16.決戦のお茶会
「いや、ちょっと待ってください、修羅場なのでは!?」
先日めでたいことに初めて自身の素直な心を伝えることに成功したアルフレド。
しかしその時の彼女の笑顔とセリフに肝を冷やし、それを喜ぶどころではなかった。
満面の笑みで、愛人を含め、3人でお茶をしましょう、と。
そのままをミリアムに伝えると、彼女の顔色はサッと青色に染まった。
そして冒頭のセリフにつながる。
これはどこからどうみても修羅場になる、絶対に行きたくない、契約にない、とジタバタするミリアムを引っ張り出して庭へ向かった。
そう、本日はそのお茶会の日である。
本心を言えばアルフレドだって怖いのである。
彼女のあんな、いっそ猟奇的にさえ見えてしまう笑顔は初めてみたものだから。
加えてミリアムも呼べ、と。完全にお怒りである。
「こればかりは俺に非がある、しかしあのリリエッタの笑顔に逆らえばお前の命も危ないかもしれん。」
「いやいやいやあの可愛らしいオクサマがそんなことをするわけがない!
土下座でもなんでもしますからそんな針のむしろのような茶会欠席させてくださいよ!!
滅多に怒らない人を怒らせると怖い、リリエッタの場合は"滅多に"どころか"10年一度も"である。
底知れない怒りの波動をあの笑顔に感じたアルフレドは、実は三日ほど前からお腹を壊していた。
しかし欠席はできない、何としてでもだ。
試合会場は庭の東屋。
少しずつ本格的な夏へ近づいてきたため、日除けがある小さな東屋で、と彼女が提案してきた。
比較的気温が高くならないこの国と言えども直射日光は暑いということでの配慮である。
とりあえず屋敷の外へ引っ張り出してきたが此の期に及んでまだ脱走を図るミリアム。
彼女にしてみればとばっちりもいいところであるが、愛人という立場を金で買ってしまったため修羅場に立ち会うことに文句は言えまい。
それでも納得がいかないとわめき散らした。
「暑いとか関係ないですヨ絶対冷える、心が凍ってしまう。」
「貴様に限ってそんなことはない、凍るなら茶をかけてやるから安心しろ。」
「なんて冷たい!!」
「かけるのは淹れたてだ。」
「お茶の温度じゃないですよ!貴方の心の……。」
「まあ、仲がよろしいんですね!」
「「ひっ……!!」」
もうすぐ東屋へたどり着く、といったところで後ろから高い声が響いた。
そこにはあの日と変わらぬ笑顔を貼り付けたリリエッタが、いつものドレスを着て佇んでいた。
いや、怖い。
生存本能が脳内で警鐘を鳴らす。
ゆっくりと振り返り、彼女の姿を確認するやいなや、ミリアムは着ているドレスが汚れることに臆することなく庭の芝生に膝をつき頭をこすりつけた。
これは完璧な土下座である、きっとやり慣れている人の。
「すみませんオクサマついお金に目が眩んで愛人なんてやらせてもらってたんですけど別にそんな愛人らしいことなんてこれっぽっちもしていないしなんならご主人に指一本触れたことないですしドレスはもちろん部屋ごとお返ししますしどうかそのお怒りをお鎮めいただけませんですかお願いいたしますもうしません!」
息継ぎは、なしであった。
土下座からの言い訳からの謝罪があまりにもスピーディーな展開すぎて思わず何も言えず目を見開いたまま立ち尽くすリリエッタ。
おずおずとその隣で土下座の準備をするアルフレドにハッとしやっと思考が追いつき、慌てて二人の顔を上げさせた。
実を言うとリリエッタ、全く怒っていない。
「な、なんでそんなことになったんですか…?
私はただみんなでお茶をいただきたかっただけなのですが…。」
「そんなの、絶対に、修羅場じゃないですかぁ…!」
瞳にいっぱい涙をためたかと思えば次の瞬間ミリアムはワンワン泣き初めた。
金に目が眩んだとはいえ愛人として屋敷で暮らすなんて正妻にどんな嫌がらせを受けるだろうと覚悟していたにもかかわらず、リリエッタは超がつくほど温厚で怒るとは無縁の人だとタカをくくっていたから、ミリアムは本日本当に焦っていたのである。
自分の発言が何か誤解を生んだのだといちはやく察知したリリエッタは、何とかミリアムを宥めながら東屋へ座らせ落ち着かせた。
ここまでアルフレドはどうしたらいいのかわからず、無言である。
「何か私の発言により誤解を招いてしまったことは理解いたしました、申し訳ございません。
ですが今日は本当にお二人と交流を図りたくてお茶にお誘いさせていただいたのでございます、それ以外の意図は決してございませんわ。」
「なんでぇ…ヒッ…なんで愛人の私もなんです…?」
嗚咽交えながら問うたミリアムの疑問は、そのままアルフレドの疑問でもあった。
制裁以外の目的で、何故愛人であるミリアムと茶を飲みたがるのか。
その答えは全くもって単純明解であった。
「ええ、その、私お友達と呼べる方が一人もおりませんの。
人目に晒される夜会やお茶会は極力お断りさせていただいていたもので、これを機にミリアム様とお友達になれればと思いまして。」
「おっ…お友達……!?」
「コイツと!?」
流石リリエッタ、予想のはるか斜め上を余裕で飛び越えてくれる。
普通なら契約といえども愛人の立場であった女性を友達にしたいとは到底思えまい。
しかし変なところで強メンタルを発揮するのがリリエッタである。
少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、上目遣いに言った。
「厚かましいでしょうか…?」
「や、え、そんな、滅相も無い…!
私ただの平民ですよ、お貴族じゃあないんですよ?」
「まあ、そんな、お友達に身分は関係ありませんわ?」
「ひぇっ…眩しい、神さまかなにかなんですかこの方…?」
やはり温厚な美少女には後光がさして見えるそうである。
申し訳ありません、うまく区切れませんでした…。




