第8回 ピーター・グリーン氏を悼む
先日、ラジオを聴いていたら、イギリスのロックバンド、フリートウッド・マックが1968年に発表した「アルバトロス」というインストゥルメンタル曲が流れたんですが、「へぇ、昼のトーク主体の番組で、古いハードロック系のバンドの曲が流れるって、珍しいなぁ。」と思いながら、その時は深く考えずに聴いて過ごしたんです。
それで、今日、ネットのニュースサイトをいろいろ見ていたら、フリートウッド・マックの初代ギタリスト、ピーター・グリーン氏が、73歳で亡くなったという記事が、7月28日付けで配信されているのを見つけました。
「ああ、それで、ラジオでリクエストした人がいたんだな。」、と、ようやく合点がいきました。
ピーター・グリーンは、私の連載コラム『ロックの歴史』のギタリストランキングで、14位に入る、実力派のギター奏者です。
https://ncode.syosetu.com/n5901ee/58/
彼の演奏の魅力は、同時代のギターヒーロー、エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリクス、リッチー・ブラックモア、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、いずれとも異なるフレージングを聴くことができるという、確立された個性にありました。
ブルースからの影響を受けたギタリストが多い中で、ピーターは、ポップスのメロディを取り入れた、よりメロディアスなプレイで曲を飾るというスタイルで、聴き手を魅了していました。
1960年代末から、1970年代初頭にかけて、当時のロックのアドリブプレイヤーの上位10傑に入る、素晴らしい演奏の数々を、レコードに残しています。
ピーターが所属していた頃のフリートウッド・マックの代表曲としては、「グリーン・マナリシ」「ブラック・マジック・ウーマン」「オー・ウェル」などがあります。
実力の点では、上記のギターヒーローたちのバンドと互角と言って良い、非常に高度な才能あるミュージシャンが顔をそろえたバンドだったんですが、惜しくも、1970年の人気絶頂期にピーターが脱退してしまいます。
その後、ピーターのソロでの音楽活動は大きな成功を得るにいたらず、薬物依存から来る調子の低迷もあって、ピーターはしばらくの間音楽シーンで見かける事の無い存在になりました。
1970年代後半に、音楽活動に復帰したものの、絶頂期のアドリブの冴えはもはや期待できず、私の興味も、自然、彼のフリートウッド・マック時代の録音に限られてしまいます。
彼が薬物で調子を崩さず、バンド活動を続けていたら、おそらく、フリートウッド・マックは、現在、ロック史上、ディープ・パープルクラスの重要な位置を獲得していただろうと思います。
ただし、フリートウッド・マック自体は、1970年代半ばにメンバーを大幅に入れ替えて、ソフトロックに転向した事で、大人気となり(1977年の『噂』が4000万枚も売れる大ヒットを記録)、すでに世界的な知名度を獲得しているので、ピーターが在籍していた時代と、ソフトロックに転向した時代は、別物のバンドだと考えて論じる必要があります。
いずれにしても、ロックの一時代を彩った偉大なミュージシャンがまた一人、旅立ってしまいました。
たとえ、彼がいなくなってしまっても、彼の残した音楽は、これからも新たなファンを獲得し続けるでしょうし、私も折に触れて、彼の情熱的で冒険心に富んだ凄まじいプレイに、夢を追う活力を与えてもらうと思います。
もし、今回の紹介でご興味が湧いた方がいれば、ぜひ、彼の若かりし頃のイエス・キリストのようなイケメンぶりと、全身全霊で打ち込んだアドリブの至芸に接してみて下さい。