揺れる上杉家3
春日山城に登城した直江兼続は、真田信繁の言葉を主君 景勝に伝えた。
「やはり、沼田は諦めるか。落とし所としては、仕方ないか。」
「後は家中をまとめることが肝要。
関東管領 上杉家としての体面を重んじるものもおりますからな。それらのものにとっては、関東への出口である沼田を真田に取られるのを不満に思うものもおりましょう。」
「こだわっても仕方ない。」
「もはや越後守護職、関東管領など名ばかりですからな。しかしながら、先代 不識庵(謙信)様はこだわられました。
まあその点が不識庵様の強みでもあり、弱みでもありました。」
「兼続、言い過ぎだ。」
「失礼しました。取り急ぎ家臣達を集めて評定を開きまする。」
「有無」
上杉家家臣に総登城の触れが出された。
羽柴筑前守の動きを知る多くの家臣は、戦さ評定と思って登城した。
景勝のそばに兼続が控えるように座って、羽柴筑前守からの沼田問題ならびに北条攻めの話しが出ると家臣達はざわめき出した。
「沼田を真田にやるなど以ての外、羽柴筑前守と一戦交えるべし!」
「いやいや、北条は不識庵様より何度も戦った相手。北条を討つべく筑前守と手を結ぶことが肝要!」
だいたい議論はこの二つに分かれて平行線を辿り出した。
上杉家にとっては沼田はそれほど重要な地であった。
評定はふた時に及び夜も暮れようとしていた。
景勝は微動だにしなかった。
しびれを切らした家臣の一人が、景勝に尋ねた。
「お屋形様のお考えをお聞かせください。
もはや我らお屋形様のお考えに従いまする。」
景勝は一言。
「兼続申せ!」
と言った。
直江兼続は皆を見渡すと一呼吸整えてから話し出した。
「お屋形様のお考えを申し上げます。
お屋形様は羽柴筑前守の申し出を受けるとのこと。既に、関東管領、守護職は時代遅れ。
我らは筑前守の元で生き延びるしか道はないとのこと。」
「兼続の申す通り!」
その言葉の勢いに家臣達は平服し、改めて不識庵謙信の時代は終わったことを実感した。
この瞬間、上杉家は羽柴筑前守傘下の大名家の道を選んだのであった。




