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思い出の下ごしらえ

ゴロゴロ、ごろ、ごろ。

深夜にタイヤと地面が発する重い音が近付いてくる。

所々にたつ街灯の光が、闇にぶれる気配をちらちら照らす。

目が光をはじいてキラキラ、ぎらぎらこちらを見据えているのが分かる。


街では小柄かつ細身のシルエットである。

鼻回りと胸元の白い部分以外が闇に溶け込みがちな彼は、マレーグマのバシンさんだ。


バシンさんは今日の収穫物であろう動植物を載せた大きな台車を押して来て、寄合所の入り口につけた。

入り口の強化ガラス越しに片手を上げてこちらに、よっ、と挨拶してくれる。

バシンさんがあんなに活動的なのを初めて見た。


「コーがこんな時間にここにいるのは初めてじゃないか。そこでフローに会って事情を聞いたが、本当にいたな。変な感じだ」

台車を外に置いたバシンさんがドアを開けながら話しかけてきた。

「私はバシンさんがはっきり起きていて、はっきりしゃべっていて、はっきり動いていることに変な感じがするんだけどね」

ナリスさん達に断って入り口でバシンさんと挨拶する。

昼間はふらふらしているか、木の上でうとうとしているか、家で寝ている人だ。


「客人の土産にほしいものがあったら持っていくと良い」

よってきたナリスさんやアレクサンドルさん一行とも挨拶したバシンさんは、気楽な感じで外の台車を示す。


「ありがとう。でも、依頼の品じゃないの」

「依頼じゃない。長老達がそろそろ定期の買取人が来ると言っていたからな。倉庫で在庫整理を始めるだろうから、その時に持ち込めば面倒な処理や仕分けをやってくれるんだ」

小型なクマが胸を張るが、それはつまりはどさくさに紛れよう作戦だ。


「だそうですよ。とれたて森の動植物です。いかがですか。未処理なのでお安くしておきますよ」

後ろの王国人と中央の商人達に話をふってみる。

褪せた金髪の商会長がふむ、と顎をさすった。


「ラストル雑貨店が未開の森部門を立ち上げたいと言っていました。王都までの移動を前提とした処理をしていただけるなら、全部でもいただきますよ」

「へー、そうなんですね」

ルーフェスさんが他人事のように相づちをうつ。


「なぜルーフェスさんがそのセリフなんです。ご自分のお店でしょう」

半目で突っ込むと、またカーライルさんが笑いだした。

「かっ、かっ、かっ。嬢ちゃん、それはあれだ。所有と経営の分離、ってやつだ。ルーフェスがまともな経営判断なんかできるわけがない。まあ、にいやとねえやは未だに坊ちゃまが経営の修行中だと信じているようだがな」



「加工については私から長老に言っておくよ。ありがとうバシンさん。ところで相談なんだけど、人間のお客様が森に早朝散歩しに行きたいって希望しているんだけどどう思う」

「人間が? なんのために?」

「オナガやロムみたいな連れ添える小動物を見つけたり。・・・獣人の女神を探したいんだって」

名前を呼ばれて、けきゅ、と鳴いたロムを見ながら説明する。


「なんだそれは。鳥はともかく獣人の女神とはなんだ」

「ナリスさん、お願いします」

半笑いのカーライルさんを見て説明を諦めた私は、王国人にふった。

「それは忘れてください。私をからかっているだけです。森の大変さをわからせて、お土産を渡して帰らせます」

「それはだめですよ。あんなに期待値が高いのです。がっかりの度合いが大き過ぎます。動く金庫を誰かに押してもらおうかと思ってはいるんです」

「コーが時々やっているやつじゃだめなのか。木の上から双眼鏡で森を見ているだろう、あれはどうだ」


バレていたのか。

私はたまに夕方から夜のあたりに木に登って森を見ている。

街のみんながあんな攻撃に対応できるなんて本当にビックリなのだ。

ちびっ子達が森に入る日等はケロッとした本人達の代わりに心配している。


「それだけだと盛り上がりにかけるでしょう。森に入りたくて、自分達なりに準備してきたらしいから、少しだけも入らせてあげたいんだ」

「嬢ちゃんの心配レベルはよくわからないな」

カーライルさんの言葉にみんなが頷く。


「長老カラスが森の入り口近くでちっこい何かの兄弟を気にしていた。長老手作りの巣で怪我を癒している。その子らを見つけたことにして引き取ってもらったらどうだ」

長老カラスがそんなことをしていたとは知らなかった。

「でも長老が気にかけているんでしょう。つれてけないでしょ」

「いや、それぞれアルビノだったり、怪我の完治が見込めなかったり、感覚的な欠陥があったりで相棒が必要らしい」


自然治癒が鈍るといけないからと様子見をしているらしいが、そろそろ限界じゃないか。

バシンさんの言葉にナリスさんが大きく反応した。

「それならあの三人がぴったりですよ。その子達について、長老におうかがいします。朝になればおみえですよね」

どうやら思い出のストーリーは完成したようだった。


あとはカイくんが来る前に、私達が寝ている状態を作っておかなければ。

心配性のお兄ちゃんオオカミは、睡眠時間にうるさいのだ。




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