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壊れた緋色  作者: 楓海
7/11

誘惑

 読んで戴けたら倖せでございます。

「母さん、止めて!

 痛いよ、叩かないで! 」


 緋曖は幼い頃の夢を見ていた。


 狂気を(はら)んだ様なその母親の顔は、幼い緋曖には昔絵本で見た鬼女を思い出させた。


「お前もいつかあの男の様になるのよ!

 だってあの男の血が流れてるんだから! 」


 母親は絶え間無く平手で、両腕で(かば)おうとする緋曖の身体を、どこもかしこも叩いた。


「母さん、ボクは何も悪い事はしてないんだ!

 何も悪い事はしてない! 」


『誰か助けて!

 母さんが怖い!

 二人きりになると、いつも狂った様にボクをぶつんだ!

 誰か!

 誰かっ! 』


「緋曖!

 緋曖っ! 」


 若い男の声がした。


 目を開くと優しそうな顔をした男が、緋曖の顔を覗き込んでいた。


「助けて! 」


 緋曖は必死にその男の首にしがみついた。


 萩は緋曖の背中を優しく撫でて囁く様に言った。


「大丈夫

 大丈夫だよ

 もう怖い事は無いよ

 大丈夫

 大丈夫………………」


 緋曖は萩のその言葉に少しずつ正気を取り戻して行った。


 はたと気が付いて緋曖は萩の首に絡めた腕を解いた。


 萩は緋曖の顔を心配そうに覗き込んだ。


「もう、大丈夫かい? 」


 緋曖は咄嗟(とっさ)に言葉が出なくて、小さく何度も(うやず)いた。


 萩は安心してベッドの脇に座った。


「びっくりしたよ

 誰か、誰かって叫び声がしたから、強盗にでも襲われてるのかと思った」


 緋曖はまだ混乱していて、どう答えていいか戸惑っていた。


 萩は緋曖の様子をじっと見詰めながら、緋曖が落ち着くのを待った。


 緋曖の目は落ち着き無く毛布の上を泳いでいたが、じきに落ち着きを取り戻し、萩を見詰め返した。


 それを見届けると萩は笑って言った。


「もう大丈夫そうだね」


 萩は立ち上がると部屋を出て行こうとした。


「萩……………」


 萩は立ち止まって振り返った。


「あの………有り難う…………………」


 萩は微笑んだ。


「どういたしまして」


 萩が出て行くと緋曖は組んだ両手を額に当て項垂(うなだ)れた。


 やがて緋曖は、萩を誘惑するいい思い付きに微笑んだ。




 朝になると、萩は何事も無かった様にキッチンの前から緋曖に「おはよう」と声を掛けた。


 緋曖は上目遣いで萩を見詰め、食卓の傍で突っ立っていた。


 食卓には朝食が出来上がっていて湯気を立てている。


 洗い物をしていた萩は、緋曖の様子に気付いた。


「どうしたの? 」


 緋曖は言いずらそうに萩から目を背けて言った。


「夕べは………何て言うか……………………」


 萩は緋曖が言わんとしている事が解って笑いながら言った。


「なんだ、そんな事気にしてたの?

