サンドイッチ
読んで戴きましたら倖せです。
微睡みの中で緋曖は懐かしい匂いを嗅いでいた。
それは朝を知らせる料理の匂い。
もう、随分昔に忘れていた匂いだった。
『母さん? 』
緋曖はハッと目を覚ました。
『母さんな筈が無い! 』
全裸で寝ていた緋曖は起き上がると、掛けていた毛布を肩から被りキッチンに行った。
キッチンに男が立って料理をしている姿が見えた。
食卓テーブルには目玉焼きが湯気を立てている。
『そうだった………………
今日から、ボクはこの男を誘惑しなくちゃならないんだった』
萩は緋曖に気付くと振り返り笑顔で言った。
「あれ
起こしちゃいましたか? 」
「おはよう」
緋曖は優しく笑った。
『とにかく警戒心を解いて、手っ取り早くこっちのペースに巻き込むか』
「おはようございます
今、できますよ
朝メシ」
萩は冷蔵庫を見て言った。
「冷蔵庫、殆んどガラガラで玉子だけはあったから目玉焼きくらいしか作れなかったけど」
緋曖は訝しげに言った。
「玉子? 」
少し考えて直ぐに思い当たった。
「玉子って、冷蔵庫にあるだけで便利よ」と言って以前、朝子が渡して来た物で、冷蔵庫に入れて記憶から瞬殺したものだった。
「その玉子、冷蔵庫に入れて一ヶ月以上放置してある物だからどうかな」
萩は残念そうに言った。
「そうなんですかあ………………
少しでもご恩返しをと思ったんだけどな」
『ご恩は、きっちり返して貰うさ』
「コンビニでサンドイッチでも買って、公園で食べたら気持ちいいよ
その帰りにスーパーにでも寄って食材買おうよ」
緋曖はそう言って萩に微笑みかけた。
萩は瞳を輝かせて拳を握った。
「それ、いいですね! 」
コンビニに入って二人はサンドイッチの棚の前に立った。
緋曖はサンドイッチから目を離さず言った。
「無理にサンドイッチじゃ無くても好きな物選ぶといいよ」
『ボクは心が広いからね
ラーメン五杯にギョウザ三皿は根に持たないよ』
「公園で食べるならサンドイッチですよ
公園のベンチで牛丼掻き込むのも微妙だし」
緋曖はクスッと笑った。
「そうだね」
『ラーメン五杯にギョウザ三皿も微妙だよ』
緋曖は根に持つタイプだ。
萩がトマトサンドに手を伸ばしたのを見るとすかさず緋曖はトマトサンドに手を伸ばし萩の手に手をぶつけた。
「ああ、ごめん
キミもトマトサンド好きなの? 」
「オレ、野菜好きなんですよ
このコンビニのトマトサンド旨いっすよねえ」
「ボクも好きなんだ
トマトのみずみずしい感じが口の中に広がって重くならないのがいいよね」
緋曖は萩に笑い掛けた。
萩はそれに気付くと照れ笑いをした。
『同じ物好きって親近感湧くだろ
単細胞そうだけど恋愛に関しては純そうだな、こいつ』
と、そんな事を緋曖は考えていた。
「あれ?
トマトサンド一つで大丈夫? 」
「え? 」
『え?じゃ無いだろ
ラーメン五杯にギョウザ三皿も食う奴が、どう考えたってサンドイッチだけで間に合わないだろ! 』
萩は困った様に笑いながら言った。
「やっぱ、牛丼もいいっすか? 」
萩は思った。
『やっぱ、優しいなあ緋曖は……………』
『今更、気を使ったって遅いだろ』
緋曖は微笑んで言った。
「どうぞ」
飲み物を選ぶと緋曖は言った。
「ねえ、デザート何か食べない? 」
「緋曖さんは、なんて慈悲深いんだ! 」
萩は目を輝かせた。
「ボクは料理できないから、この後買う食材はキミが料理担当だよ
今から恩を売っておかないとね」
緋曖は悪戯っぽい笑みを萩に向けた。
『せいぜい美味しい物を作ってくれよ
こっちはラーメン五杯にギョウザ三皿をいきなり奢らされて、押し掛けられたんだから』
『緋曖はなんて可愛く笑うんだろう! 』
と、思いながら萩は緋曖にペコリと頭を下げた。
「すみません」
デザートの棚の前に立つと萩は言った。
「オレ、フルーツ入りのヨーグルトいいですか?
