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第7回 ソニー・ロリンズとジョン・コルトレーンの魅力の違いについて考えてみる

ソニー・ロリンズとジョン・コルトレーン。


ジャズファンなら、知らない人はいない、テナーサックスの巨匠二人の名前です。


テナーサックス界のみならず、才能ひしめくジャズ界全体を見渡した場合にも、この二人は、別格的な存在として、ファンからもミュージシャンからも、尊敬の念を集めています。


ジャズの本懐ほんかいは、アドリブ(即興)の技量に集約されます。


いかに毎回異なる優れたアドリブプレイができるかで、優劣が競われるのが、ジャズという世界であり、他ジャンルとは一線を画する厳しさの所以ゆえんでもあります。


その、アドリブ至上主義のジャズ界で、頂点を極めたのが、冒頭で挙げた二人、ロリンズと、コルトレーンなのです。


優れた即興演奏とは、ただ好き勝手に音を並べれば出来上がる、というものではありません。

初めから最後まで、事前に作曲されていたかのような整ったメロディラインの流れがあり、複雑さと感情表現と斬新なアイデアでいろどられている、そんな高度な演奏技能を持って初めて、即興演奏は永遠に聴き手を魅了し続ける輝きを帯びる事ができるのです。


ソニー・ロリンズは1930年生まれ。

ジョン・コルトレーンは1926年生まれ。


コルトレーンの方がロリンズより4歳年上ですが、ジャズ界で頭角を現し始めたのは、ロリンズの方が早く、1949年には、ピアニストのバド・パウエルと共演するなど、当時最先端のジャズだったビバップのサックス奏者として、19歳という若さで将来を嘱望しょくぼうされる存在になっていました。


バド・パウエルの曲「Wail」で、未完成ではあるけれど、独特の粘りのある音色で一生けんめいに吹くロリンズの姿が確認できます。


コルトレーンがジャズ界で注目を集めたのは、トランぺッターのマイルス・デイヴィスのバンドに抜擢された1955年、29歳の時の事です。

当時のコルトレーンの演奏は、マイルスのアルバム『ラウンド・アバウト・ミッドナイト('Round About Midnight)』で聴くことができます。

粗削りながら、他のサックス奏者とは異なるセンスが垣間見られる、味のあるプレイを聴かせてくれます。


コルトレーンが遅咲きの才能としてジャズ界に登場した頃、ロリンズはサックス奏者としての最初の絶頂期を迎えています。


1956年発表のアルバム、『サキソフォン・コロッサス(Saxophone Colossus)』に、その頃のロリンズの素晴らしい演奏の数々が収められています。

冒頭の「セント・トーマス(St. Thomas)」という曲が、私は特に好きで、その跳ねるようなリズムに乗って、大らかに余裕をもってスイングする、ロリンズの美的感覚やユーモアのセンスに、いつも惚れ惚れとしてしまいます。昔から繰り返し聴いているので、アドリブパートは、ほとんど覚えて口ずさめるくらいです。


一方のコルトレーンの絶頂期は、私の個人的な意見では、1965年発表のアルバム、『至上の愛(A Love Supreme)』の頃だろうと思っています。


2曲目の「Pt. II - Resolution」での、コルトレーンらしいエキゾチックなメロディラインと、甘さに流されない引き締まった詩情は、ロックの激しさにも負けない迫力としていつ聴いても興奮させられます。


大らかでユーモアのあるロリンズ、真剣で求道的なコルトレーン、私はどちらのスタイルも好きですが、ビバップのメロディラインを基本的に踏襲したロリンズに対して、コルトレーンのメロディラインは、より様々なジャンルからの音楽的影響がミックスされた、自由度の高いメロディである、という所に、面白さの違いがあるとも感じます。


また、一聴すると、斬新なメロディや音符で埋め尽くすように吹くコルトレーンの方が、耳馴染みの良いメロディで音にゆとりを持たせるロリンズよりもテクニック面で優れているように感じられるんですが、実際は、ロリンズの方が強烈なスイング感を出せていたり、音色に温かな感情表現が感じられたりと、優れた面も多々あるので、どちらが上とは言いきれない魅力が、二人にはあると思います。


特に、ロリンズが初期の頃からこだわっていたのは、音の間と、メロディの区切りを標準的な位置からずらすことでより強いスイング感を出す、という事のようで、この研究が最大の成果を上げたのが、1966年発表のアルバム、『オン・インパルス(On Impulse)』です。

このアルバムの演奏スタイルになると、聴き手はもう何をやっているのか分からなくて困惑するというレベルになって来ます。

例えば、通常の音楽であれば、メロディは1小節を基準に把握しやすい小節数で区切られて、分かりやすく、聴きやすく奏でられるわけですが、ロリンズは、どこかの小節の半ばから始めて、どこかの小節の半ばで終わる、という風に、メロディの位置を自由にずらしたり、フレーズの長さを思い切って伸び縮みさせることで、簡単には把握できないながら、把握できれば新鮮なメロディ感覚と、これまでにない強力なスイング感が楽しめるという、面白い音楽を創造したわけです。


コルトレーンが独自のメロディラインでジャズファンの人気を集めていたのと同時期に、ロリンズも負けじと新機軸を打ち出そうとした、と、私はとらえているんですが、どうでしょう。


しかし、あまりにも難解な音楽は、どんなに優れていても、ファンでさえついていけないという問題が生じます。


事実、ロリンズの取り組んで完成した成果は、確かにコルトレーンがまだ踏み込んでいない新しいサウンドだったにもかかわらず、広く大衆に理解されたり、後進への影響力を持ったりするスタイルにはなり得ませんでした。


でも、私はこのロリンズの演奏の意図を理解できた時に、「ジャズにはまだ新しいものを生み出せる可能性がある。」と嬉しく感じたし、今ではロリンズの数あるアルバムの中でも、1、2を争うほど好きな作品の位置を占めるようになりました。


『オン・インパルス(On Impulse)』は、上記のような理由から、決して万人向けの作品ではないんですが、このコラムで、一時代を築いた二人の偉大なサックスプレイヤーの音楽にご興味が湧いて、彼らの名盤の数々を聴いて行くうちに、好きになったという人がいれば、いつかぜひ挑戦してみて欲しいし、素晴らしさを共有できる人が増えてほしい、そんな特別な意味を持つアルバムです。



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