ハイイロオオカミと物件紹介
トントン、とん、とん。
「カーイーくーん。いーまーすかー」
カイくんの家の扉を叩く。
ナリスさん一行が街を経つ日の朝である。
扉の中ごろに固くないのに響きのよい、ノック用の板が付いている。
前に私が手を真っ赤にしてノックしても音がしなかったので、カイくんママがつけてくれたのだ。
「まあ、コーちゃん。何だかまたちっちゃくなった?」
灰色のオオカミが出てきてくれた。カイくんママである。
カイくんより大きく、カイくんパパより小さいカイくんママは、耳の動きがチャーミングだ。
「大きくなっていっているはずなんです。でも確かに、実感はないんですよね~」
カイくんパパは、耳の動きを最小限にして人間に合わせている。
反対に、カイくんママは野性を抑えず耳が良く動く。
過去の話を知ってしまうと理由があるのかもしれないと思う。
「カイね、調子が悪いって寝てるのよ。たいしたことはないと思うんだけど、万が一コーちゃんに悪影響が出るといけないから私に伝えてって」
カイくんはときどき調子を崩してしまう。数日苦しみに耐えると復活するのだが、頭痛や吐き気でひどいらしい。その間私は面会謝絶である。
「お客さんを送って中央に行って来ます。今日中か明日には帰って来ます。カイくんが元気になった頃にまたくるとお伝えください」
ナリスさん一行をバルドーさんと一緒に送って行こうかと思ったのだ。カイくんが元気だったら誘おうと思ったのだが、仕方がない。
「え、それは大変。ちょっと中に入ってお茶を飲んでいて。時間はある?」
さあさあと招き入れられ、リビングに通され紅茶をいただくことになってしまった。
「やあ、中央に行くんだって。ついでがあるから一緒に行こう」
カイくんパパがすぐ出てきた。
「いえいえ、悪いです。バルドーさんも一緒なので大丈夫ですよ」
慌てた私は手を振って言う。
「コーに何かあったらカイに会わす顔がない。この街のお客さんに挨拶もしたいしね。コーがわざわざ送って行くということは何かあるんだろう」
鋭いオオカミである。
「この前のヴァイルチェン家の若様が街に定住したいとやって来たんです。街と仲良くなりたいんだそうです。それとお付きの人が四名いて、うち二人はダイルさん付きだそうです。ダイルさんがここにいると思って来たんです。拠点を中央にした方が良いとアドバイスしたので、アレクサンドルさんに引き継ごうと思っています」
簡単に説明する。
カイくんパパはうんうんと聞いてくれた。
「ああ、それは良いね。ここに定住するのはオススメしないね。フランクに繋いでも良いかもしれない」
「その手もありますね」
「確か改装したばかりの空物件があったはずだ。気に入ってもらったらおまけするよ」
なんとちょうどよい所有物件があるらしい。
大家さんが同行するなら契約も早い。
「突然ですみません。よろしくお願いします」
カイくんママが私を見て言う。
「コーちゃん以外は住めないわよねえ。よくみんなで話すのよ。コーちゃんは何の種族なのかしらと。外見は一見人間だけど、生態がねえ。普通の人間はここは無理よねえ」
自分で昨日思った内容だが、他人に言われると何だか複雑である。