 オレは何も気にしてないよ

 寝ぼけるなんて、誰にでもある事だろ」


 緋曖は力無く笑うと崩れる様に椅子に座って額に手を当て項垂れた。


「子供の頃の夢を見たんだ

 母が怖い顔をしてボクをぶって、ボクは必死に逃れようとするんだけど、母の手はどこまでもボクを追い駆けてボクをぶち続ける

 もう十何年も前の事なのに、未だにあの頃の夢を見る……………」


「緋曖…………………」


 萩は緋曖の傍の椅子を引き寄せて座り、緋曖の肩に手を置いた。


「きっと凄く怖かったんだね」


 緋曖は伏せていた目をおどおどさせて、茶色に透けた瞳を遠慮がちに萩に向けた。


 その時の緋曖は憂いを含み、頼りなげで例えようも無いほど美しく、萩の心を無遠慮に突き刺した。


 萩の胸がズキンと震え騒いだ。


 緋曖の肩に置かれた萩の手は、思わず緋曖から離れ宙に静止した。


 萩は何かに取り憑かれた様に緋曖から目が話せなくなった。


 緋曖の目から一筋涙が零れた。


「緋曖………………」


 萩は立ち上がると緋曖の頭を腕で包んで、緋曖の頭を優しく撫でた。


「大丈夫

 いつか記憶も薄れて、忘れられる時が来るよ」


 緋曖は萩の腹に顔をうずめて笑っていた。



 その日の夜、緋曖はソファーに眠る萩の傍に立っていた。


 その気配に萩は目を覚まし、緋曖に気付くと起き上がりながら緋曖を見上げた。


「どうしたの? 」


 緋曖は突っ立って萩を見詰めた。


「あ……………その………………………」


「なに? 」


「何でも無い」


 緋曖は(きびす)を返し、自分の寝室に帰ろうとしたが、その手を萩は掴んだ。


「何でも無く無いだろ

 どうしたの? 」


 緋曖は目を伏せたまま萩を振り返って口ごもった。


 萩は緋曖の手を掴んだまま立ち上がった。


「緋曖」


 緋曖は萩の視線を避ける様に俯いた。


「夢が怖くて…………………」


「え? 」


「眠るまで、傍に居て欲し……………くて…………………………」


 沈黙が続いた。


 そして、萩は吹き出した。


「そんなのお安いご用だよ」


 萩は笑いながら、上目遣いで遠慮がちに自分を見ている緋曖が可愛く思えて、抱き締めたい衝動に駆られた。


「緋曖って、案外可愛いんだな」


「からかうなよ」


「からかって無いよ

 本気で思ったんだ」


 緋曖の寝室に入ると萩は毛布を捲って緋曖を振り返り言った。


「さあ、どうぞお姫様」


「やっぱり、からかってるだろ」


 緋曖はムッとした顔で萩を睨んだ。


 萩は笑った。


「ごめんごめん

 今日もあちこち訊いて回ったから疲れたろ

 早く眠った方がいい」


 緋曖が躊躇していると、萩は顔から笑いを消して言った。


「大丈夫、眠るまで傍に居るよ」


 緋曖は子供がそうする様に、不貞腐れた様にベッドに寝そべった。


 萩は毛布を丁寧に緋曖に掛けるとベッドの脇に腰掛けた。


「子守唄でも歌う? 」


「やっぱり、からかってる

 子供っぽいって思ってるだろ」


 萩は笑って言った。


「ちょっとね

 でも、いいんじゃない?

 オレは嬉しいよ、弟に頼られてるみたいで」


 萩の暖かな眼差しに見守られている事に、緋曖は本心から安心して目を閉じる事ができた。


 萩は脚を組むと手を掛け緋曖が眠るのを見守った。


 やがて、緋曖の寝顔を見詰めて居られる倖福感が萩の身体に染み渡った。





 読んで戴き有り難うございます。


 今日は昔大好きだったディスパーズレイを久々に観ました。

 やっぱりディスパーズレイは見た目も美しくてかっこよくて、音楽も一流だなあと再確認しました。

 ラルクやグレイの頃からヴィジュアル系、追っかけてますが、今に至るまで私は、ディスパーズレイ以上に美しくカッコいいバンドは見た事無いです。

 ディスパーズレイから後に出たバンドは、音に広がりが乏しくてクリエイティブさに欠けてるんで、ちょっとものたりなさを感じるんですよね。

 創造的じゃないんですよ。

 何故なのかは解らないですが。

 時代なのですかね。

 ディスパーズレイ聴いてると脳内がどっかに出掛けちゃうんです。

 凄く創造的になります。

 詩の二、三個もできそうな感じで、世界がひろがるんですよね。

 残念な事にヴォーカルの歪くんが病気になって歌う事ができなくなって解散しちゃいましたが。

 残された四枚のアルバムは本当に貴重で、特にファーストアルバムのコルセットは二十世紀最高の名盤だと信じています。

 ギターのカリュ坊は作曲の殆んどを手掛けていたのですが、今はピエロのキリトがいるアンジェロに在席しています。

 カリュ加入後のアンジェロは、それまで随分退屈な曲をやっていたのですがカリュのお蔭で革命的な音の変化を遂げました。

 いつか、歪くんの病気治って再結成してくれないかなあ、ディスパーズレイ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 緋曖はこうなったのは、幼少時の嗜虐体験からだったのですか? 何かBLの悲恋の予感がします。
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