お祭りの仕掛け
うふふ、ふふ。フフフ。
オオカミ祭り当日。
普段は一度に見ることができない獣人達が集っている。によによしながら特等席でそれを眺めるコーさんである。
年一回中央で各エリアの代表者が一堂に会する代表者会議の場は非公開だ。一般民間人が一つの場に多くの種族が集合している様を見る機会は少ない。
今回は貴重な機会なのだ。
興奮が押さえきれない。
表情も声も自然に漏れる。
陸上での活動を苦としない獣人達が、既存店舗を間借りしたり、屋台を出したり、遊び回ったりしている。
なりきりセットを買ったり、レンタルした人間達が、年齢性別に関係なく獣人風になっている。
人間の店員さんが、そんな動きしないよというデフォルメポーズをしてお客さんを呼び込んでいる。
初めて中央に来た、という獣人達がホー、へーと周りを見回して、手元のガイドと見比べている。
今回旅行手配業者の販促費用を引き出した。
そうして各サテライト会場と中央を運賃無料で繋いでいる。動く金庫を定時運行している。人の動きは上々だ。久々に会う同郷人同士のやり取りは、そこここで繰り広げられている。種族ごとにも異なって面白い。
実行委員会ブースではお祭りバージョンのオオカミペンを無償で配っている。
各所に色んな獣人の旗が立っていて、旗の下にいる細工の得意な獣人にオオカミペンを渡してお願いすると、旗印とした種族をモチーフにした簡単な細工をしてくれる。
旗印とした種族の地に行ってみたいと思えば、料金を払ってペンに複雑な細工をしてもらう。
その細工を旅行手配業者に見せることで、対象地での宿泊、食事、ガイド付きツアーに参加できる。
普段は高かったり、治安がイマイチ不安だったり、現地での振る舞いがわからなかったりと決心がつかない獣人エリアへの旅行らしいが、今回はオオカミ祭り特別価格で、かつ現地での歓迎が約束されている。
どこにするー、と悩んで獣人達にオススメを聞いて回る人間達がいる。
中央の広場に造った簡易舞台。その横に、周りから視線を遮った箱形スペースを造った。四方に小さなマジックミラーをつけた。中から外は見えるが外から中は見えない仕組みだ。私はその中に入ってオオカミ祭り当日のメイン会場の様子を見ている。
「姿は見えないが、声と気配でわかるぞ」
外からカイくんの呆れ声がする。
獣人達が時々こちらを不気味そうに見るのはそのせいか。
「自分は行かないのか」
ケインくんの声もする。
ケインくんは説得した結果、最初の挨拶とお昼の振る舞い料理案内の時だけ舞台に上がってもらうことになった。
そろそろお昼時で、オオカミの大宴会を再現した食事の無料提供タイムになる。
代々、その時の役人オオカミが選んだ好物料理がビュッフェ方式で振る舞われるのだ。
「この光景をもう少し楽しんでからね」
「物理的な害はないが精神的に害があるんじゃないか」
「聞きに来たら説明して理解を得ている。説明に手間取っていると街のメンバーが助けに来てくれる」
ケインくんとカイくんが会話をしているが、イマイチ何のことかわからない。
面倒だ、といったケインくんに料理のセレクトも任されたのは私である。
フランクさんと初めて会ったときの、私のご同類が腕を振るうお店の料理。それをらをずらりと並べたテーブルを四方に登場させる予定だ。
カバのヒポテさん経由で焼き物屋台復活を承諾してもらった親父さんには、お弟子さん総動員でガンガン焼いてもらって焼きたてを順次テーブルに運んでいく。
料理の材料は各地の獣人達が地元で調達してきたものを提供しているので、中央では珍しいものが多い。
お祭り企画でおいしかった料理投票をやり、上位レシピについては舞台で公表する。飲食店や家庭でアレンジしてもらえるように。
大事なレシピの公開となるので、私はレシピ代を予算から出すつもりだった。
しかし、料理人達の腕試しに活用するからいらない、むしろ場を提供してくれてありがとう、と料理長に感謝された。
では、チャレンジ料理コーナーを設けて、好き嫌いの別れる料理もやってみませんか、反応を見てお店のメニューに加えるかどうか検討してみては、と持ちかけた。それも採用された。
自信と余裕のあるお店だからできる提案である。
お店で食べたことのない人にはその味がその店の味として記憶される。
イベントというのはそもそもリスキーで、さらにそこでチャレンジするというのは大きな決断である。
豪気な料理長は「その時は俺達の腕がその程度だったということだ。いずれたどる道だろう」と笑い飛ばした。
オーナー達は、良いよ良いよ、投資は回収済みだからね、と気にしなかった。
素材の紹介もするので、特産品をアピールしたい獣人達も積極的に食材提供に協力してくれた。
小競り合い程度はあるがおおむね無難に午前の部が終わろうとしている。