ヨーグルトって何か身体によさそうですよね
腹ん中に乳酸菌ってめちゃめちゃ良さそうですよ」
「そうなの? 」
緋曖は一端、萩を見上げて棚に視線を戻した。
「じゃあ、ボクもヨーグルトにしようかな」
「オレ、ブルーベリー好きなんですよね」
と言って萩はブルーベリー入りのヨーグルトを手に取った。
「じゃあ、ボクはオレンジ」
会計を済ませると二人は公園に向かって歩き出した。
「すみません
こんなゴチになって」
『だから今更遅いって』
「今夜からキミがご飯作ってくれるんだろ?
期待してるから」
「そっちは任せて下さい
オレ、料理得意っすから」
萩は片腕を曲げ力瘤を誇示した。
『おいおい、そんな安請け合いしてるけど、本当に大丈夫なんだろうな
こっちは不味くても美味しい振りしなきゃなんないんだぞ』
と、思いながら緋曖は言った。
「処で、キミ仕事は何をしているの? 」
緋曖は目だけで萩を見上げた。
「老人の介護士です」
「へえ、じゃあご老人をお風呂に入れたりしてるんだ
ご老人のお世話って大変じゃない? 」
「超大変ですよお
中には偏屈な人とか居るし、めっちゃ肉体労働だし」
「へえー、そんな人の為になる仕事できるって偉いんだね」
萩は思い切り照れた。
「え、偉くなんか無いっすよ
好きでやってるだけだから」
『本当に明け透けな奴だなあ』
「キミは世話好きなんだ
解る気がするよ」
緋曖は笑った。
「緋曖さんは仕事、何してるんですか? 」
萩と視線がぶつかると緋曖は目を伏せた。
『そろそろ意識してる様に見せるか』
「その緋曖さんて言うの止めてよ
呼び捨てでいいよ
ボクの方が歳下なんだし」
「いいんですか?
オレ、世話になってる身だし」
「構わないよ
とにかく、さん付けは嫌だな」
「じゃあ、緋曖は何の仕事してるんですか?」
「ボクもキミと同じ様な仕事かな
サービス業みたいなものだよ」
『サービスもサービス、金も巻き上げるからね』
緋曖は屈託の無い笑顔を萩に向けた。
二人は他愛無い話をしながら歩き、公園に着くと適当なベンチを見付けて座り、トマトサンドを食べ始めた。
「やっぱ、外で食べると気持ちがいいっすねえ」
萩は身体を伸ばした。
「処でキミは何故、N市に行こうとしていたの? 」
萩の表情が曇った。
「人を探してるんです
N市に居るって情報あって……………」
「どうして、その人を探してるの? 」
萩はトマトサンドを持った手を膝の上に落とすと、眉間に皺を寄せて話し始めた。
「妹をめちゃくちゃにしたんです、そいつ
今、妹はS市の市立病院の精神科に入院してます
医者の話じゃ、妹はもう二度と、もとには戻らないと……………」
『ああ、篠崎ってあの娘か
なるほど……………………』
緋曖は真剣な目で萩を見詰めた。
萩は項垂れながら、身体を強張らせた。
「見つけたらそいつを、必ずぶっ殺す!! 」
萩は持っていたトマトサンドを強く握ってぐちゃぐちゃにした。
憎しみが込み上げた萩の握った手が細かに震えている。
緋曖の表情が微かに動いた。
『へえ、こいつこんな一面もあるんだ』
「ぶっ殺すなんて穏やかじゃ無いけど、酷い奴だね
早く見つかるといいね
ボクも許せないよ、そんな奴」
『面白い事になって来た…………………』
読んで戴き有り難うございます。
今、短編書いてます。
普通のBLマンガに出て来るような作品です。
何せBLマンガ雑誌に投稿しようと思って作ったストーリーなので、ひねりも何も無い。笑
BLマンガのストーリーは難しいです。
何せへらーっとしてないとダメで、しかもエロくないとダメで。
前に投稿した「添と静樹の場合」でさえ複雑過ぎるんですよね。
私には向きではないんでしょうね。笑
耽美過ぎるから、投稿してくるなと、最後には言われてしまいました。笑
今は小説で好きに書けるので、楽しいです。
パソコンに向かって小説書いてる時が一番、落ち着くし、倖せ感じます。
読むのは苦手だけど、書くのは凄く昔から好きなんですよね。
今は本当に倖せです。
好きな小説書けて、小説仲間ができて、水渕様がいつも見守って下さるんです。
そして、読んで下さる皆様も居て、有難い事です。