閑話
「本人がいいというならそれが一番でしょう?」
「それはそうですがまだ信じられませんよ…。」
まだ辿々しい拙い会話ではあるが、アルフレドとリリエッタは最近食事中にも交流を深めていた。
そんな二人を影から観察しながら、それぞれの専属使用人エマとヴィンセントはあれこれやと言い合っていた。
ついに進展があったと、屋敷の使用人達は喜んで涙を流すものもいた先日のこと。
その喜びに水を差すような、いや至極まともな客観的な意見でその場はすぐに静まることとなる。
事の発端は最近屋敷に新しく雇われた若い女性の一言。
「10年もダメだったというのに本当に奥様を幸せにできるんですか?そんな都合よくいきますかね。」
その言葉にエマとヴィンセントは特に反応していた。
エマは幼い頃からリリエッタに仕えており、リリエッタの金銭的事情からなる逃げ道のなさをよく理解している。
逃げ道がない、つまり選択肢がないからこそなるべく二人が上手く付き合えるよう試行錯誤したつもりだ。
それに対しヴィンセントはアルフレドが当主になってから雇われている、期間にすればおおよそ3年だ。
最初はとても女性に対する扱いではないと頭にきたものだが、なるべく行動で示すようあの手この手で好意を伝えんと画策するアルフレドに少し同情するに至った。
それにしても目に余るところは沢山ある。
ヴィンセントは、この10年のありとあらゆる暴言の数々を許し、愛人の嘘を許し、結婚生活を楽しみたいだなんてリリエッタが決めたことをいまだに信じられないでいた。
「政略結婚なんてもっと酷いところも多いですからねえ。」
「まあそう聞きはしますが……。
本当に奥様は、このまま結婚生活を続けるとおっしゃられたんですか?」
「ええ、逢引なさった日にそれはもう嬉しそうな顔でおっしゃってましたわ。
私はもちろんリリエッタ様の決めた事なら逆らうつもりは毛頭ございませんし、もしお逃げになられたいとおっしゃられた時は旦那様を刺す覚悟でございます。」
「怖い。」
確かに本人達が、主にリリエッタがそうしたいと決めた事なら外野に口を挟む権利はないだろう。
大半ならやめておけと止めるべきところであるが……。
「でも納得できませんねぇ、痛い目に合えばいいのにっ!」
「こらこら雇われの身ですよ、慎みなさい。」
「はぁ〜い。」
件の新人の言う通り、この後アルフレドは少し痛い目にあうこととなる。
これから幸せな結婚生活が始まる、もちろんそれだけでなく何処かでしっぺ返しが来ることはアルフレドもわかっていた。
嵐の予兆はゆっくりと、見えないところで生まれていたのであった。
申し訳ありません、感想の返信に凄く時間がかかってしまうことに気付いたので返信はこれまでとさせていただきます。
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