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音楽エッセイ『こんな音楽いかがでしょう?』  作者: Kobito


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第19回 音楽コラム『ロックの歴史』番外編 コラムであまり語られなかった凄腕ギタリストたち特集 その2 初期のカントリー、白人ジャズ系の達人たち

カントリーミュージックや、初期の白人系ジャズは、あまり詳しい方ではないんですが、ギタリストに注目すると、とんでもなく高度な技巧を持ったミュージシャンが数多く存在するジャンルでもあります。


というわけで、今日は、音楽コラム『ロックの歴史』番外編その2、と題して、初期のカントリー系からジャズ・ポップス系にかけてのお勧めギタリストを、一気に3人、ご紹介します。


と、その前に、一つ、断り書きをしておきたい事があります。


私は、音楽など市販されているものを人に勧める時に、それのいい面と、いまいちな面を、併記する事がよくあります。

これは、好き勝手に書いているからそうなるというよりも、意識してやっている事です。


誰かに勧めたいものがあって、それについて紹介文を書く時に、「好きなものだから誉め言葉しか書きません」というスタンスを取る人がいますよね。


一見、優しい考え方ではあるんですが、私はそういう姿勢を、必ずしも相手のためを思った誠実なものだとは思えないんです。


だって、例えば何かの商品のレビューを書く時に、その商品のメーカーやシリーズが好きだからという理由で、商品を誉める言葉しか書かなかったら、これからその商品を買おうかどうか迷っている人たちに、商品を過度に良く思わせて買わせてしまう、という事になって、フェアではないでしょう?


だから、いい点も、いまいちだと思う点も、両方正直に書いて、後はご自身で聴いてみて判断してください、という風にした方が、結局は、より多くの情報が提供できて、相手のためになると思うんです。


そして、いまいちな点を指摘するにしても、単なる悪口にならないように、きちんと理由を書いて、受け手がそれを体験する時に、私の論評が的を得ているかどうか吟味できるようにする、という事も、心がけています。


なので、文中にマイナスな意見が出て来ても、それは鑑賞する際の一つの視点として参考にすればいいものなんだと思って、楽しんで頂けるとありがたいです。



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マール・トラヴィス (1917年11月29日– 1983年10月20日)


マール・トラヴィスは、初期のカントリーミュージックに現れた、最初のギターテクニシャンといった存在です。

カントリーミュージックのギター奏法の定番である、親指でベースラインを弾き、人差し指でメロディーを奏でるというリズミカルなフィンガーピッキングは、彼が好んで用いた事で、多くのミュージシャンが取り入れるようになりました。


1946年録音の「16トン」など初期の名演では、主にアコースティックギターの伴奏による歌物の曲が楽しめるんですが、後年にはフルアコースティックギターで驚異的なフィンガーピッキング、通称〝ギャロッピング・ギター〟による速弾きのインストゥルメンタル曲も披露しており、ロックファンには、この電化されたサウンドの方が、より彼の凄さが実感しやすいでしょう。


『The Merle Travis Guitar』(1956年発表のセカンドアルバム。全編フルアコによるソロ・インストゥルメンタルという驚異的な作品。)


カントリーにとどまらず、ギター奏法の発展に大きく寄与したミュージシャンですが、ウィキペディアの日本語版に彼の項目がないという事実からも、日本での評価や知名度が、残念ながら一部のファン層に限定されている現状がうかがえます。


実力と知名度は比例しないという事をまざまざと分からせてくれるミュージシャンでもあるので、ギター音楽が好きならぜひ聴いてみてもらいたいです。



:追記2021年4月6日

なお、暮伊豆さんが大好きなギャロッピングギターの名曲「Cannonball Rag」は、上記のお勧め盤には入っていないので、こちらの盤でどうぞ。(マールはこの曲を、年数を開けて何度かレコーディングしています。一番古いバージョンは1952年版だと思いますが、私が好きなのは下記のアルバムに入っている版です。)


Merle Travis 『Strictly Guitar』(1968年、このアルバムもエレキの名演ぞろいですが、いかんせん流通量が少ない!良いアルバムなのになぁ。)




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レス・ポール (1915年6月9日 - 2009年8月12日)


ギブソン社のエレキギターの定番モデルである『レスポール』は、開発に助言を与えたギタリストのレス・ポールの名前をそのまま冠されたという逸話で有名です。


ギターの『レスポール』は今でも、ソリッドタイプの『SG』と並んで、ギブソン社のロックギターの花形モデルですが、このモデルが世に登場したのが、ロック全盛の1970年代よりも18年も前の、まだロックンロールというジャンルさえ確立していない1952年だったというのが、面白いです。


