17.愛人契約終了
落ち着いたところで当初の目的であった修羅場でないお茶会が開かれた。
ミリアムと友達になりたい、その言葉に嘘はなかったようでリリエッタはここ1番の笑顔で会話を楽しんでいた。
リリエッタが知り得ないアルフレドのありとあらゆる苦悩を、契約破りもいいとこに赤裸々に語られ怒るアルフレド。
踊り子だった時の話や、この屋敷のご飯の美味しさなどなど沢山の話をミリアムと交わすことができた。
もちろんミリアムとだけ仲良くなりにきたわけではない。
これまで一度もしっかりと話し合ったことのなかったアルフレドと、会話を楽しむことが一番の目的である。
嫌われているわけではない。
それが自信のないリリエッタの背中を後押ししてくれた。
一通りミリアムと打ち解けた後、アルフレドに会話を振ろうとしたリリエッタより先に、焼き菓子を両手いっぱいに抱えながら頬張るミリアムが口を挟んだ。
「でもオクサマ、こんな顔だけ男のどこが良かったんです?顔だけですよ?」
失礼な物言いである。
しかしリリエッタに強く当たるアルフレドには否定する権利もなく、くっと悔しそうに口をゆがめただけであった。
しかしそんなミリアムの心無い言葉をやんわりと否定するように、リリエッタは微笑みながら言葉を返した。
「いいえミリアム様、それは違いますわ。
私が気付かなかっただけで、旦那様は行動で示してくださっていたこともありましたから…。
旦那様が素直になれなかったように、私もそれに向き合おうとしなかった、だから気づけなかったのですわ。」
「聖女すぎません……?浄化されそう……。」
向き合うも何も暴言ばかりだったと思うのだが、この際それは置いておく。
それに…、とリリエッタはくふふと含み笑いをしながら続けた。
「実は昨日エマに…ああ、エマは幼い頃から私に仕えてくださっている使用人なんですけれど。
そのエマに聞いたんです。
毎年私の誕生日にセティス家のお名前で届いていた贈り物、実は旦那様が全て選んでくださっていたものだそうで。」
「は!?なんでそんな、おま……お前のために選んだわけじゃない!」
「ハハ、ちょっと気持ち悪いですね!」
「うるさい!」
こうして友人と軽口が叩ける日が来るなんて、夢のようだとリリエッタは幸せを噛み締めた。
まだ自分に自信はなく、アルフレドと対等に話すことは難しいだろう。
が、あれから数日アルフレドもすぐに暴言を直すことはできず、以前よりグッと数は減りマイルドになったとはいえまだまだ普通とは言えず。
そこはおあいこだと思うようにした。
顔を真っ赤にしてミリアムと言い合っているアルフレドを見つめると、なんだか力が抜けてしまった。
あんなに怖がっていたのが馬鹿みたいだ、リリエッタは一人笑った。
「なんだ!何がおかしい!」
そこをちょうどタイミング悪くアルフレドに見られてしまい、笑われたとアルフレドは声を荒げる。
少し前までそんな声で何かを言われれば、萎縮して謝ることしかできなかった。
「いいえ旦那様、とても幸せで……勝手に笑ってしまうのでございます。」
しかし今は、言いたいことをちゃんと伝えられる。
やっと二人の関係がスタート地点に立ったと、部外者ながらミリアムは思うのであった。
さて日もすっかり傾き過ごしやすい気温になってきた頃、その日のお茶会は解散された。
もちろん後のディナーにミリアムも参加する約束をして。
今日、実はミリアムが屋敷にいる最後の日なのである。
それは2日前ほどに急に決まったことで、お茶会の日に被ってしまったのは全くの偶然。
仲良くなれたのに去ってしまうのは寂しくもあるが、また街で踊り子をやるそうで。
住まいもまだ引き払っていない部屋があり、それにたんまりもらった愛人料にさらに色をつけてもらっている。
生活する分にはしばらく困らないであろうことをアルフレドから聞かされたリリエッタは、安心したように胸をなでおろした。
まもなくディナーの時間となり、あれだけ茶菓子を食べたというのにしっかりと一人前食べるミリアムにリリエッタは尊敬の眼差しを向けるのであった。
そうして、荷物をまとめたミリアムは屋敷の門の前でアルフレドの見送りの言葉を聞き流してリリエッタに喋っていた。
「もう我慢ならないと思ったらいつでもうちに来てくださいねオクサマ。」
「ふふ、ええ、ありがとうございますミリアム様。
ミリアム様もお元気で、またいつでも遊びにいらしてくださいね?」
「もちろん、タダ飯あやかりにきますよ。
…リリエッタも元気でね、いつかそこのデカブツと私の踊りを見に来て。」
「…!
はい、ええ、ありがとうミリアム…必ず行きます!」
感動のお別れシーンに、なんだか面白くない様子のアルフレド。
表情にでる分物凄くわかりやすい、仕方ないなとミリアムはアルフレドに向き直った。
「もーオクサマいじめるんじゃないですよご主人。
……お世話になりました、またねお二人さん。」
「貴様に言われんでもわかっている……俺も世話になった、達者でやれ。」
「お元気でーー!」
そしてミリアムはセティス家当主との愛人契約を終了し、屋敷を去っていったのであった。
余談であるが、その後三日に一度のペースで遊びに来られ、アルフレドに叱られたという。
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