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王国の人脈

むむむ、む。ムム。

困った。こういった場合、この世界ではどうすべきか。

隣の頼れるお兄ちゃんを見上げる。

カイくんは私が何かを考えていることはわかっている。

しかし、何か、はわからないらしい。

「何が問題なんだ」

私はオオカミフェイスに見下ろされるだけである。


王国の感覚に一番触れているはずのカイくんパパはもっと通じない。

「そうかそうか、元気だね」

そう笑って肯定的だ。


常識人に近いと信じてきたナリスさんは、今回の主犯者だから問題外だ。

リュートくんとヒューイくんはそそくさと、行きの護衛任務を終えたバルドーさんを引っ張って出て行ってしまった。

ナリスさん並みにキラキラしい、きちんとした小綺麗な雰囲気をまとった三人組は問題の張本人達なので聞けない。





穏やかなある日。

「先に話した友人が到着します。ご紹介したいのでうかがいます」

ナリスさんからそんな連絡が来た。

私は特に考えずに答えた。

「身軽なこちらが出向きます。お客様もお疲れでしょう」

気まぐれな猛禽類のメッセンジャーに、そんな折り返しの伝言をお願いした。

そうして、時間を見計らって白黒オオカミと一緒にナリスさんの家に赴いた。


ドミーくんは眠そうだったので、寄合所のベッドだ。

一応黒オオカミがいたほうがお客様が喜ぶかなと、サービスのつもりで昼寝中だったカイくんパパを起こしてもらって連れて来た。

着いてみれば、サービスどころか必須だった。


王国から、ナリスさんの様子を見に、オオカミ祭りに合わせて「遊びに」来た友人三人。正確には友人三人と従者または護衛のお付き六人。

外部の護衛兼案内役としてバルドーさん一家、そしてナリスさんと従者二人が加わり計十五人もの団体が、中央から街にやって来ていた。

私は対面して、事態を認識した。



街の入口をくぐると広がる各地商人の店では、珍しい団体にざわめいたという。


隊の組み方、風体が商人ではない。

物好きな観光客としては周囲を囲む護衛達がものものし過ぎる。

ハイイロオオカミがいないということは役人でも国賓でもない。


「護衛のバルドーがいるぞ」

「だが彼は商人から王族まで顧客というぞ」

「あの従者の紋章、あんなものを道具にいちいちつけるのは王国じゃないか」

「物好きの王国人はよくくるが、物好きが増えたのか」

「でも、だったら護衛が多過ぎないか」


滅多に来ないが他国の賓客がたまに街を訪れる。

そんなとき、街は知っていても何の統制もしない。

人間の振る舞いなど知らないが、安全だから別に良いだろう、面倒だ、とは若き日のケインくんの言である。

その後配慮を覚えたケインくんが、国のお客様の場合には一応付き添うようになった。


そうすると人間の商人達は心構えをして、積極的に売り込んだり、消極的に引っ込んだり、店を閉めたりする。

獣人的悪さをしない限り街は開かれている。

そのため獣人達のワイルドレーダーに引っ掛からなかったある種の困った人間達は街にいるのだ。そんな人達にはそれぞれ見つかってはいけない相手と関係者がいる。


団体は微妙な活気と警戒のなかメインストリートを進み、ナリスさんの家に着いたという。

私はこの様子を、長老カラスから聞いた。

白黒オオカミ達と合流したときに長老カラスが飛んできて、教えてくれたのだ。

「ちょうどよかった。人間達がこれまでにない反応をしている。おかしな団体が着いとるぞ」

「何だろう。ナリスさんのお友達のはずなんだけど。愉快な人たちというくらいだから、難しくないと思ったんだけどな」

「王国の紋章が見えた。王族かもしれんぞ」

「え。さすがのナリスさんもそれは、ねえ」

「問題かい。例え王族でも大丈夫だよ。なにが問題かわからないけれど、身の安全は保証するから」

カイくんパパがのほほんと言う。

そうか、そうだよね。



一度は流された私だが、お客人達を間近に見た今、正気を取り戻した。

違う。違う。そうじゃない。


「そうじゃないですよ。ナリスさん、これはどういうことですか。この街にみなさまにふさわしい設備はありませんよ。ホテルの部屋だって、飲食店だって・・・」

ナリスさんを部屋の隅に引っ張って行ってこそこそ話す。

カイくんパパが和やかに話をしているのでしばらく場はもつだろう。


「そのままで大丈夫ですよ。彼らは未開の森でキャンプしたり、オナガのような家族を見つけたり、私をからかったりしたいだけですからね。私の家か、森で泊まりますし、保存食は買えますし。王国人の持つイメージで、英雄達の街の生活をしたいだけですよ」

「いやいやいや。私達は普段、普通の家に住んでますよ。オナガは特殊個体でそうそういません。街のみんなは保存食以外が主食です。わがままに食べたいものを採ってきます。王国の方は誤解し過ぎです。ナリスさんちゃんとお伝えしてくださいよ」

「うーん。とても楽しみにしていたんですよ。従者達もサバイバル術を習いましてね。コーさんの足手まといにはなりませんよ。いざとなれば捨て置いて下さい」

「サバイバル術なんて知りませんよ。私が足手まとい以外のなにものでもありません」


「コー、コー。おやつを取りに行こうか」

森の中頃の樹の実が食べ頃らしい、あれなんて言ったかな、王国だとドライフルーツでしか流通してなかったはずだから良い思い出になるんじゃないかな。

カイくんパパが私の悩みをよそに、未開の森へ誘って来る。


ナリスさんが楽しいメンバーといっていたのは、傍目には面白いという意味だ。

王立学校の同級生だという三人は、女王の三番目の孫とその側近かつ婚約者である名家の次男、それに歳の離れた商人だった。



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