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雇われ人と交渉

ごくごく、ごく、ごく。

「外でも香りを感じましたが、こちらも良いですね」

ある程度話がまとまって、テーブルも片付いたので、自家製のキンモクセイ茶を出してみた。

飲みやすく冷やしておいたところ、客人三人に好評だった。

カイくんパパがフラミンゴ獣人の店の新商品だ、と烏龍茶的な茶葉を買ってきたので庭のキンモクセイと合わせてみたのである。


「今回の出張経費概算はこちらです」

コルトさんが差し出した明細の合計額は、私が中央や王国に行く費用よりずっと低い。

今度から、ついでがなければこの手でいこうかな。

「わかりました」

「こちらに記した合意内容に問題がなければこちらにサインと拇印をお願いします」



「コルトさんとしてはこの金額どうですか」

「クライアントの姿勢を考えれば妥当じゃないですか。今回のクライアントは、同じ場所で商売を続けるつもりがあります。跡取りは王国人と一緒になっていますしね。子どもが生まれるそうですが、共和国の学校ではなく王立学校に通わせる心積もりのようです。共和国商人のしがらみで今回のような事態にしましたが納入業者が絡まなければ、黙っていたはずです」

「それはどういったしがらみですか」

「店に納入途中ということで、店側と納入業者側でも交渉になります。今回の減額分と私達を雇った経費も含めて。店側は獣人側に請求した事実と結果がなければ納入業者側との交渉で不利になりますし、共和国商人間の付き合いがよろしくなくなります。台車で道を塞いでいた商人が騒ぎ立てて、周りに共和国寄りの人間しかいなかったという事情もあるのです」

コルトさんがこちらを見遣る。

ふーん。


「王国に根付こうと思っているんですね。この国の人間の商人と継続的な取引を結ぶことはお望みですか」

共和国商人の中にも、長く外国にいれば考えが変わっていく人間もいるだろうと思っていた。

付き合いができそうなきっかけを探していたのだ。


「おそらく。ただし、共和国の銀行を使った取引がオススメです。あの国は自国の銀行から口座情報を提供させて違法取引の監視をしていますから、他国人との取引が見えないとあらぬ疑いをかけられます」

「わかりました」

こんな時のために、この街とも紐付かない口座をつくってあるのだ。

「依頼人の方にお伝えください。もしこの国の商人と試しに付き合うつもりがあるなら、今回の商品をすべて中央の商会が買い取りましょう。それから今後のお話をしませんか、と」

もちろん、今回の交渉とは別のお話ですよ。コルトさんからのお土産としてお伝えください。

私の言葉に、鷲鼻の交渉人はにっこり笑った。

交渉人も評判に左右される商売である。ただ示されたことだけをやっていても評価されない。

私としても話のわかる相手には生き残って欲しいのだ。



今日は遅くなりましたし、泊まって行かれるのですか。

聞くとコルトさんは帰るという。

経費計算が面倒なことになるので、仕事が終わったらできるだけ早く帰るのだという。

食事だけしていきたいというので、いくつかのお店を伝えておく。

午前中、寄合所で各店主が昨夜の成果や今日どこに狩りに行くか、話していたのだ。


この街のなかは単独行動しても安全ですよ、と言ったところ、私をそれなりに信頼してくれるらしい三人はそれぞれ別行動をして、馬車の時間に再集合するらしい。

職場への連絡や報告書の作成を終わらせて、移動時間を睡眠時間にあてたいという。

勤め人時代を思い出した。

まだ開けていない緑茶の缶をそれぞれにプレゼントしてしまった。


「ちょっと良いか」

玄関を出て庭を抜け、それでは、と見送ろうと思ったが、護衛のおじさまが残っている。

まじまじとみるとなかなかのマッチョさんである。

「はい」

「街を歩きながら話せるか」

「良いですよ」

私に話しかけているとわかるのに、私の頭越しにカイくんと視線を交わしているのはなぜだろう。

ちびっ子には、二人の視線を捉えられないのだ。

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