実家と商い
うわあ、わあ、わあ。
リュートくんとヒューイくんが歓声を上げている。
余裕を持った旅程最終日、最徐行の私達も昼にはなんとか予定通り王都に入った。
コリーちゃんとダイルさんは、偶然誰に会うか分からないので、さっさとダイルさん母の関係者が用意したホテルに送り込んだ。そのうち感動の対面をするだろう。ここからは別行動だ。
今日私が公の仕事としてすべきことは、我が国の王国駐在員に、街の住人とお客様達が到着した旨の報告である。
到着した各集団は、王都にある目立つ建造物、王国のシンボル時計台を目指して歩き、その下のとある店舗に到着した旨言付けていくことになっている。
そこでは今日の宿泊施設までその場で手配してくれるという。
団長秘書の私はそのお店に行き、言付けを確認する手筈だ。
全員到着が確認出来れば皆の宿泊場所一覧を受け取って、駐在員事務所に行けば良い。
時計台の下は広場になっていて、小売店と飲食店が立ち並ぶ。
屋台も出ていてここまでで1番の賑わいだ。
リュートくん達が思わず声を上げたように、たくさんの情報が目に飛び込んできて、楽しい。
広場で、最も丈夫そうな石造りのラストル雑貨店に言付けてね、と獣人達に言ったのは私だ。
アレクサンドルさんにアドバイスされた方法で、お店には話を通してあるから大丈夫だと言われている。申し出に甘えてしまったが、心配だ。
めったに見ない大柄な獣人たちが出入りしてお店に迷惑を掛けていないだろうか。
「すごい人だかりだぞ。何をやっているんだろう」
リュートくんのワクワクした声に、バルドーさんと行ってきたら、と言おうとしたら、アレクサンドルさんに先を越された。
「多分目的地です。時計台広場名物ラストルの酔狂でしょう」
今までアレクサンドルさんに感謝していたが、撤回したほうが良い気がしてきた。
心構えのために、聞いてみる。
「何ですか、その怪しい名物。聞いていませんよ」
「ラストル雑貨店は、王国有数の大商会が、伊達や酔狂で出している店です。大商会の余裕と言うか、利益還元と言うか、収支度外視で、話題を提供する場所です」
立派な三階建ての建物に、流麗な書体でラストルと書かれた看板が掲げられている。
隣の店の三倍はありそうな敷地と建物だ。店先の人だかりの向こうに、水牛獣人のギースさんの角が見えた。あの太く凛々しい角は見間違えようがない。
「カイくん、何が起こっているの。ギースさん大丈夫?」
カイくんが私を抱え上げながら答えた。
「街の子ども達が跳び回っている。ギースさんはそばで固まっている。どうして良いか分からないんだろう。覚えがある。周りを人間が取り囲んでいて、かわいいだの、かっこいい、だの言っている。店員が慣れた様子で人の整理をしているから危険はなさそうだ」
カイくんの首に掴まった私は、制服を着た店員のひとりと目が合った。
女性は笑顔になり目礼すると、店内に入って行った。
すぐに店の脇から、貫禄のある男女を連れてくる。
カーライルさんよりちょっと年上といった二人である。
笑顔の二人が近付いてくる。
「みなさまいらっしゃいませ。お待ちしておりました。どうぞこちらから中へお入りください」
「坊ちゃま、お帰りなさいませ」
ルーフェスさんが自然に応じる。
「ただいま。今回は何を?」
「みなさまがお立ち寄りやすいよう、英雄達の街フェアです。関連グッズを取り寄せました。みなさまがお立ち寄り下さるので大変盛況です」
「みなさまに危害のないよう、警備のものを店員に紛れ込ませてあります」
ルーフェスさんの実家は面白い商売をしているらしかった。




