側近達と舞台裏
ドキドキ、どき、どき。今更ながら、今生初めてレベルに心臓が脈打ちだした。
女王即位周年記念式典の舞台裏である。外ではセレモニーが始まっている。
ダイルさんの母方関係者、血縁者の側近達と会ってきた。
退室した後、やらかした! と自覚しだした。
「大丈夫か。雑貨店に帰るか」
退室後に私を抱え上げて歩いているカイくんにはどきどきが明白である。
「どうした。何かされたのか」
部屋の外で待っていたカーライルさんが心配そうに私達を見回す。
「ここの部屋に戻りたい。みんなの勇姿を見ないと後悔してもしきれないよ」
少し時間が必要だ。
王宮の中でも、平時から観覧客立入可能のエリア、その一部客室が今回のセレモニー関係者に割り当てられている。英雄達の街関係者の部屋も割り当てられていたが、私達はダイルさんの母方のヴァイルチェン家の部屋に呼ばれていた。
ヴァイルチェン家で調べてもわからなかったのが私とカイくんだったので、二人だけで来るよう言われたのではないか。カーライルさんが教えてくれた。
カーライルさんも部屋に入りたがったのだが、明らかな武力が入ることを拒まれ、扉の前でヴァイルチェン家の護衛と共に待機となった。
そうして自称当主側近二人と話をし出した私であったが、途中で喧嘩腰になってしまったのである。
「旦那様のお若い頃によく似ておいでなのに」
「あのようなもの言いを」
「覇気がないかと思えば急に怒り出して」
「あの獣人がいなければおおごとになっていた」
「洗脳されているのではないか」
「とても旦那様に会わせられない」
自称側近達の話から推測するに、ダイルさんはコリーちゃんと引き離されて一人で彼らと会ったらしい。
最初はしおしおしていたダイルさんだが、獣人蔑視的な言葉に反応して攻撃的になったらしい。
獣人達の中にいるせいでこのようになってしまったのだという意見が出たところで、感情を高ぶらせたダイルさんが嘔吐し、吐血するにいたって、隣室で心配していたコリーちゃんが扉を力づくで開け、ダイルさんを回収して去った。
そんな顛末のため、ダイルさんはいまだに親族と対面出来ていないという。
ダイルさん達と連絡が取れなくなった自称側近達は、素知らぬふりで今日のセレモニー後の会合を打診してきたらしい。本人行方不明のままでどうするつもりだったのか。
とりあえず関係者で素性のわからない「コー」にチェックを入れてから、会合に臨むつもりのようだった。
まあ、私が途中でイライラし出して切り上げてしまったのだが。
「いい大人がこれだけの人数の商人を動かして、結果を出さず、落としどころも用意していないなんて」
「ヴァイルチェン家の方は誠実で仁義にあついと聞いておりましたのに。これではダイルさんが病をおして旅をしてきたことが報われませんわ」
「これから結果の出る取引がありますので失礼します」
特殊素材スーツにコート、後ろに大柄な白オオカミを従えた謎の高慢令嬢バージョンコーさん登場である。
恥ずかしくなってきた。
何故あの口調。顎をあげてしゃべっていたよね私。
絶対あれはカーライルさんのせいだ。無意識に刷り込まれたんだ。
あれ以上喋らなくて良かった。




