説得
読んで戴けたら倖せです。
眠る緋曖を傍らに萩は考え込んでいた。
『美緒の敵を早く見つけ出さなきゃ…………』
緋曖の頭の下敷きにしていた腕をそっと抜き取ると萩は身支度を始めた。
目を覚ました緋曖が萩の手首を掴んで言った。
「今日は休もうよ」
「美緒をめちゃくちゃにした奴をのさばらしては置けない
今この瞬間も別の誰かを犠牲にしようとしてるんだ」
Tシャツから頭を出すと萩は緋曖を振り返り言った。
「緋曖はどうするの?
病み上がりだから無理しない方がいいよ」
緋曖は不貞腐れてベッドに倒れ込んだ。
「ボクは、今日は行かない」
だが急に不安になって直ぐに起き上がり萩を求めてリビングへ行った。
萩はキッチンで遅い朝食の支度をしていた。
緋曖は萩の背中に抱き付いた。
「どうしても、行くの? 」
萩は米をとぎながら言った。
「一日でも早く見付けたいんだ」
緋曖は目を伏せた。
「解った
ボクも行く」
二人はその日もN市を訪れ、あても無く篠崎美緒を狂わせた男を探し求めた。
だが、情報などある筈が無い。
緋曖は一度もN市へは来てはいないのだ。
陽はとっぷりと暮れ、緋曖が缶ジュースを買って戻って来ると、萩は駅前のベンチに座り込んで頭を垂れていた。
「萩…………」
緋曖は萩の隣に座って言った。
「ねえ、諦める訳には行かない? 」
突かれた様に萩は緋曖を睨んだ。
「緋曖は、あんな極悪人を許せと言うのか?
人を次々と狂わせる冷酷な悪党を! 」
緋曖は胸がズキンと痛んだ。
その言葉を誰に言われるよりも萩に言われるのが辛かった。
「でも…………
これだけ探しても一つも情報が無いって事はそいつ、もうこの街には居ないんじゃないかな」
萩は強い憎しみを滾らせて言った。
「絶対、殺す………」
緋曖は眩暈を起こしそうになった。
人を愛する優しさは時折人を弱らせる。
緋曖の心は深く沈んで行った。
「………………殺したら、その後どうする?
自首でもする? 」
萩は緋曖を見ずに言った。
「解らない…………………
自首するかも知れない」
「萩にとって、ボクの存在はどうでもいいんだ? 」
萩は驚いて緋曖を見た。
「緋曖……………」
緋曖は萩から視線を外した。
「萩が復讐を遂げたら、もう逢う事すらできなくなる
萩はそれでも平気なんだ……………」
萩は黙りこくって俯き、二の句が継げなかった。
萩の手に緋曖は手を重ねた。
萩はそれに応える様に緋曖を見詰めた。
緋曖はその目をじっと見詰め言った。
「もう、復讐なんて忘れて欲しい……………
ボクは萩に罪を犯して欲しく無い」
萩の心は揺れた。
それは萩にとって妹を取るか緋曖を取るかと問われているのと同じ事だった。
目の前に居る緋曖を、萩は紛れもなく愛している。
愛おしい、何を犠牲にしても惜しくは無い。
だが萩の脳裏に、狂った美緒がぼんやりと空を眺め、喜びも哀しみも無い時間に閉じ籠められた姿が映る。
愛する妹をこんな風にした男を決して許す事などできなかった。
萩は俯き目を閉じた。
時が静止した。
緋曖は小さな溜め息をつき笑った。
「ごめんね
いたずらに萩を困らせるだけだったね」
緋曖は立ち上がって言った。
「帰ろう
お腹空いたし、萩の料理が食べたい
せめて今だけでも……………」
萩は緋曖の華奢な背中を見上げた。
「緋曖……………」
緋曖は振り返り笑い掛けた。
「帰ろ」
萩に手を差し出した。
萩はその手を暫く見詰めてから握った。
玄関に入った途端二人は抱き合い口唇を重ね合わせた。
玄関から寝室に行くまでに、緋曖と萩は互いを愛撫し、着ている物を剥ぎ取り、ベッドに倒れ込む頃には全裸になっていた。
呼吸を乱し互いの肌をまさぐり、愛撫し合った。
萩は今置かれたジレンマを振り切る様に、緋曖は今この愛し合える時を貪る様に、二人は何度も求め合った。
読んで戴き有り難うございます。
二、三日前まで私の作品を読み漁って下さった方がいらしたみたいで嬉しかったです。
全部の作品読んで下さったみたいで、かなりの活字中毒な方とお見受けしました。笑
投稿時のキーワード、最近はあまり書かない様にしています。
読んで下さる方も定着しているみたいなので、その方たちが「この先どうなるんだろう❔」って思って、楽しみに読んで下さればなあと、ネタばれしないようにと思いました。
明日は最終回です。
どうなるか、皆様の予想は当たるでしょうか❔
私の作品をずっと読んで下さっている方はだいたい予想ついちゃうんじゃないでしょうかね。笑




