第5回 トリビュートという生き方 ジミー桜井、マーク・マーテル、Akira Jackson
トリビュート(tribute)、という言葉を、ご存じですか?
(感謝や尊敬のしるしとしての)贈り物、もしくは、(感謝や尊敬の)賛辞、という意味の英語です。
使用法としては、例えば、尊敬するミュージシャンの曲を専門にカバーするバンドに対して、『トリビュートバンド』、なんていう呼び方をしたりします。
私はこのトリビュートバンド、特に、日本の趣味の範囲の『コピーバンド』や、コメディショーになりがちな『ものまね』とは違って、本気で好きなミュージシャンの模倣を極めようと精進している、プロフェッショナルなトリビュートバンド、が大好きです。
意外に思うかもしれませんが、アメリカでは、トリビュートバンドはれっきとしたエンターテインメントの一ジャンルとして認知されていて、観客がお金を払って鑑賞する、音楽ビジネスとしても大きな市場がすでに確立しています。
今回は、そんな、皆さんにはあまり馴染みがないかもしれない、ファンが本気で憧れのミュージシャンを再現する、『トリビュートバンド』という素晴らしい世界を、ご案内して行きたいと思います。
そもそも、私がトリビュートバンドというジャンルを知って、惹かれるようになったのは、レッド・ツェッペリンのギタリスト、ジミー・ペイジの奏法を研究して再現する事に情熱を燃やす、ジミー桜井さんという日本人ギタリストの演奏動画を見たことがきっかけです。
ジミー桜井さんは、日本国内ではかなり昔から、ジミー・ペイジの奏法の再現の第一人者として名前を知られた存在だったのですが、もっと本物に近付きたいという夢を追って、2014年にトリビュートバンドの本場アメリカに渡り、レッド・ツェッパゲインというバンドに所属して、カリフォルニアを中心に活動を開始した事で、その才能がより幅広い音楽ファンに知られる所となりました。
下記の動画は、本格渡米して2年ほど経過した、2016年8月に、カリフォルニア州のライブハウスで開かれた、凄まじいまでの気迫がこもったレッド・ツェッパゲインのコンサートの模様です。曲目は、「Achilles Last Stand(アキレス最後の戦い)」です。
https://www.youtube.com/watch?v=_yU2W9qKh68
桜井さんのトリビュートの特徴は、ギターの奏法だけを再現するのではなく、機材や衣装やステージアクションまで、完璧にジミー・ペイジを模倣するという、徹底したこだわりにあります。
そして、何よりも素晴らしいのは、彼が、レッド・ツェッペリンの音楽の最大の特徴である、長足の即興演奏の醍醐味を、再現する事に心血を注いでいる、という事です。
これは、ただ原曲をなぞるだけのコピーバンドでは為し得ない、桜井さんの極めて高度な才能があればこそ実現可能な音楽性です。
この、あまりにストイックな模倣ぶりは、次第にアメリカでも人気を呼んで、2018年には、何と、本家レッド・ツェッペリンのドラマー、ジョン・ボーナムの息子さん、ジェイソン・ボーナムさんの目に止まり、彼の主催するトリビュートバンドに参加するという、まさに夢のようなアメリカンドリームを成し遂げる事になりました。
ジェイソン・ボーナムさんのバンドでの「Since I`ve Been loving You(貴方を愛しつづけて)」
https://www.youtube.com/watch?v=NJ1Ei8w5h_8
現在、桜井さんは、レッド・ツェッパゲインを脱退して、自身がリーダーを務める『MR.JIMMY』というバンドを率いて、アメリカを中心に、レッド・ツェッペリンの偉大さにさらに近づくべく、演奏活動を続けています。(コロナウイルスの影響か、この頃は活動が停滞しているようで、それが心配です。)
MR.JIMMYの2020年3月7日のライブ映像「Dazed And Confused(幻惑されて)」。中間部でジミー・ペイジの得意技である、ヴァイオリン奏法の完全再現を披露しています。
https://www.youtube.com/watch?v=zq1iuGWTNIs
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お次に紹介するのは、連載コラム『ロックの歴史』でも少し触れた事のある、クイーンのボーカリスト、フレディ・マーキュリーの完全再現に情熱を注ぐカナダ人、マーク・マーテルさんです。
この人の場合は、もう四の五の言わずに、歌唱の再現度を実際に見てもらいましょう。
https://www.youtube.com/watch?v=TE7buxmJPqk
ここまで行くと、もう、フレディ本人の歌唱を聴くのに近い満足感を与えてもらえます。(ピアノもフレディの弾き方を再現していて、しかも抜群に上手い。)
実際、彼は今では、世界中を巡って、大観衆の前で、クイーンの名曲の数々を披露するという、コンサートツアーを行なっており、トリビュートという音楽が、決して色物の安っぽいものではない事を、自身の豊かな才能の力で証明しています。
https://www.youtube.com/watch?v=HLtguzTq0Eg
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最後に、トリビュートバンド、というバンド形式とは異なるものの、本家へのリスペクトの尋常でない深さはひしひしと伝わって来る、若く素晴らしい才能をご紹介します。
彼の名前は、アキラ・ジャクソン(Akira Jackson、またの名をAK-jacksonともいう)です。
マイケル・ジャクソンの斬新でホットなダンスに魅せられて、その完全再現に情熱を燃やす、素晴らしいダンサーであり、パフォーマーでもあります。(ご自身では歌は歌わず、音源に合わせて口パクでマイケルの歌唱の特徴まで再現するスタイルです。)
アキラさんの存在を私が知ったのは、2013年、彼が高校生の時に文化祭で披露した、「Billie Jean」のダンスカバーの動画を、YouTubeで見つけた時です。もう、衝撃的でしたね。高校生にしてこの再現度は。
https://www.youtube.com/watch?v=u4R1R1iWm78
彼の凄い所は、ダンスの細やかな表情付けだけでなく、口の動きや顔の表情まできちんと再現できている、という事です。
これによって、まるでマイケル本人が、歌い踊っているかのような錯覚さえ与える事ができます。
アキラさんのマイケルへの入れ込みようは、決して高校時代の余興としての一過性のものではありませんでした。
彼は7年後の現在も、マイケルのダンスのトリビュートを続けており、ライブ全曲の完全再現など、凄まじいこだわりで、私の好きな本気のトリビュート道を、まっしぐらにまい進してくれています。
https://www.youtube.com/watch?v=4Nr4_c2wDl4
オリジナルなものを生み出した人だけが、観衆に感動を与えられるわけではなく、憧れのアーティストに近付こうと、ひた向きに精進を重ねる人たちにだって、私たちの胸を打ったり興奮させたりする、本物の魅力を表わす事ができるんだ、という事を、今回の特集エッセイで感じて頂けたら、嬉しい限りです。