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溺愛の伝え方  作者: 小夜時雨
灰色結婚生活
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5.公爵夫人の節約

「リリエッタ様!何てお可哀想に…!」



リリエッタの嫁入り道具、自前のドレス3着と数点の家具、その嫁入り道具に含まれているラフィズリー家長女リリエッタ専属の使用人、エマは顔を覆い膝をついて叫んだ。


自分と変わらない間取りの部屋に、あろうことか自分が幼い頃より仕えている、この度公爵夫人となったリリエッタ様が押し込まれているだなんて。


ドレスも古着が3着、靴もアクセサリーも、これでは街中の娘の方がクローゼットを埋めていることだろう。



「それにかこつけ最近、旦那様がさらにリリエッタ様に冷たくいらっしゃる…!!


「……?そうでしょうか。」


「まあ!10年もあんなに冷たくされてらしては判断もつかないのでございますね…!」



ヨヨヨと泣き崩れるエマに、リリエッタは困ったように笑った。

確かに使用人サイドから見れば、最近のアルフレドのリリエッタへの風当たりは強い。


しかし10年耐えてきたベテランリリエッタにはそうでもないのだ。

多少機嫌が悪そうだな、その程度の認識なのである。


自尊心の低さにあるまじきメンタルの強さである。



「まあ、でもそうでございますね…今回ばかりは旦那様を少し同情いたしますわ…。」



リリエッタのために用意したありとあらゆるものをこうも完璧にスルーされれば多少は荒れよう。

しかしリリエッタには相変わらず伝わらない。


伝わるわけがない。



「やはり私がドレスを着ているのが見苦しいのでしょうか…。

エマ、使用人の服を数着貸していただけませんか?」


「とんでもございませんわ奥様!

奥様は、"奥様"でいらっしゃいますのよ!?」



アルフレドの機嫌が悪くなり数日、顔をつき合わせるたび"セティス家に恥じぬ服装を"や"似合わない服は着るな"など、やたらと服のことを言われるリリエッタの絞り出した答えがこれだった。


たしかにそうとも取れそうな言い回ししかできないアルフレドにも非がある。

しかしそれを使用人から伝えることは禁止されているのが歯がゆい。



「ううん…それでは一体セティス様は私にどのような服装をお望みなのでしょうか…。」


「奥様も"セティス様"でいらっしゃいますわ。」


「ああ、そうでした。旦那様、ですね。」



実はリリエッタ、アルフレドを名前で呼んだことが一度もないのである。

結婚をしてファミリーネームが同じになってしまった今、セティスと呼ぶことも出来ず、旦那様と呼ぶに至る。


まさか名前で呼んでくれるのでは、とアルフレドがこっそり淡い期待をしていたのはいうまでもない。

しかして旦那様と呼ばれるのも悪くはないらしく、呼び名に関しては細かく指示を受けていないのだ。


なので何故こんなにも服のことをとやかく言われているのかがわからない。



「セティス家の名に恥じない、華やかなドレスをご所望されておられるのかもしれませんわ?」



それとなしにアルフレドの助け舟を出すエマ。

しかしリリエッタはとんでもないとかぶりを振った。



「まさか、そんな、今は節制を心がけていますのに!」


「えっ…せ、節制、でございますか?」



王家の次に潤っているセティス公爵家で、まさか節制という言葉がでてくるとは。

エマは目を皿のように丸くし、主人の次の言葉を待った。



「ええ、ほら、先日、また例のお便りが届きましたでしょう?」


「ああ王家の…第1王女ベアトリス様からの?」



実は先日、なるべく外出を控えるべき(だと思っている)リリエッタに断れない案件が届いた、というのはこのことであった。


流石のセティス家でも王家の封蝋印を蔑ろにはできない。

アルフレドの多忙を理由に返事を延期していたのだが、ついに催促の手紙が届いてしまったのだ。



「確かセティス家にお呼ばれしたい、是非茶会を催して欲しい、とのことでしたっけ?」


「ええ、婚式も最小規模で終わらせていただいたので、私は陛下とまだお目見えに至っていないのです。


茶会や夜会をお断りしている噂をお聞きになり、外に出られない私をお気遣いしてくださってのお手紙だとは思うのですが…。」



この国の第1王女ベアトリスは、アルフレドの幼馴染といっても過言ではない。

アルフレドはベアトリスに、過去何度も婚約者に合わせろと催促を受けていたのだが、これは当の本人リリエッタには知らされていない。


なので"アルフレド主催"ではなく、"リリエッタ主催"のお茶会をベアトリスは希望しているのだ。


それがリリエッタにとって最大の問題であった。



「私は旦那様のお仕事に何も携わっていませんでしょう?」


「え、ええまぁ…奥様ですからね…。」


「かといって出稼ぎに行っているわけでもないのです。」


「は、はぁ…公爵夫人でいらっしゃいますし…。」



リリエッタの言いたいことがイマイチ伝わらず、エマは疑問符を表情で表す。

そうしてリリエッタは本心を吐露したのであった。



「私の不器量のせいで開くこととなったお茶会なのです、節制するのは当たり前でしょう?」

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