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獣人達とセレモニー

ザワザワ、ざわ、ざわ。

広場のざわめきが強化ガラス越しに強い気配となって伝わって来る。

期待の高まりが感じ取れる。


アレクサンドルさんとカーライルさん、バルドーさんとカイくんに囲まれ、英雄達の街関係者に割り当てられた部屋でセレモニーを見る。

ここは2階で、窓からは王国関係者が座る正面が斜め前にみえる。

丸く広場を囲む右翼に当たる場所だ。

眼下に広場がある。王宮前からこの広場の建物沿いに観客が詰めかけている。


予定通りなら私もあの隅の目立たないところで、カイくんに抱えてもらってキャーキャー言ってたはずだったのに。このベストポジションだけは、けがの功名といえるかな。

王国の鼓笛隊が、軽快なリズムを奏で出した。



獣人の子ども達が整然と広場に入場する。

広場の中央直径25メートルほど、観客達から十分な距離を取ったところ。その地上で、地面すれすれで、上空で、駆け回り飛び回る。

午前中なのに、深夜の森を照らし出したようだ。

ざわめきが大きくなる。

月光に光る目はないが、動きは獲物を追う捕食者のそれだ。

木立も岩もない。遮るもののないその一帯を小さな獣人達が支配していた。


女王の側から黒オオカミが進み出て、女王にうやうやしく礼をした後、獣人達の支配地に近づいていく。

音楽が止む。スウッと身体を膨らませたあと、オオカミは軽い感じで咆哮をあげた。


ざわめきが消え、咆哮の余韻だけが残ったかと思うや否や、いつの間にかちびっ子達が開けた場に、身の丈ニメートルを優に越える大人たちがスーッと登場していた。

陽光を跳ね返す胸の金ボタンが眩しい光の線を描いていく。

線の伸びが止まったと思ったら、獣人達は一斉に女王に視線を向け、片手を胸にあてる。


再び黒オオカミの咆哮。

獣人達が、人混みの中に、建物の陰に、屋根の上に、上空に、四散した。

二回の咆哮の間は、一分もあっただろうか。

静まり返った広場に響く余韻の間でしかなかった気もする。


「大したもんだなあ」

「不思議な身振りでしたが、街ではどんな意味があるのですか」

カーライルさんとアレクサンドルさんが言う。

「俺はみたことないが、カイはわかるのか」

バルドーさんがカイくんに聞く。

「人間のハンドサインじゃないのか。コーが演技指導していた」

「いや、見たことも聞いたこともないぞ」

「伝えられている仕草も合図もないと聞いたので、何か一つあった方が締まるかと思いまして」


女王と聞いて、騎士と連想した私は、エル・グレコの絵画を思い出したのである。

胸に手をあてる騎士。この世界でこの仕草に周知の意味がないことを確認して、採用したのだ。

凛々しい顔でやってね、と言ったらみんな不思議がりながら応じてくれた。


概ね成功じゃないかな。正面の王国関係者席にぼうっとした顔がいくつかある。

さて、このあとの宴はお流れかな。そう思って今後についてアレクサンドルさん達と相談しようと思ったとき、部屋の扉がノックされた。


カーライルさんが扉に近寄り、バルドーさんが私達を隠す位置に立つ。

「はい」

「ヴァイルチェンです。先ほどはうちのものが大変失礼しました。お詫びに参りました」


私一人です。その声にカーライルさんとアレクサンドルさんが頷きを交わす。

カーライルさんが扉を開ける。

立ち上がった私達は、ダイルさんを更にしわしわとしたらこうなるという、白髪の紳士を迎え入れることになった。

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