小牧・長久手の戦術5
岡崎城。
城を守るは鬼作左こと本多作左衛門重次であった。
兵が慌てた様子で作左の元へやってきた。
「申し上げます!」
「どうした。殿が勝ったか!」
「いえ、城が城が…」
「どうした、落ち着け。」
「落ち着いてなどおられません。城が敵に囲まれております。」
「敵に?悪い夢でも見たのではないか?」
「ご覧下さい。」
作左が外を見ると四方を福島正則、加藤清正率いる羽柴勢に囲まれていた。
「いつの間に、殿が敗れたか?
いやならば、誰かが知らせるはず。
いかん!小牧城の殿に使者を出せ!」
「そ、それが、使者を出そうとしましたが、既に四方を囲まれ、蟻の這い出る隙間もありません。」
「うーむ、奴らはどこから来たのだ?
あの数ではこちらの兵では対抗できんな。
仕方ない。しばし待て、寝て考える。」
作左は諦めて本気で寝てしまった。
兵達も何も言われない以上、どうすることもできなかった。
岡崎城は城を囲んだ羽柴勢と無策の作左との間で静かに時が流れていった。
一方の浜松城。
城を守るは松平家忠であった。
「敵襲!敵襲!」
の声に家忠は外を見た。
羽柴勢が浜松城を攻めて来たのであった。
その数は数万にも見えた。
「どういうことだ。羽柴勢がよりによって浜松に現れるとは。
今は城の守りは手薄。
しかし、殿のご命だ。なんとしても守り抜くぞ!」
家忠は少ない守備兵を一ヶ所に集めた。
「羽柴勢は寄せ集めに過ぎない。とにかく最初が肝心。一ヶ所に集めた兵で我ら徳川の力を見せる時ぞ。」
「オー!」
家忠率いる徳川勢は、大手門から打って出た。
しかしながら、浜松城を攻めていたのは、羽柴秀吉、黒田官兵衛であった。
家忠の動きは読まれていた。
「やはり打って出たか。よし、奴らを押し囲んで打ち取れ!」
号令一下、羽柴勢は動き出した。
家忠勢は必死に抵抗し、羽柴勢にも多少の被害は出たが、半刻で全滅し、羽柴勢はそのまま浜松城に押入れ、城を占拠したのであった。
尚、家忠は戦さの混乱に紛れて家康の元へ使者を送ろうとしたが、官兵衛配下の兵に捕まり、使者は送れずにいた。
家康には国元で何が起きているかわからず、秀長と小競り合いを繰り返していた。