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音楽エッセイ『こんな音楽いかがでしょう?』  作者: Kobito


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第11回 固定観念を覆す音楽 LOOP H☆R

音楽というのは、大昔に誕生した直後は、音の高さを心地よい響きに調整して体系化した『音階』というものを持たなかったはずです。


現在私たちが音楽に接する際に基礎とする音階「ドレミファソラシ」は、紀元前500年頃に、数学者のピタゴラスが初歩的な理論を見つけていますが、そういう理論が普及する以前は、何となく響きが良いからという感覚的な判断を頼りに、音程を上下させてメロディにしていたと考えられますし、そもそもメロディという概念がない時代にまでさかのぼれば、打楽器などでリズムを楽しむにとどまっていた様子が想像できます。


しかし、人類が音階を理論的に研究しはじめるはるか以前から、鳥や虫は、大自然の中で、鳴き声でメロディを奏でていたでしょうから、音に音階を付けて音程を変化させることで、音楽を作れると人類が気が付いたのは、おそらく相当早い段階の事だったろうと推測できます。

調べてみると、およそ36000年前の人類が、動物の骨を使った笛を制作していた事が分かっているそうです。


人類が言語を用い出したのが、5~7万年前ではないかと言われているので、音楽に関する好奇心の芽生えの早さをうかがわせます。


上記のような、先人のたゆまぬ探究心と研究の甲斐があって、今の私たちは、正確に調律され、体系化された音階による音楽を歌ったり奏でたりして楽しめているわけですが、一方で、この「正確に調律され、体系化された音階による音楽」というのは、あくまでもピタゴラスやその後人たちが考案した『音律おんりつ(体系化された音程や音階の事)』という秩序の範囲内での楽しみ方であって、有史以前にはそれ以外の楽しみ方もあったのだから、私たちはその事を忘れ去ってしまわずに、時折頭を柔軟にするために、その頃の音楽を想像してみてもいいのではないか、などと考えたりもするのです。


というのも、最近、YouTubeで、あるバンドの特異な音楽を聴いて、また、彼らの音楽に対する視聴者の意見を読んで、色々と物申したい気分になったからです。


そのバンドの名前は、LOOP H☆R (ループ・エイチ・アール)といいます。


今はまだ、メジャーで成功してはおらず、ネット上で話題になっている程度のバンドです。


まず、メンバー構成が、非常にユニークです。

ボーカルのYUKAさん、エレキギターのTAKAさんという、夫婦二人組で音楽活動を行なっています。


ジャンルはロックで、かなり激しい演奏を行なうので、そういう音楽には付き物のドラムスがメンバーにいないというのが、なんとも奇妙な感じです。


そして、それ以上に奇妙奇天烈きみょうきてれつなのは、YUKAさんのボーカルの歌い方です。



彼らの代表曲『孤独のとり』のアコースティックバージョン

https://www.youtube.com/watch?v=a6kAUopUFSs



音程が非常に特異で、しかも不規則に上下するので、一聴すると、ひどい音痴が歌っているようにしか聴こえません。


実際、動画のコメント欄にも、このYUKAさんの歌い方を、ど下手だと決めつけて茶化すコメントがたくさん並んでいます。


私も、初めは、ただの音痴なんだろうなと思って、茶化すコメントをたくさん書かれて可哀相だな、くらいに思っていたわけです。


でも、同じ曲の、ライブ動画と、スタジオ録音されたバージョンの動画を聴き比べた時に、私はボーカルのメロディラインが、全く同じだという事に気が付いたんです。


ただの音痴なら、歌う度に音程が変わってしまって、メロディラインも変わってしまうはずですよね。

ところが、YUKAさんの歌は、ライブでもスタジオ版でも、不安定な個所まで完全に一致した、同じメロディになっているんです。

つまり、YUKAさんは、あえて聴きなれた音程とは異なる音程で作曲されたメロディラインを、正確に歌いこなしている、という事になります。


これが、よりはっきりと証明されたのは、最新曲『音楽〜music〜』の動画の後半部分、8分22秒から始まる二人の合唱パートにおいてです。

https://www.youtube.com/watch?v=iwnr76tIc2s



ここで、ギターのTAKAさんは、YUKAさんの不安定に思える音程と全く同じ音程で、主旋律をユニゾンで歌っているんです。

これは、YUKAさんの歌唱が、「作曲された通りのメロディ」に沿って歌われていないと、できない事ですよね。


だから、YUKAさんは歌が下手なのではなく、むしろ逆に、常套的でない音程で作曲された主旋律を、正確に歌いこなすことができる、かなりの音感と歌唱力を持った優れた歌い手という事になるんです。


でも、そういう事が分かったからと言って、彼らの音楽が、急に魅力的に聴こえるようになるわけでもありません。いくら難しい事をこなせていても、音律という聴きなれた枠組みから外れた音楽を、好んで楽しめる人は、現代人の中には少ないのです。


ただ、少なくとも、彼らを「音痴」だとか「下手だ」と思い込んで馬鹿にして笑いものにしている人達は、自分たちの理解力が不足している事を理解し、安易に他者をあなどって優越感に浸ろうとする姿勢を恥じ、反省しなければいけません。


このバンドの音楽を理解する事で、何が分かるかというと、私たちが普段親しんでいる音楽と呼ばれるものは、ピタゴラスをはじめとした人々が定義した音律の範囲内で作られたものが大半だ、という事。


そして、それ以外の音楽というものも、存在するし、存在して良いのだ、という事です。


ちなみに、彼らの音楽に非公認で他者がドラムスを追加した動画、というのもあるので、良かったら聴いてみて下さい。


https://www.youtube.com/watch?v=FottY-JPU5c&pp=QAA%3D


これで、彼らがボーカルとギターという小編成にもかかわらず、複雑な編曲や変拍子のリズムを正確に把握しながら演奏している、という驚くべき事実まで、確認する事ができます。



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