんが、後方から羽柴勢が攻めてきた由。我ら前後を挟み討たれたように城攻めされております。」
「後方から羽柴勢だと。いつの間に周りこんだのだ。」
「前方の羽柴勢は数は変わらない模様、また街道筋は物見を立てております故、周りこむなどできぬはず。」
「申し上げます。榊原様、石川様お討ち死に!」
「なに!康政と数正が!」
「本多平八郎様、銃撃を受けて、撤退とのこと。」
「忠勝が!直政はどうした。」
「殿、井伊直政、御前に!」
「いかん!殿、一旦、この城を捨て引きましょう。」
「正信、どこへ行くのだ。」
「ひとまず、岡崎へ。井伊殿、道案内を!」
乱戦の中を家康主従は城から脱出を試みる。
しかしながら、既に城は羽柴勢が乱入し、脱出は絶望的であった。
「羽柴秀吉、一体どのような策を用いたのか?」
「教えて進ぜよう!」
行くてに片足が不自由な武将が現れた。
「羽柴筑前守家臣、黒田官兵衛孝高と申す。
冥土の土産にお聞かせ申し上げる。
我ら船にて岡崎、浜松に中入り、岡崎、浜松は我が羽柴勢が落とし申した。
岡崎には我が主人がおりまする。」
「うーむ、船か…やるのー羽柴筑前守。
直政、帰る城が無くなったようだ。
もはやこれまで、いさぎよく腹を切る。
介錯を頼む。」
「殿、直政も後から参りまする。」
家康主従はその場で腹を切った。
呆然としていた本多正信。
「本多弥八郎殿、そなたの知恵は我が主人が認めてございます。我が主人に仕えるが良い。」
官兵衛の一言に正信はがっくりと膝をついた。
「かしこまりました。これよりは羽柴筑前守様にお仕え申し上げる。」
その時、大きな声が響いた。
「本多平八郎、討ち取ったり!」
「さて、戦さも終わったようだ。
岡崎の殿へ使者を出せ。」
こうして小牧・長久手の戦いは、秀吉 持ち味の起動力で肩がついたのであった。