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カラスと採集

バシバシ、バシッ、ばしっ。

カートの窓いっぱいを、カラスの黒光りする翼が覆っている。

翼が窓に叩きつけられる音と迫力に、リュートくんとヒューイくんが怯えている。


私はためらいなく大きく取ってあるカートの窓を開けた。

「コー、あっちじゃ。群生しとる」

黒々とした翼を操るカラス獣人が、器用に身を縮めて窓から飛び込んできた。

羽が数枚落ちた。

「無理しちゃダメですよ」

このカラス獣人は街の長老衆の一人であり、フィルター職人のまとめ役である。

「なんの、これくらい。昔は相棒と縦横無尽に狩りをしたもんじゃ」

相棒とはカイくんパパのことである。


長老カラスは、若い頃、王国と我が国の間辺りを縄張りにしていた。

カラスが人間によく思われていないことを知り、人間の少ない所を選んで生活していたという。

そこへある日、王国と我が国両国からの共同依頼で元首の護衛団に参加していたカイくんパパが哨戒としてやって来た。

若き日の長老カラスは普段見ない獣人を心配し、周辺の危険生物や最近の災害で大勢の通行に耐えられない道などの情報提供を行った。


二人は意気投合した。カイくんパパは堂々と現地案内人としてカラス獣人を連れ帰り、両国もその知識を認めた。

そうして二人は一緒に害獣駆除や採集の依頼を受けるようになった。

時が流れ、カイくんパパの人柄ゆえか、人間主体のイベント参加が多くなってきたところで二人は一人と一人になった。

やはりカラスは好かれんじゃろうと、長老は街の長老カラスになった。

長老は普段街と未開の森を縄張りにしているが、今回、王国の昔馴染みと会うといって、カイくんパパ隊の荷物の上に乗っていたのだ。

カイくんパパ隊は狩り中心になりがちなので、私の方に飛んできたのだろう。


「採集、良いですか」

私と半自動カートに同乗しているリュートくん、ヒューイくん、ダイルさんに聞く。全員頷いてくれた。

外を歩くカイくん達にも告げ、上空のコリーちゃんにも合図し、カートのハンドルを切る。

角度が不安だったのか、カイくんが腕を添えて車体を誘導する。


このカートは楕円状のカプセルのような躯体に四つの車輪が着いていて、四輪駆動である。

サスペンション付きで悪所も大抵問題なく乗り越える。

シリーズは、大型のバス大から小型の一人乗りまである。

柔軟な特殊素材が使われており、大抵の動物の体当たりはボヨンと弾き返す。

太陽光を主電源に車体の軽量化と防衛強化に性能のほとんどを振っている。外部動力の接続も可能である。


なにが言いたいかというと、この半自動カートは、単独では、遅い。

体感だが、時速10㎞くらいまでしかでない。

いまは時速4、5㎞しか出していないので、周りをカイくんやバルドーさん、アレクサンドルさん達が悠々歩いている。

衝撃吸収力が高い反面、外部から容易に動きを制御される。

今も小さな石を踏んでふらついた車体を、カーライルさんにポヨヨン、ザリ、ザリと立て直してもらった。

最初など、チーター兄弟におもちゃとしてポーン、ポーンと動かされ、酔った。


この半自動カートは動かしやすい金庫のようなものだ。

いざというときの護りが優先されており、単独の長距離移動用としてはあまり選択されない。

車体ごと奪われてしまうリスクがあり、安全な街なかの公共交通機関で連結して運行されているのが一般的な代物だ。

多くの獣人達にとって、乗り込むのはまどろっこしい。


今回の移動計画で、関係者の多くは、私にこの金庫に納まるよう推奨した。車体ごと奪われっぱなしという事態はまずない布陣であり、不意討ちに備える意味でも、万々一なり振り構わず逃げるときでも便利であると。

正直私だけが予想外だった。遅すぎる。恥ずかしい。

一人乗りは辛いので、ダイルさんとリュートくん、ヒューイくんを道連れにした。


開けっ放しの窓から外にも聞こえるよう説明する。

「ちょっと珍しい植物です。フィルターに使う部分が目当てなんですが、それ以外は、消臭剤の原料だったり、香料として高く売れるんです」

「覚えて僕達も探そう」

ヒューイくんが嬉しそうに言う。

私は悲しい表情を作って首を振った。

「喧嘩っ早い鳥と小動物達が蜜を好むんだよ。普通の人間には集団で連携して襲ってくる。自分たちより明らかに強い個体には向かってこないから、外のタフガイ達と、そうだなあ、ハッシュさんとシェーヴェさんを呼ぼう」

今回、王国の支援者達に新組織立ち上げの挨拶すると、ハッシュさんが離れて同道している。お付きを兼ねて、末っ子達に狩りを教えたいシェーヴェさんも一緒だ。


アレクサンドルさんが、後部座席のダイルさんに話掛ける。

「すみません。ついたら私だけ乗せてもらえますか」

ルーフェスさんが、え、外?と言っている。


私は、決して、根に持ってはいない。

動く金庫に微妙な顔で乗った瞬間、ルーフェスさんに笑われたことを、根に持ってはいない。

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