レス・ポール自身は、1930年代後半ごろには、生粋のジャズギタリストとしてレコード録音も開始していて、レスポールモデルの発売時には、彼の人気は絶頂期を迎えていました。


この少し前の、1948年に、彼は「Lover」と「Brazil」というポップなインストゥルメンタル曲を発表してヒットさせています。

(「Brazil」のメロディは生ビールのCMで使われた事があるので、聴いた事がある人も多いでしょう。レスのオリジナル曲ではなくて、ピアニストのアリ・バローソ作曲のサンバの名曲です。)


私はこの2曲が大好きで、彼の最高傑作だとも思っています。

何がそんなに良いのか、というと、まず、ギターの音色がとてもユニークなんです。これは、録音の再生速度を倍速に上げる事で、ピッチ(音の高さ)を変更するというテクニックの効果なんですが、ギターの音がまるでハープシコードのような可愛らしい音色に変身しています。

しかも、倍速の演奏なので、彼の華麗な速弾きも倍速となり、事情を知らない人が聴くと、人間離れした速弾きに度肝を抜かれること間違いなしです。


それから、ギターの音を何度も録音して重ねる事で華やかなサウンドを生み出す多重録音の技法や、すべての楽器を自分一人で演奏して楽曲を完成させるマルチ・インストゥルメンタリストの曲としても、この2曲は最初期の成功例として高く評価されています。


特に、こういう、ギターの音色を加工して曲に新鮮な効果をもたらす手法は、今ではサウンドエフェクトとしてごく当たり前に普及していますが、レス・ポールのような大胆不敵な先達者がいなければ、今の音楽シーンは、きっともっと違ったものになっていた事でしょう。

事実、かのギターの達人、エドワード・ヴァン・ヘイレンだって、「彼がしてくれた事が無ければ、自分は今していることの半分も出来なかった 」、と言っているのです。


そんなレス・ポールの代表的名演の数々は、下記のCDで聴くことができます。


Les Paul 『The Legend And The Legacy (1948-60)』1991年発売、4枚組CD




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チェット・アトキンス (1924年6月20日-2001年6月30日)


チェットは、前述したマール・トラヴィスやレス・ポールからの影響をもとに音楽活動をスタートさせた世代のミュージシャンです。

とはいえ、彼が初めてシングルレコードを発表したのが若干22歳の、1946年の事なので、マールやレスとは、同じ時代の音楽シーンで腕を磨き合った、と言う事も出来ます。


彼の演奏の良さは、ジプシー・ギタリストのジャンゴ・ラインハルトなど、様々なジャンルの一流ギタリストからの影響を吸収した事から来る技術的な安定感と、どんな曲調にもフィットするまろやかな演奏を提供できる柔軟性にあります。


彼の初期の演奏の基本は、ジャズやカントリーでのオーソドックスでやや控えめな職人的伴奏スタイルですが、徐々にギターの柔らかな音色やソロパートでの多様で整ったフレーズ作り、複雑な運指をものともしない正確無比な速弾きなどで個性を形成し、1950年代以降にはポピュラーミュージックの分野で一流のギター奏者としての名声を確立します。


スタジオミュージシャンとしてセッションワークでも活躍したらしく、エルヴィス・プレスリーの「ハートブレイク・ホテル」(1956年)や「ハウンド・ドッグ」(1956年)でリズム・ギターを弾いていたのが彼だと知ったときは、とても驚きました。


若いころは、彼のギターの音色の控えめな柔らかさが、やや物足りなくも思えましたが、最近はようやく、その「抑制された聴きやすい優しい味わい」の奥にあるギターへの情熱こそ、彼の演奏の最大の魅力なんだ、と気がつく事ができました。



1970年代以降の、ギター名人たちを迎えたセッションアルバムも素敵なので、初期からその辺までをカバーしたRCA時代の名演集をどうぞ。


Chet Atkins『Nashville Jump -Rca Days Of』 (2006年発売、2枚組)




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― 新着の感想 ―
[良い点] やったー! ついにマール・トラヴィスが登場しましたね! キャノンボールラグがめっちゃ好きなんです! 去年ギターマガジンに楽譜が載ってたもんで、つい買ったんですが! 一度も練習してません! …
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